小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『ECと店舗のギャップを埋めるOMOの威力』
(2026年05月12日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

ZOZO 26年3月期の販管費内訳
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コロナ禍を経てECは店舗販売と並ぶアパレルの主要販路となったが、マーケティングのスタンスやマーチャンダイジングの組み方、物流や販促のコスト感覚など、びっくりするほど両者の視点(KPI)は異なる。そのギャップが露呈するのが、両者が交錯するOMOではないか。

 

■アパレル販売に定着したEC

 

外出が規制されたコロナパンデミック期にアパレルのEC比率は急上昇し、規制が解除されて商業施設に賑わいが戻った後も購買慣習として定着した感があるが、コロナ前19年から直近の25年でアパレル販売のEC比率はどれほど上昇したのだろうか。

 

経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によれば、「衣類・服飾雑貨」のEC比率は19年の13.87%が24年(25年の発表は8月末になるが大きくは変わらないと思われる)には23.38%と9.51ポイント上昇している。主要な大手アパレルでもユナイテッドアローズ(単体/3月決算)が20.0%から26.3%へ、TSI(ECに強いデイトナインターナショナルの買収も寄与/2月決算)が23.4%から31.0%へ、アンドエスティHD(旧アダストリア/2月決算)が19.6%から29.5%へ、オンワードホールディングス(グループの国内EC展開事業売上対比/2月決算)が14.0%から28.3%へ、パルグループホールディングス(衣料品事業のみ/2月決算)が15.8%から40.8%へ、と各社で絶対水準には格差があるものの最小6ポイントから最大25ポイント上昇している。

 

三陽商会(EC以外の通販も含む/2月決算)のように12.7%から15.2%とわずかしか伸びなかったケースもあるが、同社はSC・路面店販路も19.3%と19年から伸びておらずアウトレットがその7割を占め、百貨店が19年の62.3%から25年の61.8%とほとんど低下していない。同期間にオンワードHDが百貨店を65.7%から24.8%へ、SC他リアル店舗を13.9%から46.9%へ、ECを14.0%から28.3%へと大きく変化させたのと比べれば、販路政策が無策だったと指摘されても致し方あるまい。ECも販路のひとつであり、その比率は自社運営比率も含め、政策的に仕組まれるべきだ。

 

OMOが進む過程で社内の貢献評価も関わって「EC売上高」の定義が混乱するケースもあるようだが、OMOで先行する欧米企業では受け取り方法の如何によらず「オンライン決済した売上高」と定義されているようで、経済産業省も「受発注がオンラインで行われる取引の金額」と定義している。ECから取り置き・取り寄せ試着して店舗で決済すれば「店舗売上高」であり、ECで最寄りの店舗在庫を引き当ててオンライン決済し店舗受け取りすれば「EC売上高」になるわけだ。

 

■アパレル販売のEC比率はどの程度が適切か?

 

似たようなアイテムでも各社でパターンや縫製仕様に差があり、試着を欠いては購入が難しいと思われてきたアパレルがここまでECで購入されるようになったのは、バーチャルフィッティングアプリやスタッフスタイリング投稿があってこそだが、顧客アプリや「店舗での試着体験」というOMO効果も大きかったと思われる。

 

パターンや縫製仕様が確立しているはずの「ユニクロ(UNIQLO)」や「ギャップ(GAP)」でも、デザインや年式が違えばフィットは少なからず異なるから、手持ちのアイテムと同じアイテムでも試着しないと失敗するケースがある。「ユニクロ」でも「ユニクロ:シー(UNIQLO:C)」はかなりのオーバーサイズだから、「ユニクロ」と同じだと思ってサイズを選ぶと失敗は必定だ。ましてやデザイン性やトレンド性の強いブランドでは毎シーズン、試着してフィットを確かめないと危ない。

 

「店舗での試着体験」というOMO効果があってこそ、ここまでアパレルのECは伸びてきたのであり、バーチャルフィッティングアプリを過信すべきではない。ECに依存するD2Cアパレルが地域ごとに定期的にポップアップストア(期間限定店舗)を繰り返し、新規顧客を開発し既存顧客とコミュニケーションするのは必定なのだ。

 

アパレル販売のEC比率はどの程度が適切か、価格帯やデザイン性、パターンや縫製仕様の汎用性や安定性、売り切りの横売りMDか継続販売の縦売りMDか、販売方法と店舗運営コスト、倉庫運営システムと物流コストのバランスなどで大きく異なるから共通する正解はないが、店舗販売からECを広げたアパレルチェーンがOMOマーケティングで効率化・高収益化を図るなら20〜40%が妥当ではないかと思う。それ以下では店舗とECを使い分ける購買慣習が地域顧客に定着しないからOMOを前提とした店舗と在庫の適正配置が組めず、それ以上になると後述するようにMDが「点」(単品)の集積になって「面」が崩れ、価格訴求に流れて客単価が落ち、LTV(長期顧客化)も崩れるからだ。

 

■店舗販売とECのMDとVMDの違い

 

店舗販売とECの根本的な相違はMDの組み方と見せ方(販売方法)にあり、売り上げの作り方やコストの構造も大きく異なる。

 

ECではカート登録するSKUとそれを検索集約した品番がMDの訴求単位であり、それらを検索構成したサムネイルが「面」の品ぞろえを訴求する。サムネイルはアルゴリズムが顧客毎に自動構成(顧客も選択検索できる)するから、売り手が「面」の品ぞろえを統一的に訴求できるのはゲートページに限られ、今日の主流デバイスとなったスマホの縦スクロール画面では品番という「点」を類似品やコーディネイトといった「線」に展開するのが限界だ。

 

対して店舗販売では売り手が店舗空間を全景→コーナー(シーンやカテゴリー)→ユニット(ルックや素材、アイテム)→階梯誘導(デザイン・色・サイズの選択順序を誘導)と多重な「面」の3次元空間を構成でき、その時系列な4次元フロー(シーズン変化)を顧客に体験学習してもらって「顧客化」するのも容易だ。とは言っても多重な「面」の構成(VMD)は相応のスキルと人手を要するし、検索編集も逐一、人手を要するから顧客毎に検索編集するのはハードルが高いが、接客でそれが出来る優秀な販売員も少なくない。

 

加えて、店舗空間には物理的な制約もあるから展開するバラエティには限界があるが、ECには物理的な制約がないから無限にロングテールな品ぞろえが可能だ。店舗販売では補充や季節的・賞味期限的入れ替えが必定だからフェイシング管理や日替わり週替わりの編集作業が不可欠だが、物理的な制限のないECでも過去在庫が積み上がる中、ゲートページの構成やサムネイルのアルゴリズムに煩雑な変化表現が必要になる。ささげデータの入れ替えも合わせて日替わり週替わりの編集作業が必要だから、AIを活用しても結構な人海戦術になるのは店舗販売と大差ない。

 

多次元な「面」空間を訴求できても顧客対応の自動編集ができない店舗販売、顧客対応の自動編集ができても多次元な面空間を訴求できず「点」から「線」の展開にとどまるECという違いで、ECがスマホのスクロール画面だとすれば、店舗販売はVR空間に例えられなくもない。店舗販売はVR空間ではなくリアル空間だから商品に触ったり試着して確かめられるし、自動編集はできなくても販売員が優秀ならその機能を果たしてくれる。アルゴリズムやAIと販売員のどちらが的確に顧客の要望に応えてくれるかは、それぞれのスキルによる。今のところ、ピントが合わないことが多いAIより販売員の方が期待できるが、その分、運営コストが高くつく。 

 

「面」の訴求が難しく試着ができないECでは単品訴求に偏って商品単価も客単価も店舗販売より低くなりがちで、店舗販売のMDと乖離するケースも見られる。モールサイトやアフィリエイトサイトで類似アイテムと価格比較されることも低単価に流れる要因と思われる。EC専業アパレルも、ポップアップストア展開に注力して顧客開拓するD2CアパレルとECに特化して低価格単品訴求する量販アパレルに二極化している。

 

■狩猟型と農耕型のコスト構造

 

ZOZO26年3月期の販管費内訳

 

ECが無数のライバルがひしめくネット空間で「点」(単品)の戦いを強いられるのに対し、店舗販売は立地の競合の中で「面」の構成とそのシーズンフローが顧客を捉えるから、ECは「点」で攻める狩猟型、店舗販売は「面」で攻める農耕型と性格付けられる。

 

無限に近いサイトが氾濫するネット空間で自分のサイトに顧客を誘導し、途中で離脱することなく購買に至らせるには、SNS やアフィリエイト、デジタル広告やモールのアルゴリズム(当然に有償)を駆使する必要もあり、新規顧客を獲得するマーケティングコストは店舗販売とは桁違いに高い。ECでは顧客獲得のマーケティングコストや物流費など「変動費」の負担が大きいが「固定費」は限られる一方、店舗販売では「店舗」がメディアとなって相応の集客を果たしてくれる分、店舗費用(賃料や光熱費、減価償却費)や運営人件費といった「固定費」の負担が重い。「点」で攻める狩猟型MDで「変動費」負担が大きいEC、「面」で攻める農耕型MDで「固定費」負担が大きい店舗販売、と事業構造も根本から異なる。

 

店舗販売でも百貨店アパレルのMDが狩猟型なのは消化取引が要求する常態鮮度が要因で、「面」のMDを構成して縦売りする仕組みもスキルも心許ないから商業施設店舗の運営で苦労することになる。百貨店のMDと商業施設のMDは根本から違うようで、三陽商会ブランドの商業施設店舗などスレ違いの典型に見える。

 

売上高(ECは流通総額GMV)に対する経費負担で両者が大きく異なるのが人件費と物流費だ。ZOZO(26年3月期)とファーストリテイリング(25年8月期)を例にとって比較すれば、人件費はZOZOの2.9%(他に倉庫運営の業務委託費が2.7%)に対して、一人当たり粗利益が2160万円(国内ユニクロ)とアパレルチェーンで突出するファーストリテイリングでも13.8%と5倍近く開く。マテハンの省力化に徹したしまむら(26年2月期)も13.8%に収まるが、パルグループホールディングス(26年2月期)は16.5%、アンドエスティHD(26年2月期)は17.6%とさらに高い。システムが販売するECの一人当たり売上高(物流要員を除く)は店舗販売とは1ケタ違う億単位で、売上高対比の人件費率は5倍以上の差がある。

 

物流費はZOZOが実質10.7%(荷造運賃5.9%+物流業務委託費2.7%+賃借料1.3%+減価償却費0.8%)に達するのに対し、ファーストリテイリングは4.2%とその差は2.5倍だが、ファーストリテイリングも国内外ユニクロ事業のECで4588億円(EC比率15.6%)を売り上げており、店舗販売だけだと3%を切ると推計されるから実質は4倍近い格差がある。

 

ZOZOとて24年3月期は実質11.8%(荷造運賃6.2%+物流業務委託費3.5%+賃借料1.4%+減価償却費0.7%)だったから2期で1.1ポイントも効率化しているし、26年3月期で6462億円も取り扱う突出した事業規模、8864円という平均出荷単価を考慮すれば物流費率はアパレルECの一般的な水準をかなり下回るはずで、ECの物流費率と店舗販売の物流費率は5倍近い差があると思われる。

 

■ECモールの手数料率と出荷システム

 

ECのコスト構造はECプラットフォーマーの手数料率に如実に現れている。ZOZOの26年3月期の商品取扱高対比粗利益率はLYST(英国のアフィリエイト型※1.ファッションECプラットフォーム)の買収もあって前期から1.5ポイント低下したとは言え33.0%(=平均手数料率)で、実質10.7%の物流費など計22.2%の販管費を負担しても取扱高対比の営業利益率は10.7%、売上高対比の営業利益率は30.4%に達する。その一方、低単価のアパレルや服飾雑貨・エンタメ雑貨などを扱う中小のEC事業者は物流費だけで取扱高の20%を超えて利益がほとんど残らないという。実際、ZOZOでも高単価の著名セレクトチェーンの手数料率は24%程度でも、低単価のアパレルチェーンは35%以上、服飾雑貨・エンタメ雑貨などは40%以上の手数料率と聞く。ECの物流コストはそれだけ商品単価や出荷単価に左右されるのだ。

 

アダストリアのプラットフォーム事業を移管した株式会社アンドエスティの26年2月期の連結消去前売上高が140億円、GMVは462億円と開示されているから、社内ブランドと社外ブランドを合わせた平均手数料率は30.3%と計算できる。ちなみに「韓国のZOZO」と言われるムシンサの平均手数料率は28.0%、アマゾンのフルフィルシッピングはもう少し低く、同ドロップシッピング(マーケットプレイス)はその半分ほどだ。

 

ECプラットフォーマーの出荷システムは、商品を出荷倉庫(FC※2.)に預かって宅配出荷するフルフィルシッピング方式、受注を出品者に取り次いで出品者が宅配出荷するドロップシッピング方式、その中間のTC仕分け出荷方式※3.がある。FC運営はコスト負担が大きく容量に比例、商品単価に逆比例するから、大型商品や食品、低単価品はドロップシッピング方式、低単価のアパレルや服飾雑貨・エンタメ雑貨はTC仕分け出荷方式が適している。出荷単価が高いZOZOはフルフィルシッピング方式だが、ファストファッション特化のショップリストはTC仕分け出荷方式で、しまむらのECもTC仕分け出荷方式と推察される。

 大手アパレルECのプラットフォーマー化(外部商品の拡大)でも、「and ST」は在庫を預かって出荷するフルフィルシッピングだが、「オンワードクローゼット」はそれぞれの出品者が宅配出荷するドロップシッピングだ。それはECサイトの「特定商取引法に基づく表記」を見れば明らかで、「and ST」は外部商品も販売者は株式会社アンドエスティでシステムも統一されているが、「オンワードクローゼット」は販売者もシステムも異なる。

これらは出荷システムの違いであって、いずれも店舗物流に比べれば何倍〜何十倍も高くつく宅配に依存するのは変わらない。EC受注品をB2Bの店舗物流に同梱したり最寄りの店舗在庫を引き当てればコストが激減するのは明らかで、それを可能にするのが店舗軸のOMOなのだ。

 

※1.アフィリエイト型…在庫を預からずFC(出荷倉庫)も持たず、オンラインのシステム上で顧客とサプライヤー(ブランドのECサイトやECモール)商品をマッチングするから、当然ながら出荷システムはドロップシッピング方式になる

※2.DCとTCとFC…入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。 

※3.TC仕分け出荷方式…毎日、定時までに出品者に受注分を出荷センターに納品させ、自動仕分けして宅配出荷するトランスファー方式で、棚入れとピッキングを必要とするフルフィル方式より格段に運営コストが低い。

 

 

■店舗軸で仕掛けるOMOの威力

 

前述したように、ざっくり人件費はECが店舗販売の5分の1、物流費は店舗販売がECの5分の1だから、それぞれの販売と物流のメリットを組み合わせば運営コストは革命的に激減する。それこそがOMOの戦略的威力なのだ。

OMOを進める上で最優先のKPIとなる指標が「店受け取り比率」で、即日渡しの顧客利便を競えば「店在庫引き当て比率」も問われる。宅配物流費を圧縮するにも来店客数を増やして売り上げを伸ばすにも不可欠で、OMOマーケティングによる「店舗と在庫の適正配置」が結果的なゴールになる。

 

「店受け取り」はシステム上の制約はなくメリットばかり、「店在庫引き当て」も多少のトランザクションラグはあるにしてもシステム上は容易だが、店舗在庫の積み増しが必要になる。前述したように店舗と在庫を適正配置するにはEC比率が20%以上あってOMOな購買慣習が成立している必要があるが、地域毎に成立しているかとなると出店布陣とEC比率の両方が問われるからハードルが高い。店舗と在庫の適正配置を結果的なゴールと割り切れば、OMOのプロセスは極めてシンプルだ。

 

OMOの起点は顧客購入情報の一元化であり、「店受け取り」と「店在庫引き当て」の拡大というプロセスを経て店在庫(店舗在庫と店舗向け倉庫在庫)に一本化する。店舗向けの初期配分品とひと蒔き品は棚入れせずスルーで仕分け出荷し、店舗向け補給在庫とEC向け在庫を同じ棚に入れ、店舗向け補給品とEC受注品をトータルピッキングして仕分けのプロセスだけを分け、店受け取り品は裸包装(受け渡し伝票とビニール袋に入れる)で店舗物流に同梱して物流コストを驚異的に切り下げる。店舗でも店受け取り品はショッパーに入れて渡し、店出荷品もショッパーに入れて出荷するから(載せ替えなしの当日着荷ローカル宅配便なので問題ない)宅配用のBOXを用意する必要もない。

 

世界のどこにもDCもFCも持たない(スペイン、オランダの集中TCのみ)ZARAのように地域のEC販売分を店舗在庫に上乗せしても良いが、店舗でのピッキングと出荷の作業量と自動化された出荷倉庫の運営効率、即日渡しのニーズを比較して現実的に判断するべきだろう。OMOを拡大して店舗と在庫の適正再配置が進めば、店舗の運営効率も在庫効率も物流効率も飛躍的に高まって必然的に高収益化していく。店舗視点から構想してECとのギャップを埋めれば、OMOは望外の威力を発揮するのではないか。

 

 

 

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