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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『SPAと問屋無用論の功罪』 (2018年02月24日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 アパレル業界ではSPAが流通の主流となって久しいが、かつて期待されたほど効率的な流通とはならなかった。SPA化が進むほど過剰供給となって消化率が低下し、今や衣料品の最終消化率は半分にも満たない。プロパー販売はもちろん値引き販売を駆使した最終の最終でも半分以上が売れ残り、マレーシアや韓国などに“中古衣料”として「トン幾ら」で輸出されているのが現実だ。

SPA化で流通は本当に効率化されたのか?

 流通の効率を図る指標に「W/R比率」というものがある。Wとはホールセール(B2B)売上げ、Rとはリテイル(B2C)売上げをいい、業界のホールセール売上総額をリテイル売上総額で除した係数が小さいほど中間流通が少ない効率的な流通とされる。実はアパレル業界は「W/R比率」だけ見れば、この四半世紀で最も“効率化”された業界なのだ。1990年の織物・衣服・身の回り品流通のW/R比率は2.54と中間流通が小売りの2.5倍もあったのが、2000年には1.84と圧縮され、2016年には0.72まで低下した。OEM/ODMの一般化に加えて2000年の規制緩和(定期借家契約導入)でテナント店の差し入れ保証金負担が激減し、商品開発に潤沢な資金を回せるようになってSPA化が加速度的に進み、中間流通外しが実現してしまったのだ。

 では、衣料品流通はそれで効率的になったのだろうか。バーゲンしてもファミリーセールを乱発してもアウトレットに回しても、なお半分が売れ残り、そのロスを穴埋めすべく原価率が切り詰められ、お値打ち感を損なって、ますます売れなくなるという悪循環を極めているではないか。こんな結果を招いたのはSPA事業者への在庫リスク一極集中であり、発注者が利益もリスクも抱え込んでしまう水平分業の弊害が指摘される。

 アパレルの世界でも、かつては「卸流通」というテキスタイル/アパレル/小売りの各段階がリスクを分担する垂直分業が主流を占め、各段階で「競り」的な需給調整が成り立っていたが、一括発注製品買い上げのSPA流通では各段階の需給調整が働かず、シーズンの何カ月も前に発注された商品がそのまま市場に投入されてしまう。結果、需給のギャップで大量の残品が発生してしまうのだ。

1960年代から続く「問屋無用論」は過ちだった?

 1960年代以来「問屋無用論」が叫ばれてきたが、その理想を実現したSPA流通は決して効率的な流通ではなかった。流通を効率化するのは発注者へ利益とリスクが一極集中するバッチな水平分業ではなく、トヨタやデルのように販売と生産をオンライン連携するIoT垂直統合(協業)、あるいは流通の各段階がそれぞれにリスクを分担して需給調整が働く垂直分業なのではないか。

 1960年代の「問屋無用論」が当時の米国流通をはた目から見て誤解したことから始まったとすれば、壮大な徒労劇が繰り返されたことになる。米国流通業界では「問屋」に類似した在庫保管機能と配送機能を有する「Distributor」の他に在庫も配送機能も持たず営業と棚割りや数入れといったリテールサービスを提供する「Broker」という事業形態があって、メーカーやチェーン店が使い分けていた。必要に応じて商物分離のリテールサービスを選択できる流通慣行を見て『日本的な問屋は不要だ』と決め付けてしまったのかもしれない。

 実は今日でも「問屋」は日米ともメジャーに流通を担っており、むしろ役割を深めつつある。米国のスーパーマーケットチェーンではラック単位に「Broker」に任せてslotting feeを取る“棚貸し”が少なくないし、ウォルマートのカテゴリーキャップテン制は主力ベンダー/メーカーに棚割りと数入れを委任する「Broker」型VMIと各店舗の担当者が棚在庫を確認して修正するSMIを組み合わせたものだ。日本でもグロサリーや肌着・レッグウェアなどのパッケージ・ガーメントではVMIが主流で、リテーラー側が棚割りや数入れを行うケースの方がマイナーだ。

 SPA型のCMIとVMIではどっちが効率的で利益が残るか、GMS衣料のアパレル部門と肌着・靴下部門を比べれば誰でも分かると思う。「問屋無用論」は半世紀を経た今日も答えが見えないままなのだ。

※CMI(Central Managed Inventory)…小売業者の本部が品揃えと数入れ、在庫管理を行う
/VMI(Vendor Managed Inventory)…納入業者に品揃えと数入れ、在庫管理を委託する
/SMI(Store Managed Inventory)…各店仕入れ、または本部の品揃えを店舗が選択・数入れする

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