小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2019年02月15日付)
『前年比に惑わされないで販売効率も見て!』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 上場アパレルチェーンが毎月公表する売上前年比を業界紙誌やネット雀が様々に論評しているが、果たして実態を解っているのだろうかと思うことが多い。なぜなら、公表されるのは売上/客数/客単価の“前年比”であって実額ではないからだ。
 その“前年比”も「総売上」と「既存店売上」があり、EC売上を含む場合と含まない場合がある。「総売上」か「既存店売上」かはボケっとしていなければ勘違いはしないが、EC売上を含むのか否かは公表する側も明確にしていないことが多い。今時はEC比率10%以上がフツーで20%を超えるチェーンもあるから、「既存店売上」はプラスでも「既存“店舗”売上」は大きく落としていることがある。
 ユナイテッドアローズだけは「EC含む既存店売上」と「既存“店舗”売上」の両方を公表しているが、その差は5ポイント以上開くこともある。「既存“店舗”売上」を公表していないチェーンでも、決算期ごとに公表されるEC比率とEC伸び率から逆算すれば店舗だけの既存店前年比は推計できるが、EC比率/伸び率は月によって振れ幅が大きく、月度の数字を推計するのは難しい。
 それにしても“前年比”に過ぎないから、月々の売上実額や販売効率は掴みようがない。その壁を越えるのが売上実額が掴める商業施設のサンプル店舗から“月指数”を算出して推計する方法だ。それを使えば調べたいチェーンの月度の売上実額も掴め、特定月の落ち込みがどの程度収益に響くのかも推計できる。各月末の在庫まで掴めれば収益の着地まで読めるが、さすがにインサイダーでないと解らない。
 月度の売上実額までは掴めなくても、決算書から年間の坪販売効率は解る。ちょっと見ただけでもユナイテッドアローズの511.5万円からライトオンの96.4万円まで大きな格差があり、国内ユニクロの343.5万円という水準は国民的支持を感じさせる。ちなみに生活雑貨比率の高い無印良品は219.8万円とユニクロの64掛けにとどまる。
 外資SPAも本国決算書の数値などから推計できるが、H&Mジャパンの販売効率は18年11月期で月坪11.5万円まで落ち込んでいる。ギャップも大差ないが、ZARAは一回り高い。それでも同立地ならユニクロの6掛けにとどまるから、ユニクロの“国民的支持”には遠い。やはりアパレルはローカルなものなのだ。
 売上前年比もともかく、販売効率こそ“人気”のホントのバロメーターではなかろうか。前年比ばかりに捉われず、販売効率も注視すべきだろう。

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