小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年12月11日付)
みんなヤンキーになった!
『アスレカジュアル革命がユニクロ帝国を脅かす?』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 「ノームコア」から「アスレジャー」と近年は“抜けた”TPOレスな着こなしが歯止めなく広がり、この冬は「ルーミー」×「スポーツ/アウトドア」のドームスタイルが席巻して事の本質が露わになった。そんなスタイリング革命にユニクロなど既存のアパレルチェーンは取り残されつつあるのではないか。

 

■“着た切り雀”ヤンキースタイルがカジュアルを変えた

 もとより米国の「アスレジャー」は学生の「ドームスタイル」から発したもので、学生寮(ドーム)でくつろぐジャージスタイルにスポーツアウターなどを引っ掛けて教室にも買い物にも出かけるという“抜けた”TPOレススタイルだから、見てくれも本質も我が国の「ヤンキースタイル」と何ら変わるものではない。それがスポーツブランドの機能性やフィットネスなライフスタイル、ボーダーなストリートスタイルに乗ってメジャーなトレンドとなったが、ファッション業界にとっては厄災でしかなかったのではないか。

 機能性&イージーケアなアクティブスーツが既製スーツを駆逐したように、スニーカーがビジネスシューズやパンプスを駆逐したように、「アスレジャー」は伝統的?なTPOを破壊して割高で使い勝手も賞味期限も限定されるファッション衣料を駆逐し、スポーツブランドやカジュアルSPAのジャージアイテムや機能合繊アイテムを気ままに合わせる“着た切り雀”スタイルを蔓延させている。それはカジュアルな職場やパート労働者では“普段着”の枠を超えて“通勤カジュアル”までカバーするオールラウンドなスタイルとなった感さえある。

 「アスレジャー」はファッション衣料のみならず日常のカジュアルやアンダーウエアまで急速に侵食しており、アメカジやジーンズを柱としてきたカジュアル店やカジュアルSPAばかりか伝統的?なランジェリーブランド/SPAの存在も脅かしている。ユニクロやしまむら、ジーンズカジュアル店の伝統的?なスタイリングは今日のアスレ化した消費者のウェアリングとは大きく乖離しており、もはや時代に取り残されて化石化した感さえある。

 それは「セクシー」「エレガンス」あるいは「カワイイ」といった伝統的?な価値観に囚われるランジェリー分野とて同様で、「ビクトリアズ・シークレット」はもちろん我が国のランジェリーブランド/SPAもことごとく苦戦しているが、その本質的背景は女性の労働戦力化に加え「アスレジャー」な楽チン機能性スタイリングが大きいと思われる。

 

■カジュアルの覇者も交代する?

 アパレル業界が苦境に沈む中もスポーツ/アウトドア業界は躍進を続けているが、それも永遠に続くわけではない。スポーツブランドはストリートラインに続いてビジネスライン(アクティブスーツ)にも進出して売上を拡大しているが、各社が出店を競うに連れオーバーストアになり始めている。実際、近年の新設SCではカジュアル店よりスポーツ/アウトドア店の方が多くなっているし、アウトレットモールでは最大のカテゴリーとなっている。アウトドア系はともかくスポーツ系では既存店売上が前年を割るブランドも増えており、カジュアルSPAの倍以上という価格の高さもあってアウトレットでの購入比率が上昇している。

 スポーツ/アウトドアブランドの価格は生活と生計に追われ“着た切り雀”化する今日の消費者にとってお手頃とは言い難い。スタイリングのキーアイテムとして無理して買うか、セールやアウトレットで値下げ品を購入するか、格段に安いリユース品を購入する一方、機能性や価格を“革命”する「アスレカジュアルSPA」の登場を待っているのではないか。

 かつてユニクロが「カジュアル」を革命して覇者となったように「アスレカジュアル」を革命する者が明日の覇者となる。グローバル化巨大化したユニクロはローカルなスタイリング変化に鈍感で伝統的なスタイリングを出られず、高品質とは言え今や防寒アウターなど高価に過ぎて庶民には手が届かない。格段に低価格でストリートな感性がありながら機能性アウトドアに偏る「ワークマンプラス」が日常オールラウンドな「アスレカジュアル」に目覚めれば、そして第二第三の低価格「アスレカジュアルSPA」が登場すれば、さすがのユニクロ帝国の覇権も揺らぐに違いない。

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