小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2017年12月14日付)
『誤まてるVMDと好ましいVMD』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 VMDには様々な考え方があるようだが、百貨店の古いマニュアルなどでは「美しく見せる」「顧客の目を惹く」が優先されて実際の販売活動が阻害されるケースが少なくない。
 「美しく見せる」「顧客の目を惹く」もブランディングやVP誘導には不可欠だが、VMDの第一義的目的は「販売活動の支援」「店舗運営の効率化」にある事を忘れてはなるまい。ディスプレイはともかく実際の陳列は「販売準備陳列」の役割が大きく、販売活動がスムースに運び、店内物流作業を最小化して接客に集中出来るよう、「フェイシング設計」と「フェイシング管理」が適確に励行される必要がある。
 「フェイシング設計」はMDを適確に表現し、販売し易くフェイシング管理し易いよう陳列を組むもので、サプライ方法や在庫の回し方で手法が異なる。「フェイシング管理」は欠品を回避し接客中に顧客を待たせて在庫探しにストックに走る事がないよう、SKU毎に次の補充までに売れる数量を品出し陳列する事で、高回転品目と低回転品目、高効率店と低効率店で頻度は当然に異なる。コンビニのお弁当(1日3回)と消耗家電(2〜3日に1回)を比較すれば解ると思う。
 消化仕入れが大半の百貨店では「フェイシング設計」も「フェイシング管理」も励行されないばかりか、ブランド側が励行しようとしても「ラックあたり陳列枚数」「一山あたり積み枚数」「定数定量」などと表面的に規制し、ブランド側のMD表現や必要フェイシング量陳列を妨げている事が多い。百貨店側の自主売場でも同様で、SKU毎の必要フェイシング量が陳列されていないばかりかストック室に寝ているだけの品番やSKUも少なくない。だから接客中に頻繁に在庫探しにストック室に走って顧客を待たせ、陳列されていない品番や色柄の販売チャンスを損なって死蔵してしまうのだ。
 VMD規制を現実対応しても売場の物理的制約ゆえに“適正フェイシング量”の陳列には限界があるから勢い、鮮度のある新商品や中核サイズだけが陳列され、旧商品や端サイズはストック室やDCで待つ事になる。ゆえに在庫検索も含めてECのデジタルカタログを活用するタブレット接客が不可欠なのだが、ショールーミングを恐れシステム対応も出来ないまま持ち込みを拒絶する百貨店が未だ多いのは悲劇と言うしかない。
 これでは販売も在庫運用も非効率極まりなく、販売機会ロスや在庫の滞貨が頻発して売上や運営効率も損なわれてしまう。まさか『仕入れ先の在庫と販売など与り知らず』と思ってはいないだろうが?百貨店側とて損失は大きいのではないか。‘見てくれ’もともかく「販売活動の支援」の方が優先されるべきで、何より在庫探しでお客様をお待たせする悪癖の根絶が急がれる。
 
※写真1)は松屋銀座「アンタイトル」のVMD。店頭の出前陳列はきちんと右に寄せた不等辺三角形に構成し、ダウンコート軸の壁面陳列は左の寒色系から右の暖色系へ色相環を反時計回りに‘中光り’陳列している。写真2)は同「ランバンオンブルー」のVMD。同一ルック回転をカラー別に仕分けて間にバッグとファーストールをアクセントし、S管を使って上下に立体感を強調している。松屋銀座はブランドショップのVMDに不合理な規制を強いず、ブランド側も伸び伸びとVMDを競い合って好感が持てる。

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