小島健輔の最新論文

販売革新2018年11月号掲載
『SCは際迫るECドミネーションに備えよ』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング 代表取締役

販売革新11月号SCに異変

 
 欧米でも我が国でもECの拡大に歯止めがかからずテナントの閉店が広がってSCの先行きが危ぶまれているが、果たしてECドミネーション(ECによる流通制覇)はSCにどれほどのダメージをもたらすのか、テナントチェーンとSCデベはどのような対策を打つべきか、正面から斬り込んで見たい。

 

■ショールーミングは止められない

 ECが拡大する中で店舗販売が受けるダメージは、まず「ショールーミング」が思い浮かぶ。スマホの高機能化・大型化は通信機器・携帯パソコンという枠を超えてショッピングと決済のモバイル端末へと急速に変貌しており、QRコード活用とキャッシュレス決済の拡大ともに顧客のショールーミングは日常的ショッピング行動となりつつある。テナントのタブレット端末からのショールーミングは阻止できても顧客のスマホからのショールーミングは止めようがないから、結局はなし崩し的に課金漏れが広がってしまう。

 かつてはNB商品の価格比較が多かったショールーミングも、近年は品揃えが物理的に限られる店舗を超えた物色と欠品探しが主流となっており、店頭で期待の品が見つからないとECへ飛ぶのが日常的な購買慣習となっている。外資チェーンでは全商品のタグにQRコードを付けて自社ECサイトへ誘導するところもあり、タブレットを貸し出して積極的にショールーミングを支援している。

 ショールーミングによる課金漏れがどの程度まで広がっているか定かなデータはないが、規制の甘い商業施設や中途半端に店頭在庫だけ館のECサイトに上げている商業施設ではショールーミングが誘発されており、同一テナントの館による売上前年比のギャップなどから最大5〜6%程度まで拡大していると推察される。大手駅ビルなど館ECモールの課金率を店頭より高くして(実際にコストも高いのだが)店レジ計上を誘導しており、顧客のショールーミングもカード会員割引で館ECモールに誘導しているが、そんな手が打てない商業施設では外部ECへの流出に歯止めがかからないのが実情だ。

 

■EC主導に割り切るアパレルチェーン

 15〜17年でアパレルチェーンの不採算店撤退ラッシュは一巡したように見えるが、18年に入っては出店も撤退も抑制され撤退の方が上回っている。欧米の有力チェーンでは不採算店整理が一巡しても店舗数の減少が続いており、店舗売上が好調なチェーンでも計画的に店舗網を絞る動きが広がっている。その分岐点はEC比率が二桁(10%)に乗ったタイミングで、以降はECの拡大に連れ店舗網の縮小を加速している。

 EC比率が27.9%に達したアバークロンビー&フィッチは不調を脱しても店舗網の縮小を続けているし、EC比率が21.8%に達したルルレモンは店舗売上も堅調なのに店舗数の圧縮に転じている。店舗軸のブランディングにこだわって来たINDITEXとて、EC比率が10%(EC展開の48カ国では12%)に乗ったのを契機に店舗網の圧縮に転じており、EC比率の高い欧州では17年10月末をピークに半年で百店近く減少している。INDITEXに遅れをとったH&Mもようやく戦略の転換を決断。ECに注力して年率20%のペースで伸ばす一方、EC比率が高まる先進国では閉店のピッチを速めて18年は140店舗を閉め、新規出店は新興国に注力すると発表している。気がつけばEC比率がまだ6%の国内ユニクロとてピークの840店から784店まで減少しており(直営店、他にEC43店)、EC比率30%へ店舗網縮小を進めているようだ。

 EC比率が二桁に乗ったチェーンは次々に店舗を受け取りやお試しのみならず店在庫をEC受注に引き当てて店から出荷するC&C(クリック&コレクト)拠点化に踏み切っており、店舗を犠牲にしてもECを拡販する姿勢を強めている。EC受注の店在庫引き当てと店出荷に踏み切ったZARAに続き、ユニクロも10月から店舗受け取り指定分に限定してだがEC受注の店在庫引き当てに踏み切っており、もはや自前運営ECによる拡販と店舗網の整理縮小は逆戻り不能な奔流と化している。

 

■店舗販売からECへの転換は必然

 有力チェーンが店舗販売からECへシフトしていくには必然的な背景がある。それはマーケットの変貌と事業効率の圧倒的格差という現実だ。

 少子高齢化が進む先進国、とりわけアベノミクス以降の我が国では社会負担増と国民総労働力化が急進しており、戦時下にも匹敵する女性就業率の急上昇が消費スタイルを急変させている。女性が勤労者化するにつれ、お洒落や買い物に時間を割けず核家族的家事分担も崩れ、ECや家事サービスへの依存が高まり、外食・中食も増えている。ピッキングや精算のみならず行き帰りにも少なからぬ時間を要し、持ち帰りの労働まで強いられる店舗購入が疎まれるのもやむを得ないのではないか。

 売る側にしても、店舗は初期投資も運営コストも嵩んで損益分岐点が高く、品揃えが物理的に制約されるのに加え、在庫が多店舗に分散してロスが肥大しがちだ。売上を拡大すべく多店舗化すれば在庫の分散ロスが調達のマスメリットを食い潰してしまう店舗販売に比べ、在庫を少数のDCに集中して拡大できるECはマスメリットが加速度的で、欧米のアパレルチェーンでは営業経費率が年商1億ドルで店舗販売を下回り、10億ドルで店舗販売の半分になるというパターンが見られる。

 普通借家契約では資産として評価されたテナント店舗も定期借家契約では営業継続も担保されない期間限定の利用権にすぎず、損益を割り込めば即、負の資産に転じてしまうから、巨額の投資には到底見合わない。ゴールドマン・サックスの試算では同じ売上を稼ぐのに店舗はECの4倍も人手を要するというから、人手不足が深刻化する今日では店舗網を縮小してECに主力を移したくなるのも当然だ。

 

■ECドミネーションの現実

 各国のEC統計には店受け取りや店出荷が適正に集計されておらず、それらを含んでECで受注した売上をすべて計上すれば、衣料・服飾のEC比率は米国で25%を超え、英国では過半に迫り、わが国でも15%に迫るのではないか。それは衣料・服飾以外の消費財でも同様のはずだ。

 店舗は損益分岐点が高く、ECに売れ筋が抜かれ売上が流れれば容易に赤字店舗に転落してしまう。店受け取りや店出荷が増えれば店舗運営が圧迫され、在庫コントロールも混乱してしまう。それでも欧米の有力チェーンが店舗を犠牲にしてもC&CでECを拡大したいのはアマゾンやZalando、ASOSなどECとの厳しい競争に晒されているからだ。大手ECに対抗して顧客利便を競うにはC&Cが必須で、店舗の損益や運営を圧迫してもやむを得ないと割り切っている。それがECドミネーションの現実なのだ。

 

■店舗とSCは生き残れるか

 消費者からも小売業者からもECシフトが進む中、店舗販売は生き残れるのだろうか。00年の規制緩和から1.64倍にもなったSCの商業施設面積が適正規模にシュリンクしていくのは避けられないが、米国の例を見ても衣料品など衰退業種から化粧品など成長業種へ、物販テナントからフードサービスやエンターテイメントなどへの転換が進むから、SC総面積の縮小は年率で1%にも届かないだろう。廃墟化するSCが溢れるといったパニックにはならないのではないか。

 とは言え、物販テナントの変貌は急激で、在庫を積まないショールームストアが増え、固定投資を嫌ってポップアップストア展開に割り切るチェーンが広がれば、契約形態や課金ルールも変わらざるを得ない。C&Cが拡大すれば受け取り荷物や出荷荷物の館内物流、TBPP(受け取りお試しサービス拠点)やドライブスルー・ピックアップレーンなど施設の見直しも必要になる。

 ECドミネーション下ではSCの役割も二極分化し、ECの品揃えに対抗できる「広域大型ライフスタイルショールーム型」か足元の生活ニーズに特化した「小型コンビニエンスC&C拠点型」に集約されていくのではなかろうか。

 もうひとつ、SCの投資採算という面では抜本的な戦略転換が必要だ。それは脱SC(商業施設)に他ならない。

 少子高齢化が進み生活圏が萎縮していく以上、地域の中核施設は“商業”だけでは成り立たない。ホテルやマンション、オフィスや関連サービス、学校や託児所、病院や介護施設など地域のニーズに幅広く対応して不動産活用効率を極めないと投資が回収できない。商業施設は階層が上がるにつれモール面から離れるにつれ売上も家賃も急減するが、ホテルやマンションは高層階ほど好まれ家賃も高くなる。立地に応じて水平垂直の建築と業種の配置を適確に行えば投資回収の効率が高まり、商業施設部分の家賃も無理のない水準に抑制できる。

 一時は隆盛を極めた商業施設専業デベだが、少子高齢化とECドミネーションが進むこれからは総合不動産デベに変貌すべきではないか。

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