小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『絶好調!アダストリアとしまむら 比較して分かった事実』
(2023年04月14日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 アダストリア、しまむらの23年2月期決算は他社に抜きん出た絶好調で、アダストリアの連結売上高は20.3%増の2425億5200万円と過去最高を更新、しまむらの連結売上高は6161億2500万円と2期連続して過去最高を更新し営業利益、純利益とも過去最高を更新したが、両社の実情は微妙に異なる。

 

■両社の23年2月期売上を検証する

 アダストリアの連結売上は20.3%も伸びたが、22年2月に子会社化した飲食業のゼットンなど買収効果の111億3600万円を除けば14.8%増、国内合計で13.1%増(海外は35.7%増)、アダストリア単体では13.0%増とやや勢いが鈍る。単体も既存店売上が12ヶ月連続で前年を超え、グローバルワークの売上は20.7%、ベイフローの売上は11.6%、雑貨中心のラコレの売上は63.8%も伸びたが、他の主要ブランドは一桁増にとどまった。

売上について辛い見方をするのはコロナ禍で落とした売上の回復には不十分だからだ。23年2月期の売上をコロナ前20年2月期の売上と比較すると、買収効果を除く実質連結で4.1%増、国内合計で1.7%増、アダストリア単体では0.4%減と、しまむらの18.0%増、インディテックスの15.1%増(23年1月期対20年1月期)とは格差がある。

単体売上の中身を見ると、最近の華々しい新規事業連打とは違う風景が見えて来る。20年2月期より成長したのはラコレ(増加額計算不能だが60億円強か)とグローバルワーク(増加額38億8700万円)、ベイフロー(3億2800万円)だけで、ニコアンドは21億9200万円、ローリーズファームは23億2200万円、スタディオクリップは21億1900万円、レプシィムは19億2100万円、ジーナシスは7億1500万円減少している。つまり、国内事業の成長牽引役はラコレとグローバルワークだけで、新たな成長を見込める新ブランド・新業態の開発が急務だったのだ。

しまむらの連結売上は5.6%増と穏やかな伸びだったがコロナ前20年2月期からは18.0%も伸びており、主力業態のファッションセンターしまむらは15.0%(601億3000万円)、アベイルは20.0%(99億9200万円)、バースデイは33.9%(182億9400万円)、シャンブルは49.7%(48億6500万円)、台湾の思夢楽も19.9%(11億8300万円)を積み増しており、売上が減少した業態はない。

 

■アダストリアの運営効率と給与水準

 アダストリア単体の23年2月期末合計店舗数は1222店と20年2月期末から7店減少しており、増えたのはベイフロー(7店)とラコレ(開示ないが40店前後か)のみで、レプシィムは14店減、スタディオクリップは9店減、ローリーズファームは7店減など、軒並み減店している。効率化を図って集約したのかというと、一店平均売上を20年2月期と比較すると必ずしもそうとは言い難い。グローバルワークの12.0%増を除けばベイフローの8.5%減からレプシィムの2.8%減まで軒並み減少しており(ラコレは計算不能だが大きく伸びているはず)、アダストリア単体平均は0.1%増の1億5849万円にとどまる。

連結の1店平均売場面積は221.7平米と前期から4.6%拡大して20年2月期の205.0平米からも8.1%拡大し、平米当り売上も761千円と前期から12.3%増加したが、20年2月期の773千円には1.6%届いていない。それでも一人当たり売上は推計2109.9万円(5月26日発表の有価証券報告書に開示される)と前期から9.4%向上しており、20年2月期の1994.5万円を5.8%上回るが、ここにマジックがある。

この間に連結のEC比率は20.5%から28.7%に、EC売上は436億円から626億円に190億円増加しているが、同期間の連結売上は201億7600万円しか増加しておらず、買収効果の111億3600万円差し引けば店舗売上は99億6000万円減少したことになる。この間に平均従業員数は11,149人(臨時雇用者数は正社員勤務時間換算)から推計11,496人に347人(3.1%)増加しており、店舗の一人当たり売上は1847.7万円と20年2月期から7.4%低下したという見方もできる。店舗の運営効率に課題を指摘しただけで、連結の経営指標とすれば大きく改善されている。

連結の一人当たり総利益額は20年2月期(総利益率55.5%)の1106.7万円から23年2月期(同54.7%)の1154.0万円と増収効果(EC売上増や買収効果)で4.3%伸びているが、労働分配率は31.7%から32.5%に上昇している。24年2月期は正社員の給与を平均6%賃上げすると発表しているが(以下は臨時従業員も含めて6%賃上げで計算)、予算通り売上が7.2%伸びて総利益率が56.2%に上昇するなら、総員数が変わらないとすれば労働分配率は31.2%に収まる。逆に労働分配率を32.5%で維持するなら平均給与を6%上げても総員数を4.0%増やすことが出来る。

アダストリアの給与水準は22年3月期の単体で年間401.9万円と開示しているが、連結の人件費を従業員数で割って会社負担の社会保険料など福利厚生費を差し引いた推計は313.5万円(若い女性が大半なので人件費の90%を給与と仮定)と格差があり、23年2月期も同様な計算では329.7万円になる。24年2月期は平均6%の賃上げで349.5万円ほどになる計算だが、しまむらの23年2月期の444.8万円に対しては79%弱、6.5%賃上げする24年2月期の473.7万円に対しては74%弱と格差が大きい。

給与水準の格差に加え、労働分配率もしまむらの37.2%に対してアダストリアは32.5%と格差があり(資本分配率は28.5%対15.2%ともっと格差がある)、23年2月期で50%に迫る販管費抑制への抜本的改革が急がれる。

 

■しまむらの運営効率と給与水準

しまむら連結の23年2月期末合計店舗数は2213店と20年2月期末から1店減少とほとんど変わらないが、シャンブルが113店と20店、バースデイが313店と16店増えた一方、ファッションセンターしまむらは1418店と14店、アベイルも313店と6店、台湾の思夢楽も40店と8店減少している。アダストリアと対照的なのは一店平均売上が急激に伸びたことで、20年2月期と比較するとファッションセンターしまむらは3億2600万円と15.5%、アベイルは1億9200万円と22.6%、バースデイは2億3300万円と22.9%も伸びている。全店でも2億7900万円と18.1%も伸びている。

全店の1店平均売場面積は1009.2平米と前期の1009.6平米とほとんど変わらず、20年2月期の1007.3平米からもわずかな拡大にとどまる。バースデイこそ926.1平米から933.4平米とやや拡大し、シャンブルは逆に947.6平米から927.3平米にやや縮小しているが、他業態はほとんど変化がない。自在に設計できる独立店舗主体ゆえ、標準化が確立しているからだろう。ファッションセンターしまむらは品揃えの拡充を目指して24年2月期以降、1300平米級にシフトするとしているが、他業態は拡大の計画は発表されていない。

平米当り売上も276千円と前期から5.2%増加し、20年2月期の234千円からは17.9%も上昇している。一人当たり売上も4096.6万円と前期から5.9%向上しており、20年2月期の3374.2万円を21.4%も上回る。一人当たり売上は突出しているが仕入れ型で粗利益率が低いため(23年2月期は前期と変わらず34.1%)、一人当たり総利益額は1405.4万円と国内ユニクロ事業の1569.6万円(22年8月期)には及ばないが、前期から6.0%、20年2月期からは27.5%も増加している。

しまむらのEC売上は前期から46%も伸びても41億円と小さく、EC比率も0.7%にも満たないから、店舗運営の効率指標に影響を及ぼす段階には遠い。期中に買収も行なっておらず、公表数値をそのまま受け止めれば良い。

しまむら連結の23年2月期年間平均給与(給与と人件費を仕分けて開示しており給与は人件費の85%強)は444.8万円と前期から5.7%(正社員は平均5.6%、パートは平均4.6%と開示している)、20年2月期からは16.7%も上昇している。それでも労働分配率は20年2月期の41.0%から37.2%に3.8ポイントも抑制されているから、この間の業績浮揚の勢いとマネジメント精度は特筆されるべきだろう。

24年2月期も正社員の給与を平均6.5%、パートは平均5.2%賃上げすると発表しているから、平均給与は473.7万円に上昇することになる。予算通り売上が3.1%伸びて総利益率が34.3%に上昇し、総員数が15209人と169人増え、正社員6.5%、パート5.2%の賃上げを行なっても人件費が3.7%の増加に収まる(計算が合わないが)とすれば、労働分配率は37.4%に上昇する。それでも販管費率を0.3ポイント増の25.9%に抑えれば営業利益は2.4%増で、利益率8.6%に着地すると計画している。

 

■アダストリアは高利・高費・高リスク

 アダストリア(当時はポイント)は2010年に開発型SPAへの転換に踏み切り、14年2月期にテキスタイルから企画・開発するOEM企業のナチュラルナインを買収して独自の開発体制を確立。15年3月にグループを統合して同年6月に今日のアダストリアの体制を固め、商品開発力を背景にブランディングとプライシングで穏やかなインフレ政策を進めて来た。

 その結実が23年2月期の過去最高の連結売上、粗利益率54.7%、販管費率49.9%、営業利益率4.7%だが必ずしも期待通りの業績とは言えず、飲食サービスのゼットンを含むためアパレルチェーンとして単体で捉えても、粗利益率53.5%、販管費率48.2%、営業利益率5.3%にとどまる。連結売上は過去最高でも、利益(営業利益/経常利益/純利益)はバイイングSPAの最盛期だった10年2月期に遠く及ばない。

 素材からの開発型SPAを志向して来たのに粗利益率は54.7%(単体は53.5%)と10年2月期の60.5%に及ばず、販管費率の方は49.9%(単体は48.2%)と06年2月期の40.2%から大きく嵩み、営業利益率は4.7%(単体は5.3%)と06年2月期の20.3%の4分の一ほどに甘んじている。

 粗利益率が低いのは薄利だからではなく、値入れは取れても値引きが粗利を食い潰しているからだ。アダストリアは値下げ率を開示していないが、しまむらは業態別に開示しており、販売動向に即した当用仕入れ主体のファッションセンターしまむらは6.1%にとどまるのに対し、数量契約のロット調達が主体と思われるアベイルは14.1%と8ポイントも高い。ならば自社企画品を開発調達するアダストリアの値下げ率はアベイルより低くはないと思われる。

 リスクを張った開発調達で値引きロスを抑えて粗利益を確保するには独自のサプライシステムと在庫運用スキルが求められるが、アダストリアにはワークマンのようなVMIは見られないし、かつてのイトーヨーカ堂のようなチームMDも聞いたことがない。VMD運用もユニクロのような台帳補給の仕組みがあるわけでもなく、売り切り再編集や売り切り店舗への残在庫集約など在庫運用の手練が突出しているわけでもない。棚資産回転が5.00回としまむらの7.60回に及ばず、バイイングSPA時代07年2月期の13.11回の4掛け弱にとどまるのも、サプライシステムと在庫運用スキルが足を引っ張っているからだ。

店舗規模も平均221.7平米と、しまむらの1009平米、ユニクロの1018平米の4分の一にも満たず、営業時間も商業施設に合わせて長く、ロードサイド独立店舗で9時間営業に収まるしまむらに比べれば勤務シフトの効率が極端に低い。だから労働分配率を32.5%に抑えても人件費率が17.8%としまむらの12.8%を5.0ポイントも上回り、商業施設の小型テナント店ゆえ家賃負担も重くて不動産費率が18.1%と、ロードサイドの大型独立店舗主体のしまむらの8.7%を二倍以上、上回る。

 これでは販管費率が嵩むのは必定で、粗利益率の歩留まりが悪いと営業利益率が低位にとどまるのは致し方ない。この構図を変えない限り、アダストリアがバイイングSPA時代より高効率・高収益になるのは不可能だ。 

 

■しまむらは薄利・薄費・低リスク

 しまむらの値入れ率は仕入れ型ゆえ低いが、在庫を不要に抱えず値引きロスを抑制して34.1%の粗利益率を確保し、不動産コストの軽い生活圏ロードサイドの独立大型店舗をパート主体のシングルシフトで運営して販管費率を25.6%に抑え、8.7%の営業利益を確保している。

 しまむらはチェーンストア・オペレーションの原理原則を外さず、店内作業や物流など地道な運用スキル改善を積み上げて販管費率を低位に抑え、サプライヤーの開発力とフォロー力を活用して在庫負担を避け、低値入れながら値引きロスを抑制して高収益を確保している。サプライヤーとタイアップしてのJB(ジョイントブランド)ではチームMD型の可変型VMIが機能し、PB(プライベートブランド)でもロット調達ではなく分納型VMIが機能していると推察される。

 そんな連携の結果としての棚資産回転は7.60回と今時のアパレルチェーンにしては速いが、最盛期07年2月期の12.43回転には遠く及ばず、販管費率も当時の22.6%より3.0ポイントも高いが、平米あたり販売効率は276千円と当時の289千円まであと4.5%に迫る。

 しまむらのマーチャンダイジングとサプライは商品企画・開発に踏み込まず、サプライヤーの意欲と機能を活用して協業するもので、開発型SPAを志向して自ら開発組織と在庫を抱えるアダストリアとは対極的だ。開発組織も在庫リスクも値引きロスも最小に抑え、推計41%ほどの値入れでも34%ほどの粗利益を確保し、販管費を抑制して8.7%の営業利益を確保するしまむら、推計67%強ほど値入れがあっても値引きロスが大きく粗利益は53.5%に目減り、48.2%もの販管費を要して5.3%の営業利益しか残らないアダストリア(単体)、果たしてどちらが賢い選択なのだろうか。

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