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ブログ論文(アパログ2017年11月8日付)
『&モールは救世主となる!?』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 11月1日からスタートした三井不動産の「&モール」は「iルミネ」や「イオンモールオンライン」など従来の商業施設デベ系のEモールとは一線を画した‘画期的’新機軸と評価すべきものかも知れない。‘知れない’としたのは、仕組みや狙いは‘画期的’でも課金料率や運用スキルがまだはっきり見えていないからだ。
 従来の商業施設デベ系ECモールが‘ショールーミング’に対する防衛策の域を出ず、時間を経てもZOZOに対抗するほどのスケールにはほど遠く、割安とは言えない課金率(店舗売上に対する課金率を上回る)でも恐らくはデベ側の持ち出しになっていると推察されるのに対し、三井不動産の「&モール」は仕組みと狙いが‘画期的’なのだ。その要点は以下の二点に尽きる。
1)店頭でのタブレット接客で「&モール」に繋いで品揃えを拡張し、EC在庫のみならず店舗在庫[三井不動産主要施設内店舗に限定される]も検索して引き当てて決済し[売上は店舗に計上]、宅配または店受け取りが選択できるという‘品揃え拡張ショールーム販売効果’が得られる。顧客の端末から決済される場合も店在庫からの出荷は店舗売上に計上されるが、ECフロントから自動引き当て出来る訳ではない。
2)在庫を預からず‘ささげ’もテナントに任せ受注情報[宅配伝票出力データ]を提供してテナント側のDCや店舗から顧客へ直接出荷する‘マーケットプレイス型’で課金料率とタイムラグを抑え在庫の分散を回避して、店舗家賃課金率との平準化とテナント側の参加利便を狙っている。在庫預かり型を希望するテナントに対してはEC出荷サービス業者に繋ぎ、物流フルフィルへの投資を回避してECフロントのオムニチャネル利便に徹している。
 この二点は表裏一体を為すもので、ECと店舗の売上課金率を平準化してタブレット接客の売上はもちろん販売員のスタイリング投稿によるEC売上も店舗へ計上すれば、店舗の売上も販売員の意欲も三井不動産の家賃収入も押し上げられる。端から独立採算事業でなくオムニチャネル一体の店舗支援事業として構想されており、軽装備の‘マーケットプレイス型’に徹して物流までのフルフィル・プラットフォームビジネスたるECモール事業者より運営コストを抑え、店舗家賃並み課金率を狙った戦略構図が推察される。
 ZOZOの平均手数料課金率が29%に迫り新規取引は35%という実情を睨み、課金率水準がほぼ半分で済む‘マーケットプレイス型’で自社EC体制が整ったテナント企業を取り込もうとするもので、物流投資が大きく取り扱い規模とともに運営コストが加速度的に下がるフルフィル型の競争を回避して参入障壁を下げる意味も大きいと思われる。ZOZOにとっては自社EC体制が整った大口テナントの売上が流出するリスクを抱えた事になる。
 多くの百貨店や商業施設がECへの売上流出を恐れてタブレットの持ち込みを禁止したり不便なキュレーション型[在庫データを連結しない取次型ないしはリンク型]ECモールでお茶を濁す中、一部の有力商業施設はECモール事業者並みの重装備なフルフィル体制を構えてコスト倒れに苦闘している。テナント側とて幾つものECモールに在庫が分散すればデータ的な一元化は出来ても在庫運用の非効率化は避けられないし、独自にEC連携の‘品揃え拡張ショールーム販売’を仕組むにはシステム投資はもちろん商業施設デベ側のコンセンサスも必要になる。三井不動産の「&モール」はそんな館側とテナント側の間隙を突いてオムニチャネル販売の‘救世主’となるやも知れない。
 現実にはテナント各社の状況も思惑も一様ではないし、システム連携も簡単に進むとは限らない。課金料率も統一基準を公表しておらず、テナントによって必ずしも一律ではないようだ。立ち上がったECフロントも使い勝手はまだまだで改良の余地が大きく店舗在庫との連携も途上だが、商業施設テナントのオムニチャネル販売時代を開く画期的事業として今後に注目したい。

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