小島健輔の最新論文

ファッション販売2003年11月号掲載
『クラスストア神話を目指すユナイテッドアローズの新創業』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

UAが仕掛けた新創業戦略

 売上のみならずマネジメントの精度でもセレクトショップの頂点に立って独走するユナイテッドアローズ。原宿本店の増設リモデルをクライマックスとする一連のパイロットストア開発、既存店の移転進化は、現状に甘んずる事なく既存のセレクトショップの枠を超えたクラスストアを目指す新創業戦略に他ならない。
 同社の目指すクラスストアとは、突出したヒト(接客)、モノ(品揃え)、ウツワ(店舗)によって顧客に装いの悦楽と真の満足を提供する別格のストアであって、高価格なラグジュアリーストアを意味するものではない。だだ、感性と顧客満足についてはラグジュアリーブランドと同列に競うものだ。その志しは原宿本店のリモデルでも、丸の内に移転した「ソブリンハウス」でも、青山骨董通りに新設された「ドゥロワー」でも脈々と息づいている(詳細はカラーページ参照)。  ボフィルが設計した流麗荘厳なネオ・クラシック建築にモダン・アールデコのインテリア意匠を重ねて「東洋と西洋の融合」を意図した原宿本店メンズ館、シンメトリーな配置の中に鏡のマジックを凝らし、真黒のベルベットのカーテンが劇場を暗示する「ドゥロワー」、重厚で居心地のよいサロン空間が外界の現実を隔絶する「ソブリンハウス」のウツワは、もはやセレクトショップという域を超えてラグジュアリーストアの範疇に入る。
 販売アルバイトから幾次もの選抜を経て登用されていく厳しい競争、現場で叩き込まれ身体が覚えた小売の精神と技術水準の高さ、志しを共有し自ら考え行動する組織理念、という同社の根底の強みはいささかも衰えておらず、ヒト(接客)の質はラグジュアリーブランドに優るとも劣る事はない。
 モノ(品揃え)についてはV字回復の過程で顧客に近づき過ぎた感は否めず、一連の新創業プロジェクトにおいてはウツワ以上にオリジナリティが問われ、一部では貴族趣味が指摘されるほど装いの悦楽が追求された。その実現度はプロジェクトやカテゴリーによって異なり、開店に漕ぎ着けた段階ではまだ荒削りな点も残されていたが、 自ら考え行動する組織が顧客の声に耳を傾け完成度を高めていくに違いない。

今、なぜ新創業なのか

 UAの仕掛けた一連の新創業戦略はファッション業界のみならず幅広い顧客層にインパクトを与えるものだが、セレクト業界の頂点に立った今、なぜ新創業を問わねばならなかったのだろうか。その理由は以下の四点だと推察される。
 1)頂点に立った勢いで多店化を加速してナショナルチェーン化することを避け、志しを共有する密度の高い現場組織による高質なジュニアチェーンの複合体という成長戦略を明確化する必要があった。
 2)メーカー系、商社系等のセレクトショップやセレクト感覚のSPAが急増する中、ヒト、モノ、ウツワはもちろん、調達戦略でも店舗運営でもマネジメントでも突出したポジションを確立する必要があった。
 3)こだわり世代が社会の第一線に立って購買力を高めるにつれ、ストリートからモードへファッションの主導権が移行。限り無くラグジュアリーに近い感性とクラス感を持ったブリッジ・マーケットが台頭する中、セレクトショップの原点に立ち帰ってスペシャルティなブリッジクラス・ブランドを囲い込み、それらに遜色ないクリエイティブ・ベーシックなオリジナル商品を開発する必要があった。
 4)ビームスをスピンアウトしてUAを創設し、理想のクラスストアへの進化を牽引してきた経営陣も五十才前後に老成し、高い志しを組織に浸透させていく気力と体力の限界が近づいていた。次世代にバトンタッチするには、創業に匹敵するプロジェクトを担わせて貴重な経験を積ませ、次世代リーダーとしての自覚を促す必要があった。

業績推移に見るUAの課題

 華々しい新創業戦略が功奏して突出したポジションを切り開いても、それによって総ての課題が解決される訳ではない。業績の推移を見る限り、UAは以下の課題を抱えている。
 「ユナイテッドアローズ」は2001年第1四半期来の9四半期、「グリーンレーベル・リラクシング」は2000年第3四半期来の11四半期、既存店のブーム的売上増が続き、前者は昨冬以降、後者は昨春以降、客数増が鈍って伸び率が急速に鈍化している。2003年3月期の販売効率は「ユナイテッドアローズ」が年坪870万円に達して99年3月期の水準を超え、「グリーンレーベル・リラクシング」は年坪636万円と2期で二倍近く伸ばしており、客数増による売上増加は限界に近づいている。
 問題はこの売上急増の過程で進行した1)カジュアル依存とドレスの相対的停滞、2)ウィメンズのシェア低下、3)アウトレット依存率の上昇であり、これを解決しないと売上は停滞に転じてしまう。
 1)カジュアル依存とドレスの相対的停滞はメンズ/ウイメンズに共通する問題で客単価の低下を招いていたが、両者とも既に客単価増に転じており、新創業戦略に先行して改善が始っているようだ。メンズでは人気に乗ったビジカジが先行したが、今回の新創業戦略ではフォーマルやオーダーと並んでスーツの抜本的進化も注力されている。レディスでもオリジナルの「UAクラシック」強化に加え、ソワレの拡充が目立っている。
 2)ウィメンズのシェアは2001年3月期をピークに低下に転じ、メンズ比で89.2%から今第1四半期では72.6%まで低下。既存店伸び率でも2001年夏期来、平均して20ポイント前後もメンズに差をつけられている。これはメンズの独走に比しての類似店競合の激しさが主な要因で、メンズほど突出したポジションを確立していないという抜本的な問題が指摘される。今回の新創業戦略ではドレスやソワレ、服飾雑貨の拡充とクラスアップに注力しており、「ドゥロワー」等のイメージ効果も加わって一歩、抜け出たのではないか。
 3)アウトレット依存率は2001年3月期の2.3%から2003年3月期は6.1%、今第1四半期は7.3%と急上昇しているが、これはプロパー消化率の悪化を意味するものではない。レギュラー店舗の鮮度を維持し、早期打ち切り早期立ち上げという前倒し政策を徹底しているからだ。その効果は抜群で、UAは先行提案/鮮度抜群のストアと認識されている。今後、新創業戦略でクリエイティブな商品が増えていけば若干の上昇は有るかも知れないが、8%を超えなければ健全な必要悪の範囲と見て良いだろう。 

本質的強みを倍増した新創業効果

 様々な課題を残しているとは言え、新創業戦略によってUAが得たものは極めて大きい。広く国内外の業界やプレス、潜在層も含めた顧客に与えたインパクトは創業時を遥かに上回り、将来の可能性を大きく広げたのはもちろんだが、UAの原点的な強みである1)経営陣の志しの高さ、2)志しを共有し現場に実現する組織活力、3)自ら考え学習する現場の進化力、をまざまざと実感できた事が一番の成果だったのではないか。この三本の矢が揃う限り、UAの発展が止まる事はないだろう。 

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