小島健輔の最新論文

マネー現代
『アパレル異変、いよいよ「ユニクロ」がH&Mを抜いて「世界2位」へ…!』
(2020年07月01日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

グローバルSPAの首位争い推移2

ZARA、H&M、ユニクロ…コロナ影響の「大きな差」

グローバルSPAの首位企業インディテックス(主力業態は「ZARA」)の20年2〜4月期売上はコロナ危機で前年同期から44.3%も減少したが、同二位のH&Mは3〜5月で50%減少と、さらにダメージが大きかった。

もっとも傷が浅かったのがファーストリテイリングで、3〜8月の売上を前年同期比13.8%減と見込んでいる。

ファーストリテイリングの傷が浅かったのは、売上の22.3%を占める中国を中心としたグレーターチャイナ圏が4月から回復に転じ、同38.8%を占める日本も5月から回復に向かう一方、回復が遅れる欧米圏の売上が9.7%と限られたことが幸いした。

逆にインディテックスは77.5%、H&Mは82.6%(一部アフリカ圏を含む)と売上が欧米圏に偏っており、その分、ダメージが大きく回復も遅れてしまう。

展開地域に加えて決算期の違いもダメージの大きさを左右する。

ファーストリテイリングが8月、H&Mは11月、インディテックスは1月と異なり、各地域のコロナ休業の時期と決算期間の重なり方でダメージが大きく違ってくる。

ファーストリテイリングが上期(19年9月〜20年2月)の売上を前年同期と同額の1兆2085億円、営業利益を11.3%増の1367億円で折り返し、8月までの通期で売上を8.8%減の2兆0900億円、営業利益を43.7%減の1450億円と、下期も赤字にはならないと読み切っているのに対し、インディテックスは2~4月期で4億900万EUR、H&Mも3~5月期で49億9100万SEKの純損失を計上、どちらも通期の業績見通しを発表できないでいる。おそらく、ファーストリテイリングのような軽傷では済まないだろう。

ECで「ダメージをカバー」できる…のか?

コロナ休業ではECが救世主となったが、店舗売上の減少が大きいと埋め切れるものではない。

インディテックスのECは2〜4月期に50%も伸びて全社売上の38%に迫ったが、60%も減少した店舗売上を埋め切れず全社売上は44.3%減少した。H&Mは3月1日〜5月6日に46エリアで稼働したECの伸びが32%にとどまり、全社売上は57%も減少した。

インディテックスのECは前期で22.9%伸びて全社売上の13.9%(39.2億ユーロ/約4730億円)、H&MのECも前期で23.3%伸びて全社売上の15.9%(370億SEK /4255億円)に達していたが、ファーストリテイリングのECは年率31%伸びても前期で2583億円(EC比率11.2%)、国内ユニクロのECは前期で832億円(同9.5%)、今上期でも525億円(11.3%)と、両社に比べれば出遅れている。

EC比率だけ見ればH&Mが15.9%とリードしているが、各国のDCに在庫を積んで出荷する体制のままで在庫効率の改善に寄与しておらず、コロナ危機で売上が半減しても在庫を圧縮できなかった。

対してインディテックスはEC比率が13.9%とH&Mより低くても、19年中に店舗在庫を引き当てて店渡ししたり店から出荷するC&C(クリック&コレクト)に切り替えて顧客利便と在庫効率を高め、コロナ危機にあっても4月末在庫は前年から10.1%も圧縮している。H&MのC&CはECを展開する51マーケットのうち、まだ14しか導入できておらず、5月末在庫も前年から1%しか圧縮できていない。

EC比率が11.2%と一番低いファーストリテイリングの足を引っ張っているのは物流体制の転換が遅れた国内ユニクロで、中国ユニクロは店在庫引き当てのC&Cを実現してH&M並みのEC比率に達しているのに、国内ユニクロはいまだ店受け取り商品も有明のEC専用倉庫から店舗に出荷している。

「ユニクロ」のようなベーシック商品なら店舗の休業をECでカバーするのは容易だが、フィットに癖があったりデザイン性が強いとECでカバーするのも限界がある。長期のコロナ休業を余儀なくされたデザイナーブランドの多くはECへの布石が遅れており、コロナ休業に慌ててEC拡大を図っても売上を伸ばせなかった。

A.C時代は「ユニクロ」に有利

コロナ危機の切り抜けはファーストリテイリングが最も優位で、インディテックス、H&Mとダメージが大きかったが、A.C(アフター・コロナ)時代も「ユニクロ」に追い風が吹きそうだ。その理由は二つある。

第一はカジュアル化の加速だ。

これまでも「クールビズ」や「スニーカー通勤」など節目ごとにカジュアル化が進んで来たが、コロナ危機を契機としたリモートワークの定着や行動の生活圏シフトで異次元なカジュアル化が加速する。

オフィスや繁華街で傍目を意識してお洒落する必要も薄れるから、スーツやジャケット、革靴やパンプスは滅多に必要としなくなり、生活圏での気負わないカジュアルにシフトする。トレンドを追ったりセンスを競う必要も薄れるから、シーズンの新作や割高なブランド品を購入する機会も激減する。

「ZARA」の魅力は自社工場でプレス仕上げするドレスアイテム(ビジネスウエア)、「H&M」の魅力は都会的なモードアイテムであり、どちらもカジュアルには突出した魅力がない

それに対して、アメカジに発して誰にも着れる国民的カジュアルに進化しグローバルカジュアルに化けた「ユニクロ」は両者よりダントツにカジュアルに強い。品質管理も徹底され価格も手頃だから、両者より優位に立てる。

「グローバル」から「ローカル」へ

第二はローカル化の急進だ。ブリグジットに始まってトランプ大統領で加速したローカル化と分断の潮流がコロナ危機で露骨に加速され、世界は一発触発の悪夢を見ているが、ファッションの世界もグローバルトレンドからローカルトレンドに急転している。グローバル展開のブランドやアパレルチェーンが破綻したり撤退しているのは世界的な現象で、コロナ危機を経て一段と加速すると見られる。

もとよりアパレルはローカルなもので、コーカソイドもアングロサクソン系、ラテン系、アラブ系、モンゴロイドも華北系と華南系でファッション感覚もフィットも大きく異なる。それがグローバルに展開できた時代こそ特異だったのではないか。ラテン系の「ZARA」やアングロサクソン系の「H&M」がモンゴロイド圏でシェアを広げるのは限界があり、モンゴロイド系の「ユニクロ」が欧米でシェアを広げるのも同様に限界がある。

アパレルマーケットの成長性もモンゴロイド圏はコーカソイド圏より圧倒的に優位だから、ローカル化が急進してもモンゴロイド圏に強い「ユニクロ」の優位は変わらない。ローカル対応も「ユニクロ」が一番積極的で、地域によっては思い切ったローカル企画も投入しているが、「ZARA」も「H&M」もサイズバランス止まりでローカルフイットにも消極的だから、ローカル化が加速すれば「ユニクロ」の優位性はますます高まる

ファーストリテイリングは首位になれるのか

直近決算売上を円換算すると、首位は3兆4510億円(20年1月期)のインディテックスで、2兆6767億円(19年11月期)のH&Mが続き、2兆2905億円(19年8月期)のファーストリテイリングは3位に留まる。首位のインディテックスを100とすれば、H&Mは77.6、ファーストリテイリングは66.4だが、6年前はH&Mは87.8、ファーストリテイリングは52.7だったから、H&Mが伸び悩んだ一方、ファーストリテイリングは追伸して差を縮めた。

コロナ危機の影響はファーストリテイリングが一番軽く、20年8月期の売上見通しを2兆0900億円と発表しているが、インディテックスは第1四半期(20年2〜4月)を44.3%減と発表しても21年1月期見通しは出していない。H&Mは第2四半期(20年4~6月期)をようやく発表したが、通期(20年11月期)見通しは開示しなかった。

両社が発表している数値をファーストリテイリングの地域別・時期別の見通し詳細と照合すれば大まかな予測はつくが、インディテックスの21年1月期は前期から18%減の2兆8300億円(232億EUR)、H&Mの20年11月期は24%減の2兆0350億円(1770億SEK)と推計したい。

EURもSEKも前決算年度のレートで計算しているから為替が動けば変わってくるが、大きく落としてもインディテックスの首位は変わらず、ファーストリテイリングがH&Mをわずかに(550億円)抜いて二位に上がる

H&Mの過剰在庫体質はコロナ危機でさらに悪化し、資金力にも乏しいから成長が回復する可能性は薄く、為替がSEK高に振れて今期の逆転はならずとも、来期は確実にファーストリテイリングが二位になる。

インディテックスは短サイクル生産による調達と在庫の圧縮でコロナ危機を乗り越え、豊富な資金力で来期は再成長に転ずるから、前述した二つの優位があってもファーストリテイリングとの差は短期には縮まりそうもない

論文バックナンバーリスト