小島健輔の最新論文

販売革新2005年6月号掲載
『IY初のモール型SC“アリオ蘇我”を検証する』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 SC戦略の出遅れを一気に解消せんとばかりに、イトーヨーカ堂のSC開発が加速している。4月27日開設の“アリオ蘇我”を皮切りに、秋の川口SCと札幌苗穂SC、来春の亀有SCと目白押しだ(5月24日開設のIY三郷店はHC/シネコンを併設した大型GMSと位置付けられている)。
 イトーヨーカ堂のSCと言っても上記のSC群は開発やリーシング、運営管理など大なり小なり外部企業に委託した過渡期の物件で、イトーヨーカ堂が開発・運営するSCとは言い切れない。SC戦略の推進母体としてイトーヨーカ堂60%/三井物産40%で設立されたモール・エスシー開発も本格的に稼動するのはポスト亀有の新物件からになりそうで、“アリオ”とブランディングする基準もまだ定まっていない。“アリオ”の赤と青のカジュアルなロゴもSSMかスーパーセンター的な安っぽい印象を否めず、アップスケールな広域型モールというイメージにはほど遠い。開発中の川口SCと札幌苗穂SCも難問山積で、イトーヨーカ堂のSC戦略は子細を詰め切れぬまま見切り発車したばかりという印象だ。

“アリオ蘇我”はRSC立地のコンパクトなCSC

 “アリオ蘇我”はJR外房線蘇我駅から南東に約800m、京葉道路蘇我インター/松ヶ丘インターからも近い、旧JFEスチール跡地を再開発した商業コンプレックス(米国式に言えばオムニセンター風?)“ハーバーシティ蘇我”の中核施設として開設されたもの。“ハーバーシティ蘇我”総体では敷地面積14万余平米、店舗面積7万3千余平米とRSC級のスケールだが、アミューズメント施設の“フェステイバルウォーク”(延べ床面積23,591平米)、家具&ホームセンターの“島忠ホームズ”(延べ床面積58,267平米/売場面積約33,000平米+屋外売場約2,000平米)、“アリオ蘇我”は公道で分断されており、それぞれの駐車施設を持つ独立した商業施設という性格が強い。売場と立駐をそれぞれ長いブリッジで繋いだ“アリオ蘇我”と“島忠ホームズ”は物理的には行き来が可能だが、“フェステイバルウォーク”は歩ける距離ではない。
 ブリッジで繋がれているとは言っても、その間は中央分離帯のある四車線の公道とIYの荷受け施設で分断されて相当な距離があり、売場間の行き来には抵抗感がある。しかも、敷地の形状ゆえにIYの後端と“島忠ホームズ”を繋ぐ形で、モールを挟んだ2核ワンモールの配置とはなっていない。“IYリバーサイドモール”の隣に“島忠ホームズ”が後で開店した葛西のケースでも、その前後でリバーサイドモールの売上にほとんど変化が見られなかった事を考えても、購買局面の異なる両者を一体の商業施設と見るには無理がある。よって“アリオ蘇我”は敷地面積68,494平米/商業面積34,096平米/駐車台数1,650台の独立した商業施設と見るべきだ。
 その実態はコンパクトなCSCであり、半径5km圏内の売場面積占拠率は6.9%、3km圏内でも12.96%に留まる。テナント85店/内物販店52店というモールの陣容も120〜180店が揃う大型モールのバラエティにはほど遠く、大型モールの常連有力テナントの多くが欠けており、イオン本体系のモール型CSCにさえ見劣りがする。IY核の箱型CSCをモール形状にしてテナントのバラエティを増やしただけ、というのが偽らざる実感だ。これではCSC級の商勢圏しか確保できなくても仕方あるまい。
 半径3km圏内人口9.3万人/5km圏内人口23.8万人/10km圏内人口90.3万人と密度も広がりもある肥沃な立地に恵まれているが、北〜西方向は千葉ダウンタウンや幕張/船橋の商業集積に阻まれ、ドライブタイム15分圏人口は5km圏人口を二割弱下回るなど足下のカーアクセスにも難が在る(面する国道357号線の平均通行速度は21kmと流れが悪い)。競合の薄い東から南にかけては商勢圏の広がりが期待できるが、5km圏内売場占拠率6.9%という過小規模ではその広がりも限られよう。東から南にかけて大型商業施設が開設されれば、その商勢圏とて一気に縮まるリスクを否めない。
 当初はデベ目標の年商200億円(IY90億円/専門店110億円)に近い売上が稼げても(約6%ほど不足すると推計される)、先の発展が期待できない過小規模が悔やまれる。広域商圏が望める好立地だけに、せめて商業面積5万平米/モールテナント150店級にして5km圏内売場占拠率10%は確保しておくべきであったろう。

“アリオ蘇我”は本格的モール型SCか

 規模はともかく、中身はモール型SCと言える代物なのだろうか。モールのファッションテナントを見ると大型モールの常連有力テナントが少なからず欠落しており、ワールド/イトキンを除く大手が出店を控えた事が解る(オンワードは1店も出していない)。RSCタイプのファッション店はワールドの“オペークドットクリップ”“エーディーライフ”、サンエーインターナショナルの“&バイ・ピンキー&ダイアン”、イトキンの“PSペルスクープ”、レナウンの“アーノルドパーマータイムレス”、エクシブの“ココルルスクエア”、アートヴィレッヂの“ビーチサウンド”ほか数店で、あとはCSCにも出ているボリュームタイプばかりだ。加えて、箱型CSCに出ているような最寄り系の業種も目立つ。
 ワールド勢が出なかったらモールが成立しなかったという危うい構成で、箱型CSCにモールテナントを加えて格好をつけたという見方も出来る。逆に言えば、このモールスケールでこれだけRSCタイプのテナントを集めたのは立派なもので、イオン八千代緑が丘SC(商業面積47,000平米/テナント122店)のように大きくてもCSC寄りの構成に徹した方が営業的には確実だったかも知れない。
 テナントゾーンがIYの箱内に食い込み(2F)、環境的にもモールと区切り感がないという点(モールを長く見せる効果はあるが)、排煙区画がIYの箱内と同様にモールを横切って設定されている点も、箱型CSCの延長という印象を強めている。防火シャッターが露骨にテナント内を分断するなど、モール設計の不慣れさも随所で目についた。
 SMのレイアウトを優先したゆえIYを“島忠ホームズ”側に配して2核ワンモール構造の好機を逸し、1Fのエンドに“無印良品”“フランフラン”、2Fのエンドに“スーパースポーツゼビオ”を配したものの1核ワンモール構造を出られなかった事も悔やまれる。過小規模に加え、全体の施設配置でもモールのテナントミックスでも環境表現でも“アリオ蘇我”は本格的モール型SCとは到底言い難い。
 辛口の評価となったが、SC開発に不馴れな段階ゆえのミスは数をこなすうちに解消されていくものだから、将来を悲観する必要は無い。が、イトーヨーカ堂がイオン本体のモール型CSCの旨味を見てSC戦略に打って出たのだとしたら、モール開発の根本的な志しが異なる。モールテナントとの長期的な共存共栄を目的とするモールビジネスとアンカー自身のメリットを第一義とするCSCビジネスは似て非なるもので、テナント企業はその志しを見抜かなければならない。イトーヨーカ堂のSCビジネスがどちらの志しに立つものか、川口、苗穂、亀有まで見れば答えが出るだろう。

顧客を切り捨てIYは何になろうとしているのか

 “アリオ蘇我”はモール型SCの核店舗たる明日のIYを占う意味でも興味深い。従来のアーバン密集地での箱型GMSから郊外モール型SCの核店舗へ、IYはどう変わろうとしているのだろうか。“アリオ蘇我”のIYにその徴候を探って見た。
 “アリオ蘇我”IYの第一印象は『え!衣料品売場ってこれだけしかないの』というものだった。かつての「衣料のIY」という残像が焼き付いている業界人にとって“アリオ蘇我”IYの衣料品売場は異様にコンパクトに見えたはずで、全体スケールもモールの核店舗としては小振りな印象を受けた。
 イトーヨーカ堂の広報によれば“アリオ蘇我”IYは15,500平米と、18,000平米級が当たり前になった最近のモール核ジャスコと較べるとひと回り小振りな事は事実。売場面積シェアは衣料品52%/住居27%/食品21%と最近のIYとして標準的なバランスと公表しているが、実際には食品がひと回り大きく、“島忠ホームズ”を回避してか住居がコンパクトになっている。売上予算シェアも衣料品25.6%/住居20.5%/食品53.9%と05年2月期決算とピタリ同じ数値を公表しているが、これよりも食品シェアがやや高く住居シェアがやや少ないバランスになるのではないか。
 小さな衣料品売場を印象づけている要因は、その絶対スケールよりもバラエティの欠如にある。客層のみならずテイストやルックのバラエティまで極端に絞り込んだSPA的なMDあるいはブランド揃えの売場が大割りに組まれているだけで、マイナーニーズに対応する小切りな売場や編集カセットはまったく見られない。
 レディスでは“ジーニングガレージ”で団塊ジュニア〜中間世代にベーシックカジュアル単品カセット群とインポートブランドを含むトレンドデニムで対応、洋品平場/アウター平場は団塊世代〜中間世代に“Passo”“クロコダイル”などの洋品ブランドコーナーと凡庸なエレガンスカジュアル〜フェミニンモードの単品カセット/ルックカセット群で対応、フォーマル売場は他社と見分けもつかないようなコンセブランドを軸に構成と、信じ難いほどシンプルに割り切られている。メンズでも“ジーニングガレージ”で団塊ジュニア〜中間世代にベーシックカジュアル単品カセット群とNBデニムで対応、2Fの洋品平場では団塊世代〜シニア層に“ゴールデンベア”“クロコダイル”などの洋品NBコーナーとアダルトカジュアルのカセット群で対応、アウター平場はトラッド臭の強い保守的なMDで団塊世代中心に対応、ビジネス売場はネクタイ/YシャツからスーツまでB級NB依存のベーシックなMDで対応と、これまた異常なほどシンプルに割り切られている。
 服飾雑貨/子供服を含んで2400坪以上もある衣料品売場がかくも少数の大割り売場で構成されているのだから、『え!たったこれだけ』と絶句せざるを得ない。百貨店のように様々な客層/テイストにきめ細かく小割りに対応している売場と比較すると、無視し難い量の顧客やニーズが切り捨てられている。ちなみに当社の今シーズン版客層マップに対照して見ると、“アリオ蘇我”IYのレディスウェアはカバー率2割弱と都市百貨店(カバー率7割強)の4分の1程度、メンズウェアもカバー率2割弱と都市百貨店(同約6割)の3分の1程度と、極端に絞り込まれているのが解る。これで広範な集客が期待されるモールの核店舗が勤まるとはとても思えない。
 MDの構成を見ても、無難な定番や売れ筋に絞った大型少数のカセット群が整然と組まれているばかりだ。全面に打ち出した“ジーニングガレージ”にしても、レディスのプレミアムデニムや一部のルック訴求を除いては定番的あるいは皆様御存じの売れ筋カセットが大割りに組まれているだけで、レイヤードに慣れた団塊ジュニア以下の世代には単純すぎてリミックスの組みようもない。NBでジーンズが構成されているメンズではコーディネイト提案もほとんど見られず、異様にキレイ目面の定番カジュアルの大型カセットが“ユニクロ”のように並んでいる。トップスもトレンド性が皆無に近く、チノパンなどアダカジかと見まがうほどだ(今時、洗いくたらせたワークパンツであるべきでしょう)。
 総じてIYの衣料品はカジュアルでも品質感を重視したキレイ目面商品がほとんどで、後加工をかけた商品は“ジーニングガレージ”のレディスデニムに見られる程度。ディスプレイでもジャストサイズのジーンズをウエストまで深履きさせる感覚で、ワンサイズ上を腰履く着崩し提案(今時、ごく普通だが)などは想像もつかないようだ。デザインも仕上げ面もベーシック、着こなしも保守的に絞り込んだIYは、トレンドマインド/ユースマインドの顧客も切り捨てている。
 IYの衣料品は価格でも顧客を切り捨てている。ジャスコに見られるような“ユニクロ”や“ハニーズ”に張ったロアーポピュラープライスは皆無に近く、GMSのコアプライスであるアパーポピュラー〜ロアーモデレートを中核に、平場カセットでもアパーモデレート〜ボリュームベター商品が少なからず見られる。さすがに子供服はこの限りではないが、手頃な衣料品を期待する顧客は切り捨てられた印象を否めないだろう(“アリオ蘇我”の客層を考えるとダメージは大きい)。 モールの核店舗としてPDSを志向するのならボトムプライスのカットもあり得るが、その一方で様々な調達手法や編集手法を駆使したニッチ対応の売場群、ボリュームベターから一部はブリッジに至る百貨店ブランドの大量導入が求められる。加えて、百貨店型のエンターテイメント食品が不可欠だ。これらを展開するには20,000平米級の売場面積が必要で、15,500平米とコンパクトな“アリオ蘇我”IYには無縁の存在と言うしかない。
 PDSは一方にGMSが存在する2核ワンモールを前提としたポジショニングと考えられるが、今日までのIYのSC開発を見る限り、PDS+GMSの2核ワンモールは構想されてもいない。将来、そのようなSCが構想されるとしてもPDSの役割を担うのはロビンソンであり、IYにその役は回ってこない。1核ワンモールのGMSとして見るならIYの価格政策は利益優先の顧客切り捨て政策の一貫としか言えず、集客力を割り引く一因でしかない。

モール核GMSはSPA化すべきか

 消化率重視の絞り込みMDに輪をかけているのがSPA型のMD手法/調達手法だ。バリュー感や厚い値入れを狙って素資材/加工プロセスを絞り込み、商社やAMSを活用あるいは自前ソーシングのOEM調達でカセットMDを組む手法で、従来の量販問屋とのタイアップ企画調達に替わってメジャー化しつつある。狙いは解るが、科学的な検証を経ない一方的な絞り込みは予期せぬ消化不振を招きかねないし、品揃えのバランスとバラエティを損なう弊害を否めない。  消化率が低下する中でのイトーヨーカ堂衣料品の急激な粗利益率向上と絞り込みカセットMDの進展を見る限り、SPA型のMD手法/調達手法が急拡大していると推察される。IYG生活デザイン研究所を設立して商品企画開発体制の一層の強化を図るイトーヨーカ堂だが、それが個々の商品力は高めても総体の品揃えバランスとバラエティをこれ以上損なうことになれば失うものも大きい。
 このようなSPA志向はライバルのジャスコとて同様であり、クリエイターを総合ディレクターとして登用するという域にまで踏み込んでいる。それがモールの核店舗たるゼネラルマーチャンダイザーにとってベストな選択か否かを今、イトーヨーカ堂もジャスコも問い直すべきではないか(多核型モールのお手頃PDSを志向するなら可だが)。
 モールのSPA達と同様なMD手法/調達手法によって選択的に絞り込んだ品揃えに徹すれば、その部分では強くなれるかも知れないが、切り捨てた客層やニーズの機会損失に見合うか否か、総合的な集客力が高まるか否かは未知数だ。加えて、モールのSAPに遜色ない売場環境やVMD運用/販売体制が伴わなければ、絞り込んだ品揃えを販売消化に結び付けるのは難しい。それらが今のジャスコやイトーヨーカ堂に伴っているとは決して言えない。かつてのイトーヨーカ堂は優れたVMD運用/販売体制を誇っていたが、近年の坪当たり人件費の急ピッチな低下とステレオタイプな売場運用を見る限り、それは確実に劣化しつつある。
 GMSの商品政策には時々に流行があり、ウォルマート流のスーパーセンターが志向されたかと思えばターゲット流のファッショナブルなGMS(タージャイはNPB/開発PBを軸としたスタイリッシュなお手頃PDSと見るべきだが)が志向されるし、調達政策も問屋タイアップ志向だったりSPA志向だったりと一貫性がない。が、大型GMSの生き残りはモールの核店舗たれるか否かに収斂されており、その戦略視点で商品政策/調達政策/運用政策を一貫させてブランディングする必要がある。そのように見るならイトーヨーカ堂もジャスコもまだ時々の流行りに流されている状況で、モール核店舗としての確固たる姿を見い出してはいない。
 あくまで私見だが、3核4核の多核型モールでない限り、核GMSにはスタイルと政策的選択はあっても、多様な調達手法を組み合わせての顧客カバー率と品揃え密度の高さは必須条件だと考えられる。その意味ではイトーヨーカ堂もジャスコも明らかに逆行しており、早晩の政策転換が避けられない。どちらが先にその真実に気付き真摯に実現せんとするかがモール核GMSの勝者を決する事になる。SC開発はその手段とはなっても決定打とはなり得ない。それは4月号で提じた通り、専業デベロッパーがSC開発を主導する時代に移るからだ。

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