小島健輔の最新論文

マネー現代
『「貧しい日本」で、いま「古着ブーム」が起きている
“意外な舞台裏”』
(2022年01月19日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

古着が新品を駆逐する…!?

コロナ禍が長引いて売上の減少に耐えられなくなったアパレルストアやブランドショップが撤退して寂しくなった街中に、いつの間にか古着のお店が増えているのにお気付きだろうか。

ファッションの中心地、原宿でもシャッターが目立つ竹下通りに古着屋が増え始めているし、明治通りでもチラホラ見られるようになった。

一部は高額な家賃を払ってくれるブランドショップなどが戻ってくるまでの「期間限定」店舗だったりするが、そんな幸運はかなり先になると諦めて相場の半額以下で古着店に貸し出す大家もあるようだ。

いずれコロナが収束すればブランドショップなどが戻ってきて家賃も回復し、古着店は消えていく運命かと思われるだろうが、そうはならないかも知れない。なぜなら一旦、街角に古着店が増えだすと新品を扱うアパレル店が売れなくなって撤退が広がり、古着店ばかりになってしまう例が見られるからだ。

中国が「古着の輸入」を全面禁止している事情

下北沢などその典型で、今や新品を扱うアパレル店はほとんど見られない。

ちなみに古着は先進国から放出されて途上国へ流れていくグローバル商材で(中古車と似てますよね)、途上国に先進国の安くて良質な古着が流れ込むと現地の新品アパレルが駆逐され、アパレル産業が衰退してしまう。そんな例が少なくないから、ナイジェリアやベトナムなど古着の輸入を禁止したり厳しく制限している途上国もある。

ちなみに、世界に安価な新品アパレルを大量輸出している中国は古着の輸入を全面禁止している(なんでも自国都合の一方通行なんですね)。

貧しくなっても流石に我が国を途上国とは言えないが、安価で良質な古着の供給が増えると割高な新品が食われることは否めず、普段着のカジュアルなどでは新品を駆逐しかねない。

実際、古着店では見知ったブランド衣料が新品時の2〜3割、物によっては1割ぐらいの価格で売られているから、古着に馴染めば割高な新品には手が出なくなってしまう。

古着は誤解されている

古着というと「貧乏臭くて不衛生」という先入観を持つ人もいまだ少なくないが、それは昔の話で、今日の古着店で売られている古着は経年変化や多少の傷みはあるかも知れないが、クリーニングと消毒、検針を経た清潔で安心できる商品だ。 

古着はゴミから選別されているというのも誤解で、欧米から放出される古着は分別回収や寄付、事業者の廃棄によるもので、ゴミとは全く異なるルートで仕分けられ再商品化されてグローバルに流通している。

わが国でも資源ゴミの繊維・衣類として分別回収されており、行政が回収した繊維・衣類は故繊維事業者が落札して衣類とそれ以外のタオルや寝具、端布などと分別し、最も良質な古着は国内市場向け、まだ着られる古着は輸出向け、淡色の綿百%無地はウエス(機械用雑巾)向けなど、細かく仕分けられる。

ちなみに、汚れた衣類・濡れた衣類が混入していれば最初に外され、行政が再回収して焼却するから、古着に再生されることはない。

故繊維事業者は行政と連携して廃棄繊維・衣類の分別・再生を担うサステナブルな事業者なのに誤解されてきた経緯があり、メディアも興味本位でそんな過去のイメージを強調する嫌いがあるが、地球に優しいリユース・リサイクルが真剣に追求される今日、早々に改められるべきだろう。

古着の流通はメルカリやラクマなどフリマサイトで個人が販売するC2C、街のリサイクル店(「2nd STREET」などチェーン店が多い)が顧客から買い取り仕入れして販売するC2B2C、ファッションストリートの古着店が主に欧米の古着を仕入れて販売するB2B2Cからなる。

古着流通の大半は国内で販売されたブランドの高年式(新しい)品が多いC2CかC2B2Cで、ファッションストリートの古着店が扱う欧米の輸入古着(低年式品もヴィンテージ商品として評価が高い)は数量の7%ほどに過ぎない。

ファッションストリートの古着店で売られている古着は回収ルートが清潔な欧米放出品か、国内ウエス屋ルートでも上質品であり、クリーニングと消毒、検針を経た清潔で安心できる商品だと認識を改めるべきだろう。 

ブーム再来を裏付ける二つのデータ

古着ブームの再来を裏付けるデータは二つある。

ひとつはリサイクル通信が毎年、発表している市場規模で、20年の衣料・服飾品(高級ブランドを除く)リユース販売額は前年から11.1%伸びて4010億円と大台に乗った。

16年の1869億円からは2.15倍に拡大しており、「衣料・身の回り品」小売売上(商業動態統計)に占める割合も16年の1.7%から20年には4.6%に急伸し、21年は5.5%まで拡大したと推計される。

これは金額ベースの比率であり、数量ベースでは15%に迫るから、割高な新品衣料は駆逐されかねない勢いだ。

もうひとつはファッションストリートの古着店の主力たる輸入中古衣類の急増だ。

21年は11月までの累計で39.5%増と中古衣類輸入量が急増しており、このペースだと通年は8747トンと、前回ブームピークの8082トン(05年)を超えて記録を塗り替えることになる。

単価も上昇しているが11月までで877円/kgと18年頃の水準を回復しただけで、01年、02年頃のように1500円を超えるような動きではない。マニア向けのヴィンテージアメカジがブームとなった前回(02年の平均単価は1536円/kgだった)と比べれば、今回のブームはマニアという枠を超えて広範な客層に拡がっていると見るべきだろう。

貧しくなった日本で古着が売れる

マニア中心に盛り上がった前回の古着ブーム(02〜06年)はリーマン前で景気は悪くなかったから、景気が悪いと古着が売れるというわけではないが、今回は勤労者所得の減少に社会負担増とコロナ禍が加わって先進国最下位の「貧しい日本」に転落したことも、古着ブームの一因になっていると思われる。

長年にわたって経済が停滞して所得が減少し(平均給与は00年から20年で6.5%減)、少子高齢化と不効率な行政で国民負担率が肥大して(00年36.0%→20年44.6%→21年46.0%)実質消費支出力の減少が止まらず(00年から20年で19.0%減)、生計が貧窮してエンゲル係数が上昇し(00年23.3%→20年27.5%)、被服・履物支出の切り詰め(00年5.1%→20年3.2%)を余儀なくされる中、割高な新品から格段に低価格でお値打ちな古着に国民の選択が流れるのも必然だろう。

古着は先進国から放出され途上国に流れる国際商品であり、一人当たりGDPが4万ドル以上の国から2万ドル未満の国に流れるとされるが、日が沈む我が国は41,775ドル(20年)と瀬戸際で、非正規就業者や母子家庭、学生の多くは2万ドルに届かない途上国的生活水準にある。

コロナ禍で低所得層への転落も増えているから、日本の半分は古着を輸入する途上国状態になっているのではないか。

中古車のリユース率から類推すれば

貧しくなった日本で古着が売れるという推論も、あながち見当外れとは言えず、古着と同様に先進国から途上国に流れる中古車と比較すれば、古着の市場規模はまだまだ伸びると思われる。

日本では年間の新車販売が500万台を割り込み、中古車は110万台が輸出され、380万台が国内で売れているから、新車と中古車は均衡してリユース率は100%近い。それは新車と中古車が1500万台で均衡している欧州も同様だ(米国と中国は事情が異なり均衡しない)。

衣料品のリユース率はまだ20%にも届かないが、自動車のように100%近くがリユースされるようになるかはともかく50%まで届けば、古着の市場規模は金額で3倍になる。

貧しくなったからかエシカル消費に目覚めたからかはともかく、リユース率がそこまで上昇すれば、コロナで8掛けになった新品の衣料消費はさらに半減してしまう。そんなシナリオが現実となれば、アパレル業界は一体どうなるのだろうか。

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