小島健輔の最新論文

WWDジャパン2004年12月13日号掲載
「百貨店への提言[下]」
『郊外RSC核百貨店はかく開発せよ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

郊外百貨店未だ離陸せず

 1969年11月開設の玉川高島屋以来35年間、郊外百貨店らしきものは丸井やロビンソンまで含めて40店を数えるが郊外ターミナルの独立店舗も多く、SC(ショッピングセンター)核店舗は30店弱に留まる(内、カーアクセス主体SCは10店のみ)。地方百貨店の主力移転ケースやPDS(プロモーショナルデパートメントストア=大衆百貨店)を除けば2万平米前後までの小型店舗が多く、広域集客力は大型量販店と大差ないのが実態だ。それゆえ売上実績も伴わず、近年の大型SC開設ラッシュによる売上減少も加わって、『郊外百貨店は採算が取れない』という認識が定着してしまった。
 2000年6月の大店立地法施行以降の大型SC開発ブーム下も郊外百貨店の開発機運は依然として低調で、大手デベロッパーの熱心な勧誘にも百貨店の腰は重い。
 90年代には10年間で13店舗がオープンしたが、2000年代に入り、今9月の堺北花田阪急まで4年半で9店舗と、開設ペースは加速したとは言え、2000年以降に開設された大型SC(商業面積3万平米以上)が延べ84ケ所に達するのに比べれば供給不足は深刻だ。
 70年代から90年代にかけて一社で3〜4店を開設した大手百貨店も、採算見通しが立たないまま新規開発が頓挫。今回の郊外大型SC開設ブームにも静観を決め込んでいる。『郊外百貨店未だ離陸せず』というのが実情だが、百貨店にとっても大型SCデベロッパーにとってもこのままでよいはずがない。

核百貨店なき大型SCの悲哀

 大型SCデベロッパーは核百貨店の不在をカバーすべく、核量販店のNB(ナショナルブランド)商財拡充を図ったり大手アパレルの複合専門大店を導入したりしているが、百貨店ならではの知名度の高いブランド集積と催事営業力は望むべくもなく、苦しい試行錯誤が続いている。鳴り物入りでオープンしたワールドの大型業態、フラクサス各店も当初予算には及ばないのが実情で、店頭通行客数をモール中央部のそれと比較しても核店舗としての集客力は疑わしい。SC全体の売上推移を見ても、開店景気は半年と続かず周辺競合施設への顧客回帰が顕著で、広域商圏の安定形成には程遠い。
 もしブランド商財を満載した核百貨店が存在すれば、超10km圏/ドライブタイム30分圏を商勢圏化できるものを、むざむざライバル施設に顧客を奪い返されている。多彩なブランド商財による顧客化と催事営業による広域商圏の掘り起こしという百貨店の営業力は、デベロッパーにとって咽から手が出るほど欲しいものなのだ。

百貨店はなぜ郊外SCに出られないのか

 そのように強力な営業力を持った百貨店が、なぜ郊外SCに出られないのか。その要因は以下の5点と考えられる。
 1)多様な個性を主張する様々なブランドが必要な顧客数を確保するには、郊外SCの商圏人口は少なすぎる。大都市郊外圏では超5万平米級の大型SCでも商勢圏は精々半径5km程度で、商圏人口は40〜60万人に留まる。ローカル郊外立地の超6万平米級SCは二桁の売場占拠率でドライブタイム30分圏を商勢圏化できるが、商圏人口は精々50〜60万人程度に過ぎない。どちらにしても、ターミナル育ちの百貨店にとっては堪え難い少なさであろう。
 2)たとえ競合条件に恵まれて商勢圏が大きく取れても郊外では顧客の質が伴わず、ブランド顧客は限られる。ダイヤモンドシティの福岡ルクルなど、この欠点が指摘されている。逆に言えば、商勢圏が小さくとも高質な顧客層が厚ければ郊外百貨店は成立する。玉川高島屋、星ヶ丘三越、ダイヤモンドシティの橿原アルル(百貨店はないが)はその好例であろう。
 3)ターミナルに比べて販売効率が格段に低いため、委託・消化取引ブランドメーカーが残品ロスを恐れて供給を絞り、さらに効率が低くなる。魅力的なブランドは端から出店を回避してしまい、集客力ある構成が組み難い。この壁を超えるには、百貨店がターミナル店に近い店舗構想で説得するしかないだろう。
 4)ブランド顧客が限られるなら、その下のボリュームを狙ってオリジナル商品を中核とした自主MD売場を拡充すればよい。ところが、客数が圧倒的に多いターミナルでも自主MD売場はほとんど採算が採れていないから、販売効率が格段に低い郊外で採算に乗る見込みはまったくない。例え自主MD売場のラインナップを揃える事が出来ても、顧客が百貨店に求めるのは衆知のブランド商品であり、3)の理由で魅力的なブランド構成が組めなければ集客が成り立たず、自主MD売場も採算に乗るはずがない。
 5)結果、販売効率が稼げず採算の見込みが立たないから、郊外百貨店開発は困難という結論になってしまう。販売効率が稼げなくとも、低投資/低運営コストなら採算に乗ると考えた百貨店もあったが、ローコスト内装の売場は百貨店らしい華やかさを欠き、パート&バイト主体の販売体制は売場保守を出られず接客の活気を欠き、顧客の失望を買うばかりで目論みは外れた。米国のPDSを手本としたような『低投資/低運営コストなら採算に乗る』という思い込みは、顧客によって明確に否定されたのだ。

地域顧客に真の百貨店を与えよ、さらば扉は開かれん

 これまでの郊外百貨店の失敗を総括してみると、1)ブランド顧客が限られる立地のSCに、2)せいぜい2万平米前後までの中途半端な規模で出店し、3)百貨店らしいブランド商財を欠いた大衆的な構成を組み、4)低投資/低運営コストでの採算乗せを目論んだ、の4点に尽きる。これが地域顧客の失望を買い、結局は失敗を招いている。
 では、新たに郊外SCに百貨店を出店するなら、どうしたら成功出来るのだろうか。すべてはこの4点の否定から出発すべきと考えられる。  まず、1)商勢圏は狭くとも高質なブランド顧客が集中している立地のSCを選択し、2)広大なデパ地下式食品フロアを含んで2万5千〜3万平米規模で出店し、3)百貨店らしいブランド商財を満載した上にお手頃価格の自主MD売場群で下支えする構成を組み、4)それなりに金をかけた百貨店らしい華やかな内装と人手をケチらない活気ある販売体制で顧客を迎え、結果として地域顧客の熱烈な支持を得て採算に乗せる。
 とんでもない空論という批判はもっともだが、顧客の支持を得られない店は離陸しない。一切の及び腰を捨て、とことん地域顧客の期待に応える捨て身の戦略が、必ずや成功の扉を開く。
 福田屋百貨店の事例を見れば、あながち空論でない事が理解されよう。店舗投資はSPC(特定目的会社に不動産を売却し、バランスシートから資産としての勘定を切り離し、売却代金を店舗投資や借入金の返済に当てる方法)にしてリスクを切り離し、営業損益追求に徹するなら、これは極めて現実的な戦略なのだ。

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