小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『ファミマの「コンビニエンスウェア」はジンクスを超えるのか』
(2024年01月16日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ファミリーマートの「コンビニエンスウエア」が注目されているが、果たして『食品の側で衣料品は売れない』というジンクスを超えられるのだろうか。GMS(総合量販店)衣料品の衰退が止まらない中、さらに客数の限られるコンビニエンスストアで衣料品の購買慣習は定着するのだろうか。

 

■ファミマの「コンビニエンスウエア」とは

 21年3月に立ち上げて全国のファミマ1万6500店に広がり、昨年11月30日には初のファッションショーも開催し、12月5日から麻布台ヒルズ店(タワープラザの4F)限定でアウター商品も展開するファミマの「コンビニエンスウエア」。「ファセッタズム(FACETASM)」の落合宏理デザイナーと取り組んだオシャレなイメージもともかく、ワンラック展開から始めて2.5ラック(売場の7%ほど)に拡大したのだから、コンビニの衣料品としては例外的な成功と言って良いだろう。

 同じセゾングループ発祥という縁もあってファミリーマートは19年まで(20年に伊藤忠商事がファミリーマートをTOBで完全子会社化)「無印良品」の衣料・雑貨も手掛けていたが、衣料品はソックスや下着などせいぜいワンラックに留まっていたし、ナチュラル&エシカルな「無印良品」とモダンな機能性の「コンビニエンスウエア」とは嗜好が大きく異なるから、ゼロからニーズを開拓したのと大差ない。

 『毎日着たくなる遊び心あるデザインと機能を低価格で。定番品こそジェンダーレス。サステナビリティは標準装備。』と謳っているから、今時のライフスタイルとソーシャルマインドに向き合っており、下着類は旭化成の柔らかい環境対応機能素材「Paircool」で吸放湿、吸水速乾、抗菌防臭機能を備えている。カラーは黒、白を基本にファミマカラーのグリーンとブルーやフルーツカラーがアクセントされており、くっきり爽やかな印象の高彩度トーン・イン・トーン配色は「Joe Fresh」とも共通して「生鮮食品」とも違和感がない。

 標準で2.5ラックを構成する品目のラインナップは「ソックス」が最多で子供用も1型あり、「タオル」はハンカチとフェイスタオル中心でバスタオルは1品目のみ。男女の「肌着」は「スキンタンクトップ」「キャミソール」「インナーT」「ボクサーパンツ」「トランクス」が各1型揃うが、女性用は黒とベージュ、男性用は黒と白、トランクスはサックスのみとソックスのようなカラー展開は無く、ジェンダーレスでもない。「Tシャツ」は白・黒、「スウェット」「レインパーカ/ポンチョ」は黒のみと、アウターは品目も色も限られる。応急アイテムとしてコンビニニーズの高いレインパーカ/ポンチョはカラー展開があっても良かったのではないか。いずれも透明のビニールやセロファンのパックに入れてフック陳列されており、標準の「棚割り」を基本に各店舗がアレンジしてフェイシング管理していると思われる。

 麻布台ヒルズ店ではデニムのジャケットやパンツ(紺とキャメル)、セーターやカーデガン(赤とキャメル)、フライトジャケット(黒)がハンガー陳列されていたが、これらは同店限定商品で、通常のファミリーマートで展開されるわけではない。コンビニには試着室もなく、物流やフェイシング管理を考えれば、今後もパッケージ商品に限られるのではないか。

 「低価格」と謳ってはいるが、各アイテムに付けられた価格は「ユニクロ」プライスであって「コンビニエンス」プライスという印象はない。ワンクラス上の「推し」グッズ価格も目立つ麻布台ヒルズ店限定アイテムは別としても、均一価格店や「バラエティストア」のプライスを期待した向きには肩透かしの感があるのではないか。

主力のソックスの税込429円(以下、全て税込、子供用は858円!)は「ユニクロ」プライスだし、タオルハンカチも600円/800円と実用品価格ではない。スキンタンクトップ/キャミソールは1200円、ショーツ720円、ボクサーパンツ990円、トランクス720円、Tシャツ1200円、スウェットトレーナー2990円、スウェットパーカ3990円、スウェットパンツ2990円、レインポンチョ2189円、撥水パーカ4389円と、概ね「ユニクロ」プライスで、「コンビニエンス」プライスとは言い難い。『コンビニでファッションを買う文化を作る』と構想しているから、応急対応のコンビニアイテムというより「ファミマ」推しのフアングッズという性格もあるのかも知れない。高単価・高粗利益率の衣料品による客単価と粗利益率の嵩上げというカテゴリーミックスの思惑も見え隠れする。

 

■『食品の側で衣料品は売れない』というジンクス

 量販衣料の業界では『食品の側で衣料品は売れない』というジンクスがある。90年代初期までは稼ぎ頭だったGMS(総合量販店)の衣料部門が見る見る売上を落としてお荷物部門に転落し、コンセブランド導入や売場縮小が続いてイトーヨーカ堂のように直営のアパレル事業から撤退するケースも出て来た。半世紀前までは食品スーパーに隣接することが多かった量販衣料チェーンも独立店舗やSCテナント店舗に移行し、今や総合量販店を除けば稀なケースとなっている。コロナ禍を経て衣料品のエッセンシャルシフト(普段着化)が進んだにしても、半世紀前の購買慣習に戻って食品スーパーの隣で衣料品を売ろうという良品計画の目論見がリスキーなギャンブルに見えるのは致し方あるまい。

 衣料消費総体が長期的に萎縮していく中でマーケットが多様化して「買い回り」が必定になり、スーパーで食品を購入するような日常の最寄り局面で衣料品を購入する慣習が薄れていったことが大きいと思われるが、大商圏の買い回り商業施設に流れる顧客を引き止めようと生活商圏の量販店が衣料品のマーチャンダイジングを買い回り(ファッション化)シフトしたことも、日常消費の場として愛顧する顧客とのすれ違いを招いたのではないか。イトーヨーカ堂はその典型で、POS過信の売れ筋集中で品揃えのバラエティを損ない、果ては伊勢丹出身の藤巻幸夫氏を取締役衣料事業部長に招聘しての百貨店的変身は下駄履き感覚の顧客を離反させて決定的な致命傷となった。

 『食品の側で衣料品は売れない』というジンクスは『日常の最寄り局面では「買い回り」衣料品のニーズは限られる』という本質に加え、『重くて温度管理が必要な食品の購入ついでの衣料品購入は無理がある』、『試着室を欠いてはフィッティングが必要な衣料品は売れない』という事情も反映していると思われる。ならば、試着が不要な手頃価格の日常着をパッケージ販売するなら『食品の側でも衣料品は売れる』ということになる。

 ファミマの「コンビニエンスウエア」の場合、価格は最寄り局面購入の「日常着」としてはやや高いが、麻布台ヒルズ店限定アイテムを除けば試着不要のパッケージ販売であり、食品と併設しての販売に問題はないと思われる。ジャージのトレーナーやパーカー、トラックスーツなど、フィットがアバウトなスウェットアイテムもパッケージ販売が可能であり(サンプル陳列は必要)、価格をワンランク下げれば全店展開できるのではないか。ならば、ローソンやセブン-イレブンが「ジーユー」と組んだり独自の開発PBでソックスや下着、スウェットアイテムやレインアイテムをパッケージ販売しても同様の成果が得られるに違いない。

 ファミマの「コンビニエンスウエア」を契機に『コンビニでエッセンシャルな日常衣料を買う』という習慣が広がり、各コンビニチェーンがユニークなフアンウエア開発(一種の企業ユニフォームデザイン)を競うようになれば、「コンビニでファッションを買う文化」が現実になるのではないか。

 

■「Joe Fresh」というスーパーマーケット併設の成功事例

 パッケージ陳列の「日常着」を2〜3ラック展開する「コンビニエンスウエア」はともかく、半世紀前には日常の風景だった食品スーパー併設・隣接の衣料品売場は復活するのだろうか。良品計画のギャンブルの成否はともかく、カナダには「Joe Fresh」という成功事例がある。

 「Joe Fresh」は、カナダの食品販売(卸と小売)会社ロブロー・カンパニーズがスーパーマーケット併設を意図して2006 年に設立したファッションブランドで、ウィメンズ/メンズ/キッズの衣料品中心にバッグやシューズ、アクセサリー、化粧品などを揃える。ロブロー傘下のリアル・カナディアン・スーパーストアとアトランティック・スーパーストアの40店舗でデビューし、今日では同社のスーパーマーケットとドラッグストア1650店に併設され、7店の独立店舗もある。価格帯は「ユニクロ」クラスで「コンビニエンス」プライスとは言えず、フルーツカラーが新鮮だった当初のイメージも希薄化しているが、スーパーマーケット併設衣料品の成功事例であることは不動だ。

 2011年にはニューヨーク市マンハッタン5番街に旗艦店を構えて米国市場に参入し、ピークには市内に5店舗を展開したが、2015年には旗艦店を閉め、翌年には最後に残ったソーホーの店舗も閉めて撤退している。2012年には全米約680のJCペニー店舗にも導入されたが、2016年1月末で契約が終了している。「スーパーマーケット併設のエッセンシャルなファッションブランド」というコンセプトは成功したが、その枠を超えた買い回り大商圏立地SPAブランドへのチャレンジは頓挫したわけで、両者の性格は根本から異なるようだ。

 ファミマの「コンビニエンスウエア」も、コンビニでのパッケージ販売という枠を逸脱してのラインナップ拡大、独立したブランドショップとしての大商圏立地出店という誘惑(プロモーションのポップアップ出店は大賛成だが)に落ちない限りは順調に販売を拡大していくのではないか。西友のPBに発した「無印良品」の紆余曲折の歴史を振り返れば、その誘惑を拒絶するのは難しいかも知れない。

 

■「コンビニエンスウエア」を定義する

 「コンビニエンスウエア」は『近隣あるいは生活圏の店舗で購入するエッセンシャル(生活必需)な機能性日用衣料』であり、「ユニクロ」の言う「ライフウエア」(何処でも誰でも購入する完成度の高い汎用性の普段着)より近隣性が強く、モダンでユースマインドな「ワンマイルウエア」(部屋着にも寝間着にもなる)に近いと思われる。

「近隣店舗」とは歩いてあるいは自転車でジャージなどワンマイルウエアでも行けるコンビニエンスストアや小型食品スーパー【商圏人口5000人未満】、「生活圏店舗」とは乗用車利用も半ばするワンマイルウエアや普段着で行ける食品スーパーやドラッグストア、「しまむら」、NSC(ネバフッドセンター)など【商圏人口2万5000人未満】。その上の「地域圏店舗」になると流石にワンマイルウエアは憚られるが、普段着で行ける乗用車利用や電車利用が大半のスーパースーパーマーケットやパワーセンター、CSC(コミュニティセンター)など【商圏人口10万人未満】を指す。

良品計画が「食品スーパーの隣」と言うのはこの「地域圏店舗」と思われるが、これまで主力として来た広域大型モール(RSC)と比べれば商圏規模は4分の1、販売効率は半分程度であり、賃料水準こそ3分の1程度だが、相応の大型店で保守効率を高めないと人時効率が低くなりがちで、採算の悪化が危ぶまれる。

ここまでが最寄り性で、幅広い店揃えを買い回る「広域圏店舗」は小綺麗な普段着かお出かけ着で行くターミナルの商業施設やRSC(リージョナルセンター)を言う。「食品の隣」とは『ワンマイルウエアや普段着で行ける最寄り性店舗』であり、「コンビニエンスウエア」の購入は『ワンマイルウエアで行ける近隣店舗』とさらに近場になる。

近隣店舗としては若年層が多いコンビニエンスストアの客層や応急ニーズを慮れば「ユースマインド」と「機能性」が必定で、機能素材や機能加工を使ったモダンな汎用日用衣料が中心になるが、価格は「ユニクロ」の下を潜る「しまむら」プライス、さらに下を潜る「均一価格・バラエティストア」プライスが望ましい。ロゴカラーを軸に各社がカラーリングやグラフィックのキャラを競えば「コンビニエンスウエア」が「推し」感覚で盛り上がると期待されるから、モノトーンに絞らずカラー展開アイテムも広げて欲しい。ジェンダーレス/体型レスな顧客カバーも必須だから、スポーツウエア発祥の機能性ジャージ素材/ストレッチ素材ならではのスリムに見えて緩く着れるパターンとサイズ展開も不可欠と思われる。

ファミマの「コンビニエンスウエア」が契機となってライバル各社が競い合い、やがては食品スーパーにも広がって『コンビニやスーパーでキャラが効いた日用衣料を買う購買慣習』が定着すれば、低迷する衣料消費やファッションシーンに新たな局面が加わると期待される。

 

論文バックナンバーリスト