小島健輔の最新論文

販売革新2008年8月号掲載
『衣料大恐慌にかく対策せよ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 景気後退と諸物価高騰というスタグフレーション下で生活防衛意識が高まる中、衣料品の販売不振が際立っている。ガソリンや食品といった生活必需品が高騰する中、不要不急の衣料品が支出抑制の槍玉に上がっているという事なのだろうか。衣料消費の実情を正しく捉え、衣料大恐慌への対策を提じたい。

衣料品は衰退市場と認識せよ

 昨秋から低迷が深まっていた衣料品の販売が春以降、一段と落ち込んでいる。以前から低迷していた量販店、割高感から顧客流失が加速する百貨店に続き、春以降はガソリン高騰に直撃されて郊外SCも落ち込み、もはや堅調を保っているのは駅ビル/ファッションビルに限られて来た。百貨店でも量販店でも食品などの生活必需品は堅調で、衣料品だけが不振を極めている。直近の家計調査(08年1〜4月)を見ても、生活必需品が値上がりとともに支出が増えているのに対して衣料品は値下がりして支出が減少している。景気悪化と増税・社会負担増で手取りが目減る中、生活必需品の高騰が衣料消費の抑制を招いている事は明らかだ。
 百貨店の部門別売上を見ても宝飾品や高額ブランド品の売上が急激に低下しており、衣料品でもワンランク下の価格帯へ移る‘格下げ消費’が顕著になっている。量販店の生活必需品でも値上げが続くNBから手頃なPBへのシフトが顕著で、大衆層から高所得層まで生活防衛意識が刻々と拡がっている。
 しかし、衣料品の不振は今に始まった事ではない。過去10年というレンジで見ても衣料品(被服・履物)の家計支出は減り続けており、今年1〜4月の水準は97年の65%まで減少している。その減少率は全支出分野中で突出しており(身の回り品が同79.2%で続く)、ファッション市場は長期的な縮小傾向に歯止めが掛からないでいる。その一方で伸びているのは保健医療とHBC(理美容)で、百貨店でも化粧品は好調だ。
 06〜07年こそ景気拡大の勢いで衣料品市場の縮小にも歯止めが掛かるかに見えたが、07年後半からの景気冷却で一転して縮小が加速してしまった。世界恐慌寸前の景気後退に国家財政破綻による増税ラッシュ、世界的な資源逼迫による諸物価高騰が加わって生活防衛意識が高まる中、老齢化と人口減少も進むから、衣料品市場の縮小は加速こそすれ止まる事は有り得ない。衰退市場と認識した上で対策を抗じるしかないのだ。

等身大ライフスタイル軸にシフトせよ

  不況下の諸物価高騰に階級化社会の暗い世相も加わり、モードだトレンドだといった浮ついた訴求は空回りするばかり。時代の空気は等身大ライフスタイル軸に移っており、ファッション軸のままでは売上減少は止められない。服飾雑貨をミックスして手頃な楽しさを訴求したり、インナーウェアや生活雑貨、HBCを加えてライフスタイル感を演出しないとお客は寄って来ないのだ。
 まずはトレンド一辺倒を避けて季節感やシーンを軸に肩の張らない等身大スタイルを訴求すべきで、季節素材のバッグやシューズ、ストールやアクセサリーを加えて雑貨感覚にこなしたい。駅ビルでは「ローズバッド」や「ザ・クローゼット」といった季節感と雑貨感覚のミックス感を備えたショップが受けている。服飾雑貨複合業態も急増しており、先行した「クレアーズ」や「オフ・ザ・ウォール」に「バサージュ・ミニヨン」や「アクセサライズ」なども加わり、どんどんバラエティが増えている。エコライフスタイル軸という点では「ルートートギャラリー」も注目だ。
 トレンド生パクリなトレードオフなどに汲々として服ばかり並べていては顧客は離れてしまう。その点ではハニーズもH&Mも同列だ。雑貨感覚と季節感を軸に等身大ライフスタイルを訴求すべき時流なのだ。
 服飾雑貨に加えてアンダーウェア/レッグウェア、コスメ&ドラッグ関連、インテリア雑貨など好調カテゴリーを取り込み、ライフスタイル軸で売上を追加するのも当然の一手だ。実際、衣料品とこれらのカテゴリーを複合したライフスタイル業態はヤング向けからミセス向けまで売上を伸ばしている。主流はナチュラル系(「スタジオ・クリップ」「s.t.クローゼット」「メイプルファーム」など多数)やサーフ系(「ビーチサウンド」「ビーチワークス」「ムラサキスポーツ」など)だが、インテリア軸ではモダン系も好調だ。癒し系ライフスタイル業態では「チャイハネ」「チチカカ」などのアジアン系に加え、「フラハワイ」「ラウレア」「La−2」「プアラニ」などハワイアン系のバラエティが拡大している。
 アパレル軸でも突出したバリューを訴求するカテゴリーライナーはまだしも堅調で、等身大感覚に合致しているようだ。バリュー価格ベーシック単品構成が再評価された「ユニクロ」、クロージング軸マルチライナーの「スーツカンパニー」や「mfエディトリアル」、パンツSPAの「ビースリー」、シャツSPAの「ジェットセッターリゾート」、モダン系(「ゴーゴーランドリー」「グラニフ」など)から和系(「豊天商店」「流儀圧搾」など)まで多彩なジャージSPAなど、バラエティがどんどん拡がっている。
 時代の気分は等身大ライフスタイル志向であり、モードだトレンドだといったファッション軸の提案は求められていない。これまでの常識を捨て、雑貨軸/ライフスタイル軸/バリューカテゴリー軸で再構築すべきだ。

商品運用体系を再編して消化回転を改善せよ

 販売低迷を打開するもう一つの方法がロジスティクス総体の効率化による消化回転とキャッシュフローの改善だ。ロジスティクスと言うと物流と受け取られがちだが、ここで言うロジスティクスとは商品の調達から配分・投入・補給、店舗在庫の当初陳列〜再編集、店間移動、マークダウンという商品運用体系総体を指すもので、その抜本的再編によってロスを圧縮し消化回転とキャッシュフローの画期的な改善を図る。
 年間4サイクルの調達を倍の8サイクルに細分化すれば、商品回転も倍近くに高速化する。月サイクル、隔週サイクルと頻度を上げて各回の投入量を薄くしていけば、商品回転はどんどん向上して行く理屈だ。実際、ポイント社の02年から04年にかけての構造改革はこの考えで行なわれ、わずか2期間で商品回転は6.25回から11.31回へと飛躍的に向上し、坪在庫は7掛けに圧縮された。
 配分効率はカセット方式とSKU傾斜配分方式のバランスで決まるが、このバランスを変えるだけで消化回転は大きく動く。在庫を圧縮し消化回転を高めるには傾斜配分の比重を高めればよいが、フェイス量の限界があるからフェイス運用手法を変える必要がある。高効率店と低効率店の格差が開いてしまう弊害も指摘されるから、フェイスの初期設計から再編集手法、補給頻度まで一貫して再編すべきだ。補給頻度を高めれば在庫を抑えて消化回転を改善出来るし、高効率店では近接デポも売上向上効果が大きい。
 初期棚割を販売消化進行に対応して再編集するタイミングと頻度も消化回転と販売効率を大きく動かす。再編集のタイミングを速めて頻度を上げれば消化回転は確実に向上するが、店間移動を欠いては限界がある。大きく動かすには店タイプ間店間移動の仕組みが不可欠で、販売の山が前に来る先行店と後にずれる売り切り店を組み合わせて店間移動をルーチン化すれば目に見える効果が見込める。ギャップ社はエリア毎にこの仕組みを確立しており、計画的に商品を移動している。
 販売不振に直面した時、これら商品運用体系の再構築は劇的な効果をもたらすが、全体が繋がっているから一貫したプロセス革新を組まないと何処かで矛盾が露呈する。慎重に検討した上で大胆迅速に実行していただきたい。

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