小島健輔の最新論文

オリジナル提言(2005SS版MDディレクションより) 2004年7月
『2005SSへのMD戦略』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 2004SSは景気回復が言われながらも加速度的な貧富差拡大と世情の混迷に振り回され、ファッションビジネスも大きく明暗が分かれた。ヤングでは様々な面とこなしのジーニングが広範なスタイリングに通底し、LAカジュアルが台頭してサーフ系/スポーツ系からフェミニン系までパワーアイテムが続出。コンテンポラリーではスタイリッシュからフェミニンまでキレイ目エレガンスモードが通底する一方、プレミアムジーンズを軸としたリュクスなセレブカジュアルが席巻。すべてのマーケットでカジュアル化が加速し、モード軸からライフスタイル軸へと潮流が動いた。
 2005SSでは西欧的な合理性や力づくの競争への嫌悪感が高まり、情緒と調和の東洋的な価値観へと社会意識が動く。それぞれのライフステージにおける肩の張らないライフスタイルが志向され、ファッション消費は“モード軸→ライフスタイル軸”の構図に乗って流れる事になる。
 ヤングではエスニックやプリミティブが復活して面がキタナ目方向に拡がり、リラックスしたコンフォートシルエットが復活する。コンテンポラリーでもLOHASなコンフォートスタイルが台頭し、キタナ目ナチュラルからキレイ目エレガンスまで面が分散する。ジーニングもスタイリッシュ系からコンフォート系へ主流が移り、デニムの枠を超えて素材のバラエティが拡がる。
 この変化に伴ってラグジュアリーブランドやスタイリッシュ系ブランドの一部は勢いを失い、LOHAS系ブリッジブランドやお手頃価格のライフスタイルブランドが台頭する。モード至上のサイクルは終わりを告げ、カジュアル化とライフスタイル・ギア化が一段と進む。
 過去3年間のモード軸サイクルではトレンド主導で上質化と完成度が追求されたが、消費者にとってそれらが第一義的価値でなくなるとすれば、ライフステージの人生観やライフスタイルに訴える商品企画と物創り、店舗環境やブランディング手法が問われる事になる。逆に言えば、これらの条件が満たされるならマーチャンダイジングの手法とプロセスは単純化され、提供方法や営業展開の優劣が数字を大きく左右する。
 モード軸サイクルはブランドメーカーがリードしたが、これからのライフスタイル軸サイクルは小売発想の専門店やSPA、あるいは異分野の素人がリードする事になる。その多くはマイナー/ローカルな存在から波に乗り、新たな勢力を形成するに違いない。ブランドメーカーにあっても、モード軸サイクルの企画起点発想から店舗起点発想への転換が求められるのではないか。

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