小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2019年02月01日付)
『上ばかり見てていいの?』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 このギョーカイに限らず、どこの組織でも上ばかり見て足元を見ない人たちが経営を主導して現場や顧客から乖離するケースが少なくない。そんな「ヒラメくん」はともかく、情報も顧客も上ばかり見て背伸びするのがこのギョーカイの体質のようだ。
 トレンド情報では、ローカル化が進む現実に背を向けて未だ欧米のコレクション情報を崇拝する企業が多いのは不思議を超えて思考停止さえ疑われる。欧米のモードトレンドばかり見ていては足元の顧客のウエアリング変化を見過ごしてしまうし(こちらの方がよほど数字を左右する)、モードとは無縁な大衆的チェーンが欧米のトレンド視察に時間と費用を割くのは茶番でしかない。足元の顧客や売場を注視する方が遠い彼方の欧米トレンドを追うより遥かにご利益があるのに、どうして上ばかり見たがるのだろうか。
 上ばかり見るのは商品政策でも同様だ。年々、顧客が歳とるせいもあるが、商品政策が次第に大人になっていくケースが多い。キャラクターの強いブランドは顧客とともに歳取るのも悪くないし、無理に若返って顧客を切り捨てるのは自爆行為だが、トレンドを追う若向けのブランドが背伸びしても良い結果は得られない。通過性の若向けブランドは背伸びして大人になれば存在価値を失うから、決して上を向いてはいけない。世代人口が減少するなら、むしろエントリー世代を取り込むべきだろう。
 実際、メイキャップ系化粧品はJK→JCとエントリー世代へ広げてマーケットを開拓しているが、渋谷109はお姉さん方向を向いてルミネ・エストなど駅ビルとの競合に陥り、新たにエントリーして来るJKやJCを取り込めていないように見える。竹下通りがJCどころかJSまで取り込んでトゥイーンズの聖地として栄えているのに比べれば、近年の渋谷109はお姉さん方向に流れて“世代通過型ファッション聖地”というアイデンティティを崩したのではないか。
 いまさら「ギャルの聖地」でもないが、良い子やポンコツまで惹きつけてギャルの夢を振りまく「ティーンズの聖地」であってもよいと思う。女の子の人生の華がJKである以上、ギャルを卒業したお姉さんたちはOGと割り切るべきで、そこにピントを合わせてはなるまい。その意味でもSHIBUYA109Lab.と産業能率大学が共同調査した『新世紀JK生活価値観調査2018』は一読の価値がある。

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