小島健輔の最新論文

ファッション販売2006年2月号掲載
小島健輔の経営塾2
『イージス艦のごとき動態情報処理戦闘力を持て』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 本連載は経営塾のはずだが何時の間にかマネージャー塾に化けていたり、「風が吹けばファッション屋が儲かる」などという訳の解らぬキャッチコピーがついたりしているが、ファッション屋の周りでは「ファンド屋に買い占められて意志決定が進まない話」とか「ファンド屋が入って巨大資金で事業拡大を強要している話」とか、ファンド屋がらみの御迷惑話は枚挙に暇がない。ファンド屋の連れて来るCEOやCOOは素人ばかりで金勘定と首切りしか能が無いという戯れ言も、あながち外れていないようだ。当経営塾では、彼等とは正反対に小売業に習熟した本物のCOOを育てたいものだ。

マーケット/調達/組織の三位一体で情況判断せよ

 前回、「COOはイージス艦のごとき動態情報処理戦闘力を持て」と書いたが、具体的に言えば「前方のマーケット/後方の調達/身中の組織の三方を見て情況判断し、この三方同時に攻撃せよ」という事。
 マーケット変化をもたらしているのがディティールレベルのトレンド変化なのか、調達背景に関わるほどの面やフィット、クオリティやコストの変化なのかを見極め、調達手法や調達・販売組織の組み換えが必要か否かを判断しなければならない。売上の変動をもたらしているのが内部要因なら、販売体制や人材の質、売場運用手法とスキル水準、在庫のカテゴリー/テイスト/価格/シーズン別のバランス、在庫水準と店後方ストック/DCストックのバランスと補給手法、ひいては企画サイクルやリードタイムといったロジスティクス全体のプロセスまで踏み込んで検証しなければならない。
 瞬時にして要因の想像がつくようなら、もはや鬼神の領域に入っている訳だが、そんなCOOはめったに居ない。データを掻き集め現場の意見を聞き、時間をかけて考えられる要因を推定していくのが通常の姿であろう。要因を推定出来たとしても、その根がどの領域まで及ぶものかの判断は店舗運営/商品調達/ロジスティクス/人事/商品財務などに精通したキャリアがないと難しい。COOたるもの、それぐらいのキャリアはあって当然で、客寄せパンダのお飾りでない限りは適確に判断出来てしかるべきだ。
 この勘所を身に付けるには、各分野のキャリアに加え、業界内外注目企業の業績変化を常に検証する姿勢が不可欠だ。ポイントはなぜ在庫を圧縮しながら販売効率を高める事が出来たのか、しまむらは限定商圏なのになぜ商品単価を下げながら売上を伸ばしているのか、アメリカンイーグルは見た目の品揃えに大きな変化がないのになぜ既存店売上が急伸しているのか、など検証を積み重ねて行けば、ささいな徴候から大きな変化の本質を見抜けるようになる。決算報告書をひっくり返すような検証をしなくても、売場の変化を見るだけで大方の要因は掴めるようになる。
 そんな大手企業ではなく、自分の店や近所の店の変化を曖昧なままにせず突き詰めて行けば、やがては相当の深読みが出来るようになる。もちろん、それには小売業運営/経営の基本的な仕組みと変化の方向、様々な切り口からの検証手法を学ぶ事が不可欠だ。私の「ブランディングへの解る見えるマーチャンダイジング」(商業界刊)を20回ぐらい通読すれば、見えなかったものも見えてくるのではないか。ファッション小売業の本質を妥協なく追求したテクノクラート本だから、ちょっと難解なのかも知れないが、日々の問題意識と照らし合わせていただけば少しづつ理解を深めて行けるはずだ。

実行のスピードとリズムが問われる

 問題の要因は掴めても、何処まで掘り下げるのか、対処のスピードと本質的改善のバランスをどう取るのか、組織の何処から入って何処まで動かすのか、その主旨をどう現場に理解させ動機づけるのか決めなければならない。そこでああでもないこうでもないが始まると時間を浪費してしまうし、挙げ句の果てに棚上げしてしまう事にでもなればCEOの烈火の叱咤が待っている。
 CEOに言わせれば「本質的解決は後でも良い。ともかく目に見える結果を早く出せ」に尽きる。問題解決は一時に出来なくても良いから、一段一段早く階段を登れと言っているのだ。問題を目に見えるように段階的に解決していく手法が求められているのだから、問題解決における段階設定のセンスが能力評価に直結する事になる。スピードを追求すれば拙速な手法で挫折したり本質的解決を遠ざけたりしかねないから、CEOの性急な要求に応えながら確実にゴールに辿り着く段階設定術を身に付けたいものだ。
 例え一気に問題を解決したとしてもCEOは矢継ぎ早に次ぎの課題を突き付けて来るから、階段は永遠に続く。無理なく登って行ける階段を設定するのは自分と現場の為でもあるのだ。スピードのゲームにもルールは必ず在り、周回のリズムが在る。CEOの要求と現場の体力の狭間で継続可能なリズムにしていくのも、COOの大切な仕事なのではないか。

シナリオあるペースメーカーたれ

 CEOの要求するスピードに応える事に徹すれば日々は順調に回って行くが、彼は誠実なシナリオメーカーではない。CEOは鬼神のごときクリエイターだから、その時々で矛盾する要求も平気で押し付けて来る。時には同時に正反対の施策を求める事すらあるのだ。
 表面的に彼に応えるくせがついて来ると、企業は同じ所をクルクル回っている状態に陥りかねない。これでは長期的な成長は困難で、やがては組織も疲弊してしまう。それを避けて成長への着実なシナリオを貫徹するのがCOOの責務であり、CEO以上に先を読んだシナリオを持つペースメーカーたらねばならない。
 表面的にはCEOの要求するスピードに応えているようで各ステップを繋ぐシナリオはしっかり自分が持っている、そんなCOOは狸だ狐だと影では揶揄されるだろうが胸張って誇って良い。COOがシナリオを持ったペースメーカーでないと、企業は迷走し組織が疲弊してしまうからだ。
 そんなCOOになんかなれませんよという声が上がりそうだが、誰もがなれないからこそ高価な値が付くのだ。なりたければひたすら学ぶ事だ。今の立場では必要なくてもCOOになるには不可欠な勉学が山ほどある。当社のSPACレポート12ヶ月分を読みこなせれば、COOになれる知識は身に付く。実際にCOOになるには現場でそれらを実践し続け、刻々変化する情況下で適確に判断・即行動出来るようキャリアを積まねばならない。青雲の志を持って明日のCOOを本気で目指しては如何か。

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