小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『ECが店舗販売を駆逐する』 (2018年02月08日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

img_70483ec76e2c3067c2168f6fc8b5948555536

 

 中国や米国では消費支出の15%、わが国でも6%に達して2桁成長が続くECだが、店舗小売業にとっては自らも切り裂く両刃の剣だ。

 ECは自ら運営すれば店舗販売より格段に低コストかつマス・メリットも加速度的で、何より多店舗への在庫の偏在による機会ロス・値引きロスというマス・デメリットがほとんどない良いことずくめの流通プラットフォームだが、多店舗展開する小売業者にとっては既存店舗の売上げを食い、損益を悪化させて店舗の担保価値を毀損する致死性の麻薬でもある。

オムニチャネルのハネムーンを謳歌できるのはEC比率が1桁のうち

 ECのウェブルーミング効果がショールーミング効果を上回ってオムニチャネルのハネムーンを謳歌できるのはEC比率が1桁のうちで、2桁に乗れば店舗売上げを食い始め、20%を越えればEC売上げを積み上げても、それ以上に店舗売上げが減少するというあり地獄に陥りかねない。米国のデパートチェーンやアパレルチェーンでは現実になったトラウマで、それ以前の段階でも店受け取りや店出荷の負担で店舗の運営が混乱し、販売力が低下するという弊害が指摘されていた。

 ウォルマートがオムニチャネルのハネムーンを謳歌しているかに見えるのはEC比率が1桁の半分ほどだからで(イトーヨーカ堂の5.3%と大差ない)、2桁に乗る頃には店受け取りや店出荷が店舗運営を混乱させ、運営コストが跳ね上がるという現実に直面するはずだ。イトーヨーカ堂のネットスーパーが需要の拡大で店頭からのピッキングが買物客のピッキングを妨害する事態に至り、ダークストア(ネット向けピッキング専用で一般客は入れない)を設けざるを得なくなったことに注目してほしい。

足の速いECに売れ筋が流れて店舗は干上がってしまう

 ECの拡大が店舗販売を食ってしまうメカニズムは顧客利便と在庫引き当ての両面から作動する。

 店まで出掛けて棚からピッキングして持ち帰るという物流労働と時間消費を強いられる店舗販売は多忙な消費者に疎まれ、実物を試す必要がない限り、ECで済まそうとするのは必然だ。

 それ以前に、小売企業内部の合理的必然が店舗販売を追い詰めていく。多店舗に在庫が偏在して機会ロスと値引きロスが避けられず、投入から実売までの期間が長い店舗販売に対し、1、2カ所のDCで全国をカバーし、棚入れから出荷までの期間が短いECは圧倒的に在庫回転の足が速い。足の速い方へ在庫が流れるのは必然で、店舗向け在庫とEC向け在庫を一元化すれば、足の速いECの方に売れ筋が流れて店舗は干上がってしまう。在庫一元化がデータ上の引き当てに留まるならともかく、物理的に一元化(両者のDCを統合)してしまえば、店舗は適品供給が細って、見る間にやせ衰えてしまう。

 在庫を物理的に一元化し、ECを拡大しても店舗販売を追い詰めない方法は2つある。

 両者を独立的に運営するのなら、セントラルDB(Distributor)のCMI(Central Managed Inventory)ではなく、各店舗とEC部門に数入れ発注させるSMI(Store Managed Inventory)で事実上のファイアウォールを設けることだ。実際、ZARA(INDITEX社)では各店舗のMgerと各国のEC担当Mgerに毎週2回、競り方式で発注させ、それぞれに達成責任を問うている。

 両者を完全に一体化するなら、店舗販売をEC同様に販物分離するショールームストアが望ましい。ECのデジタルカタログで品揃えを拡張し、EC物流で宅配する(店受け取りもEC物流)ショールーム販売では店舗は無在庫または均一のサンプルだけで全ての在庫はDCに待機するから、店舗への配分・補給も物流も店内の棚管理も棚卸しも在庫コントロールも全て不要になり、在庫の偏在による機会ロスも値引きロスも無くなってしまう。店舗とECは一体となり、顧客の発注によって分け隔てなくDCから出荷されていく。

チェーンストアの仕組みも作業体系も不要な遺物と化す

 ここに至れば“販物一体”を前提として確立されたチェーンストアの仕組みも作業体系も不要な遺物と化し、店舗労働者と顧客は物流労働から解放され、経営者はロスとコストから解放される。ショールームストア“革命”については別の機会に実例を挙げて詳説しよう。

論文バックナンバーリスト