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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『顧客にダメ出しされたしまむら』 (2018年07月31日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 業績の低迷が続き、出遅れたEC進出も実験段階を否めないしまむらだが、どうして顧客とすれ違ってしまうのだろうか。堅苦しい業績検証は販売革新2018年5月号『優等生の安全運転が追い詰めたしまむら 旧弊を絶って新たなプラットフォームへ』で詳説したので、主力業態の「しまむら」に絞って店頭を顧客目線で見直してみた。

顧客が望む姿に矯正された「しまむら」

 7月も末のセール末期ということもあり、『以前より高くなった』『SPA臭いカセット企画が目立ち、宝探し感覚が薄れた』という指摘は感じられなかった。シーズン初めはそんなきらいがあったとしても、『買わない』という顧客の意思表示にねじ伏せられ、顧客の望む品揃えと価格に強制的に追い込まれたように見える。

 SPA的カセット企画はバラ残に崩れ、あるいはサイズ別などに分散編集され、売価変更で激安価格になり、期中調達の激安オフプライス商材がラックにひしめいて、お世辞にもキレイとはいえないものの、ロス・ストアーズ的宝探し感覚が回復していた。そんな売場にいかにも「しまむら」らしい顧客が次々と訪れて物色する有様は、『顧客との関係が強固に確立された「しまむら」という一種の“社会システム”はもはや企業の意志で勝手に動かせない』というしがらみを感じさせる。

 大衆的な主婦層に支持されて全国の生活立地に1419店(企業総体では国内2125店)を展開する「しまむら」は主婦層の生活と生計に密着しており、彼女たちと乖離した品揃えも価格も運営も彼女たちの離反を招いて継続できず、業績を維持しようとすれば矯正されざるを得ない。最寄り生活立地の衣料消費を担う「しまむら」は、好むと好まざるにかかわらず顧客と不可分の関係にあるようだ。

『生活を担う主婦層』から『生計も担う主婦層』へ

「しまむら」の郊外店舗は幹線道路から一本入った生活道路沿いに位置し、近辺には必ず公営住宅や核家族向けのアパート群があるが、それは米国の「コールズ」も同様で、郊外を車で走っていて「コールズがありそうな街並み」「しまむらがありそうな街並み」と思うとほぼ間違いなく「コールズ」や「しまむら」が見つかる。

「しまむら」の主力顧客は『生活と生計に追われる主婦』とイメージされるが、「主婦」の年齢層は大都市郊外ではミッシー〜ニューミセス層、ローカル郊外ではミセス〜シニア層と世代が異なり、立地によっては中高生が加わる店舗も少なくないと思われる。ファッション的な嗜好は郊外では気負わないローカル感覚が通底し、一部のアーバン店舗では下町的な感覚も加わり、百貨店的な山の手感覚とは距離があると感じるのは筆者の偏見だろうか。

 そんな『生活を担う主婦層』が少子高齢化対策の過剰流動化と一億総労働力化の国策に追われて『生計も担う主婦層』に変貌していく中(非正規を含む女性就業率が急上昇している)、「しまむら」は顧客の変貌に追い付けていない。顧客は生活にも生計にも追われて時間のゆとりがなく、オムニチャネルな利便を駆使した時間節約消費を強いられているのに、「しまむら」は品揃えも提供方法も顧客主婦層の変貌に応えていない。

経営効率本位の改革に顧客が失望

 SPA的カセットMDは顧客の要望ではなく、値入れの拡大とインベントリーコントロールの効率化を志向したもので、多様な専門店をそろえるモールの中ならともかく、生活立地の最寄り消費を支える「しまむら」では品揃えのバラエティを損なうマイナス面も大きい。POS依存の売れ筋集中とSPA的大型カセットMD志向の「ユニクロ病」で自滅したGMS衣料部門の轍を踏む愚行というしかない。 

「しまむら」の顧客が望んでいるのは多様なバラニエティを速やかに買えるよう分類してそろえたソフトラインのコンビニエンスストアであり、より幅広いカテゴリーとアイテムのバラエティを圧倒的な低価格と単純明快な買いやすい分類・陳列で集積し、家事労働や通勤の狭間で短時間にストレスなくサクサクっと買える気楽な店だ。かつての最寄り商店街の機能を食カテゴリー中心に集約したのがコンビニエンスストアだとすれば、「しまむら」の役割はソフトラインの集約に他なるまい。

 ならば、いまだ化粧品がティーンズ向き中心の2ラック(「しまむら」の陳列ラックは90センチメートル規格)に留まるのも、手軽なコスチュームジュエリーが存在しないのも、「コールズ」の品揃えと比較すれば不作為との指摘を免れない。カセットMDにしても、ベンダーの短サイクル対応を引き出す心太型VMI(棚割配置は同じだが商品は入れ替わっていく)であるべきだ。レジ精算のストレスという点でも、ようやく物流センターでのICタグ活用実験が始まったばかりという後手を否めないし、極端に少ない姿見の配置や狭くて快適とは言いがたい試着室も解消されていない。

 往時に比べればキレイになったといわれる「しまむら」だが、什器システムやハンガーの形状や機能は旧態なままで機能美から遠く、陳列の形状や配列も雑で最低限の美意識も欠いて買い気をなえさせるし、いまだ商品の演色性も怪しい天井シーリングライト中心の照明も試着室の買い気を削ぐ照明も改善されていない。

 商品を買いやすく分類・配置し、デザインはもちろん素材や色柄が正確に見えるよう陳列し照明し、顧客の購買ストレスを最小化するよう姿見の配置や試着室の環境に気を配る……という顧客本位のキレイ化という点ではほとんど進化していない。「しまむら」の改革はことごとく経営効率を志向するもので、顧客本位という根源的スタンスを疑わざるを得ない。これでは顧客が失望するのも必然ではないか。

バラエティと低価格を追求すればOPSに向かう

「しまむら」はソフトライン最寄り消費の集約を担う一方、“宝探し”といわれるほど品揃えのバラエティも期待される。それもGMSやファストファッション店の下を潜る低価格が求められるとなれば、SPA的カセットMDはごく一部の定番的な商品に限定され、全く異次元の調達手法が必要になる。

 イントロで『ロス・ストアーズ的宝探し感覚』と比喩したが、「しまむら」はもとよりODM業者や企画問屋の余剰商材やキャンセル品を低価格で調達するという一面があり、それが宝探し感覚のバラエティに寄与していたと推察される。ならば積極的に余剰商材を調達してオフプライスストア(OPS)的性格を強めるという選択もあるのではないか。

  TJXやロス・ストアーズはブランドメーカーやODM/OEM業者のみならず、ホールセラーや生産業者、それも世界中に張り巡らしたネットワークで調達しており、しまむらのような限定された調達背景では難しいが、衣料品のみならず服飾雑貨や靴鞄、化粧品までカバーする調達網を確立すればドンキに匹敵する宝探し帝国を築くのも夢ではあるまい(ドンキもOPS的調達が少なくない)。OPS化すれば店舗規模も大きくなり※、運営効率も高まる。どうせ改革するなら顧客が期待する姿に変身すべきではないか。

※米国OPSの平均店舗面積はTJマックスが2601平米、ロス・ドレス・フォーレスが1987平米。

顧客利便に応えればECより受け取り拠点

 ECには距離を置いてきたしまむらも7月9日からZOZOTOWNに出店し、PBの「CLOSSHI」128品目を皮切りにECを拡大していく方針だが、以前にも商業界オンライン『しまむらのEC進出を阻む事情』(2月1日掲載、TBPPも解説)で指摘したように、近隣ソフトライン消費利便プラットフォーマーのしまむらがECモールにコンテンツ出店する意味はないし、むしろ店舗での受け取り利便提供(TBPP)に徹するべきだ。

 しまむらはSPAではないし、宝探し的バラエティが不可欠だとすれば今以上のSPA化は難しい。ならばコンテンツメーカーとして他社ECモールに乗るメリットは薄い。自社物流網に立脚する近隣ソフトライン消費利便プラットフォーマーとして、ZOZOTOWNからアマゾンや楽天までソフトライン特化のお試し・受け取り拠点を担ってEC消費をカバーすれば(受け渡しだけならソフトラインに限定されない)、生活と生計を担って時間に追われる顧客の利便にも応えることができる。それが来店頻度とロイヤルティを高めるとしたら、顧客を握るプラットフォーマーとして事業機会も収益もいかようにも広げるチャンスがあるはずだ。

 しまむらという企業は自らの本当の強みと顧客の期待を理解していないように見える。主婦層をつかんだ近隣ソフトライン消費利便プラットフォーマーという自らの強みを正しく理解するなら、別の視野が開けるのではないか。

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