小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2017年12月4日付)
『ビジネスモデルのブラッシュUP』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 11月29日に開催したSPAC研究会でのパネルで印象深かった事がひとつ。それは如何にデジタルなビジネスモデルもアナログな運用実験によるブラッシュアップが不可欠だ、という至極当然の理だった。
 オーマイグラスの清川さんのお話では、店舗における品揃えのフォーカスとタブレット接客スキルの個人差が興味深かった。品揃えのバラエティが制約されないECでは検索に引っかかりやすいブランドものに売上が偏りがちだが、限られた売場で品揃えをフォーカスするしかない店舗ではオリジナルブランドの売上を伸ばせる、という試行錯誤で得た経験則で、ECでは三割に留まるオリジナルブランドの売上が店舗では七割を占めるそうだ。店頭のタブレットで顧客にECの品揃えや在庫検索を案内する‘タブレット接客’は販売員の個人差が大きく、適性を見た人員配置が大切だ、というのも店舗運営で得た経験則だ。
 青山商事の石矢さんのお話では、「デジタル・ラボ」一号店(秋葉原店)での一年間の運用に基づいて店長から提案されたのが、1)従来の身長別陳列ではなくオリジナルブランド別陳列にすべき、2)EC接客に慣れたらSKU組み合わせ最小在庫以上の陳列は不要で、陳列量を減しても「座れる接客テーブル+タブレット+サイネージ」の接客ユニットを増やすべき、の二点だったそうだ。
 青山商事では様々なお客様をカバーすべく体型やテイスト、グレードなどで14のPBを揃えているが、EC接客なら400着あれば全ブランドのサイズと素材の組み合わせをお試し頂けるという運用体験を得て、ブランド別に陳列してEC接客空間を重視すべきという結論を得た。
タブレット接客については両社で感触が異なるように聞こえるが、青山商事の場合は紳士服の接客に熟練したスタッフが揃っており、これまでもECタブレットによる取り寄せサービスでシステムを使い慣れている事が大きいと思われる。オーマイグラスの場合は眼鏡販売の経験者に拘らない採用もあって、タブレット接客以前に眼鏡の販売スキルにバラツキがあると推察される。
 両社ともECのシステム自体は今時、突出したものではないが、店舗販売での使い易さや店舗物流・EC物流トータルでのアナログな効率化が成果に繋がっている。ショールーム販売と言えども店舗運営や接客販売はアナログなカイゼンとスキルの熟練が不可欠で、時間をかけてブラッシュアップしていく事が望まれる。頭で考えた仕組みを躰で動かす仕組みに昇華させるには運用経験の積み上げが不可欠なのだ。

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