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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『虚像に終わった「BPQC」』 (2019年01月30日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

商業界0130

 
 三越伊勢丹のPB「BPQC」は1月28日、同ブランドの公式サイトで19年春夏をもってブランドを終了し、サイトもフェイスブックもインスタグラムも3月末で終わると発表した。

 年明け早々には『三越恵比寿店も岩田屋店も絶好調で、今春には3店を加え19年度内にはグループ外出店も』と打ち上げた舌の根も乾かぬうちの手のひら返しには外野はもちろん、社内にも動揺が走ったと推察される。

二転三転の果てに終わる虚像

「BPQC」は00年に伊勢丹新宿本店の地下2階でスタートしたライフスタイル型のPBで、カリスマバイヤーとの評価が高かった故・藤巻幸大氏が主導して立ち上げたとされる。業界の評価ほどに売上げは伸びず08年には休止に至るが、14年に三宅デザイン事務所出身のムラカミカイエ氏をディレクターに起用してリ・ブランディングし再スタート。15年度の売上高は8億円に留まったが、16年5月11日に前・大西 洋社長が発表した3カ年計画では18年度で20億円を計画していた。

 17年春夏からは衣料用洗剤やハンドクリーム、タオルなど生活雑貨を広げてトータルなライフスタイルブランドを志向し、グループ百貨店編集平場でのセレクト展開に加えて17年11月にはブランドの世界観を発信するショップを三越恵比寿店に開設。18年10月には福岡の岩田屋にもショップを構えた。

 自社ECに加えてZOZOTOWNやストライプ・デパートメントなどモールサイトにも出店してEC比率も12%まで伸ばし、グループ百貨店の編集平場25拠点、ショップ6店まで広げ、今春には3ショップを加えると年初には打ち上げていたのに、ひと月もたたない28日には一転してブランド終了を発表するに至った事情はなんだったのだろうか。売上げの伸び悩みに加えて収益も伴わず、『黒字化が見込めなかった』という公表理由をそのまま受け取るべきだろう。

「BPQC」は伊勢丹側の自賛や業界の注目で実力以上に評価されたきらいを否めず、藤巻氏のカリスマ神話と二人三脚で虚像が膨らんだのではないか。00年にスタートしてから18年も過ぎてなお『黒字化が見込めなかった』というのだから、失敗に終始したPB開発と結論するしかない。

百貨店のPB開発に成功例はない

「BPQC」に限らず、近年の百貨店PB開発は成功した試しがない。「近年の」と断ったのは昭和の時代には60〜70年代の高島屋の「カルダン」など成功例もあったからだが、顧客の中産階級がすっかり疲弊して衣料品PBに期待されるのが華やかなモードからお手軽に着回せる日常着になってしまった今日では採算が見えないのが実情だ。

 低価格な衣料品が氾濫して価格の常識が一変した今日では利幅が取れる価格が設定できず、ロットが小さい故、低コスト生産も難しいから値入れが取れず、多店舗間在庫運用(D.B.)のスキルもないから消化歩留まりも低位にとどまる。都心の本店でこそ消化できても地方や郊外の店舗では在庫が滞貨し、値引きロスと期末の残品償却で営業赤字になってしまうから、開発コストや投資の回収など望むべくもない。

 PBといっても取り組んだアパレル企業に商品企画も開発も依存し、在庫の保管や物流、果ては売れ残りリスクの分担まで求めるケースもあり、採算性がないのに手間ばかりかかるからアパレル企業も逃げ腰で、アパレル不況が深刻化して余裕がなくなった今日ではPBを引き受けるアパレル企業は皆無に近い。

 そんな壁を越えようと百貨店各社は大手アパレルとの取り組みを諦めて量販アパレルと取り組んだり、伊勢丹のように縫製工場直の開発を試みるケースも見られるが、いずれもうまくいっていない。その要因は以下の3点と推察される。

1)縫製工場の生産工程と操業効率の知見を欠く

 ロットが限られた随時の発注では操業率が安定せず、その割に生産効率を阻害する細かい要求も多く前工程がかさみ、工場側が疲弊してしまう。

2)セントラルバイイングのD.B.スキルを欠く

 消化仕入れや個店帳合いの限定的買い取りしか経験のないわが国の百貨店には米国の大手百貨店のようなセントラルバイイングによる多店舗間D.B.のスキルがなく、店舗数の少なさや旗艦店への偏りもあって消化が進まず不振在庫が積み上がってしまう。

3)消化仕入れより格段に不採算

 百貨店の消化仕入れでは在庫リスクも販売人件費も負担せず35〜40%もの差益が得られるが、ロットが小さく付加価値を載せにくいPBは値入れが薄く、開発コストも販売人件費も値引きや残品のロスも負担すると営業損益段階で大幅な赤字になってしまう。ロットの小さいPBでは値入れは60%前後だから、そこから販売人件費や値引きと残品のロスを差し引けば20%ほどしか残らない。それでは消化仕入れで得られる歩合家賃を大幅に下回ってしまうから、面子をかけた実験に終わるしかないのだ。

 

 というわけで、百貨店のPBは採算の見通しが立たず、拡大どころか存続さえ難しい。PBを成功させるには米国デパートメントストアのようなセントラルバイイングと多店舗間D.B.のシステムとスキルを確立するのが先決だが、わが国の百貨店にはもはやその意志もないだろう。勝算のないセントラルバイイングやPB開発で消耗戦を繰り返すより、リストラして不動産業化するかECに活路を見いだすというのが百貨店に残された選択なのだろう。「BPQC」の終了はそんな現実を露呈した“事件”だったのではないか。

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