小島健輔の最新論文

FCNオリジナル提言2012年2月
『ガラパゴス崩壊とトランスメディア化』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 国内外で‘想定外’な出来事が頻発して文明の行き詰まりが露呈したカタルシスの2011年も過ぎ、世界経済も小康を得て国内では復興機運が盛り上がりつつある2012年ですが、私は様々な分野で日本のガラパゴス的状況が崩壊するグローバル化、店舗と無店舗の際が崩れるトランスメディア化が急進する転換期になると予感します。
 日本独自に発達したガラ携帯があっけなくグローバル仕様のスマホに駆逐され、日本独自に発達した高機能家電も新興国の低価格家電に押されて悉く赤字事業に転落。ガラな技術立国、日本のアドバンテージも薄皮一枚まで詰め寄られ、自動車産業や家電からITまで、一気に空洞化が加速する瀬戸際に追い詰められているのです。
 そんな切迫した状況下でも、我らファッション業界だけは未だガラなローカル世界に浸って茹で蛙を決め込んでいます。ガラパゴスな環境下で発達した多様な等身大ローカルファッションはもちろん、52週MDや過度のQR依存で汚く継ぎ接いだ売場、OEM/ODM依存でお手軽に開発された薄っぺらな商品が蔓延する状況がいつまでも続くとは到底思えません。アジアや欧米を巡る度、この異様なガラパゴスは遠からず崩壊するという確信が強まるばかりです。
 アジアと日本、欧米が加速度的に接近して行く今、日本市場のガラパゴス楽園崩壊はもはや避けられないと思います。ガラな環境下で異形に発達したお手軽な商品開発手法や継ぎ接ぎのMD運用手法、バラックな店作りや幼稚なVMD手法をグローバルスタンダードに照らして抜本から見直す時が来ているのではないでしょうか。そんな機運を産業界では「トランス・フォーメーション」と呼ぶようです。
 一方、ウェブ販売の急増はブランディング手法や提供方法からロジスティクスに及ぶビジネスモデルの再編をもたらそうとしています。過去5年間で衣料品の無店舗販売シェアは5.5%から10.3%に急増し、スマホの急激な普及もあって人気のセレクトショップや駅ビルブランドではウェブ売上比率が二桁に乗るケースが続出していますが、O2O効果による実店舗の売上増が次々と実証され、ウェブが実店舗を食うというカニバリは杞憂に終わりました。消費者は実店舗とウェブを上手く使い分けるようになり、積極的にO2Oを仕掛ける企業も急増しています。
 そんなO2O時代には実店舗の立地も多様化してウェブと連動する効率的な販売が実現され、物流センター在庫を店頭&ウェブ一元管理するのみならず店頭在庫までウェブ対応するロジスティクス体制が確立され、顧客が実店舗に出かける無駄も物流センターから実店舗に商品を運ぶ無駄も、実店舗を長時間営業して販売員を張り付ける無駄も極小化されていくでしょう。
 今や消費者に商品を届ける社会的インフラは実店舗網から通販業者のフルフィルメントと宅急便のネットワークに移行しつつあり、無店舗と実店舗の新たな分担の構築が急がれる一方、過去の慣習に囚われない店舗運営の合理的な見直しが求められています。ほんの数年で、実店舗を経由せずに物流センターやメーカーの倉庫から消費者に直送される比率は二割三割に達し、実店舗の役割とロジスティクスは一変してしまうかも知れないのです。

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