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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『小島健輔が調べた「怖すぎる衣料消費の現実」』 (2018年09月10日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 NHK「クローズアップ現代+」(9月13日放送)の取材があって衣料消費と余剰在庫の数値検証を改めて行ったが、その結果は怖すぎる現実を裏付けるものだった。アパレル流通はとうに破綻しており、キモノ業界に近づいているようだ。

アパレル流通はもう破綻している

 アパレル(下着を含まない外衣のみ、以下同)の輸入浸透率はジリジリ上がって18年上半期は97.8%まで上昇しているが、わずかとはいえ国内生産も加えた総供給数量は年換算で29億点を超えそうだ。一方、家計調査から推計される国内総消費数量はプロパーはもちろんセールもアウトレットもリユースも全部合わせて13億5200万点ほどだから、今年は15億5000万点ほどが売れ残ることになる。

 推定消化率は46.6%と信じ難い数字だが、総供給数量が11億9600万点と今日の41%に過ぎなかった90年は同じ計算方法で96.5%と期末バーゲン後はほぼ完売していたから、多少の誤差はあるにしても信憑性は高いと思われる。その後の四半世紀で消費数量は16.4%しか伸びなかったのに総供給数量は2.34倍(どちらも17年)にも膨れ上がったのだから、供給過剰で消化率が急落していったのも不思議はない。

 消化率が低いと値引きや売れ残りのロスを見込んで原価率を切り詰めざるを得ず、お値打ち感が劣化して消費者の買い気を削ぎ、それがまた消化率を悪化させて原価率が切り詰められるという悪循環を抜けられないばかりか、売れ残りを見込んで調達量を上乗せし、原価率を切り詰めるため販売力以上に調達ロットを増やすという狂気も加わり、総供給量の過半が売れ残るという末期状態に陥っている。

 流通在庫の廃棄率はグロサリー食品でメーカー/卸/小売合わせて2%ほど、生鮮食品でも10%ほどに収まっていることを思えば、過半が廃棄されるアパレル流通は既に破綻していると言わざるを得ない。

都市伝説じゃない裏付けのある現実

 売れ残り衣料は「中古衣料」としてトン幾らで売られていく運命で、17年は推計14億5500万点が売れ残って輸出量は24万3000トンにも上ったが、点数に換算すると8億〜9億点と推計される。消費者が放出した中古衣料も含まれるから全部が業界放出の売れ残り在庫とはいえないが、リセール価値がないと輸出の旨味がないから大半は“新古”の売れ残り在庫と見るべきだろう。加えてアパレルメーカーは平均して15%ほど、小売店もその半分ほど期越えの売れ残り在庫を抱えるから、商社など受託製造業者が抱えるキャンセル品や未引き取り品まで加えれば、その合計数量はバックリだが7億点は下らないだろう。

 これを合わせれば15億〜16億点と年間の未消化在庫数量を上回るが、消費者放出の中古衣料を差し引けばほぼ近似する。業界の抱える売れ残り在庫や未引き取り在庫も最終的には焼却処分されるか中古衣料として輸出されるから輸出数量と重複する部分もあるとはいえ、やはり、アパレルはバーゲンしてもファミリーセールを繰り返してもアウトレットで叩き売っても過半が売れ残るのは本当のようだ。都市伝説じゃなくて数字の裏付けのある恐い現実なのだ。

流通在庫11年分というキモノ業界に似てきた

 ついでながら、国内で売られている中古衣料もC2B供給(箪笥在庫の放出)や国内のデッドストックばかりではなく、マレーシアや米国など中古衣料の仕分けハブから輸入されるものも多い。その輸入量は17年で5141トンと輸出量の47分の1ほどでしかないが、1800万〜1900万点ほどになる。これは総供給数量の計算に入っていないし(0.65%に過ぎない)、急増するC2B供給やメルカリなどC2C流通まで加えれば新品アパレルの消化率はさらに低く、今後は一段と悪化していくと見なければなるまい。

 81年の1兆8000億円から近年は3000億円を割り込むまで萎縮したキモノ業界の流通在庫は11年分に達し、箪笥在庫は百年分とさえいわれ、流通在庫の処分や箪笥在庫の放出(C2B供給)に圧迫されて新品の流通は破綻寸前だが、アパレル業界の実情も年々、キモノ業界に近付いている。クリエイションやSPAの幻影を追いかけて流通が非効率化し、そのツケを消費者に回してきたのはキモノ業界と大差なく、似たような結末が待っているとしても自業自得なのではないか。

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