小島健輔の最新論文

ファッション販売2003年2月号掲載
『好調専門店の条件』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

回復に転じた婦人服専門店

 ブランドビジネスの影で不振をかこった時期も長かった婦人服専門店だが、2001年の12月以降、既存店売上の平均伸び率が十ヶ月連続してブランドショップのそれを上回りつづけ(残念ながら、メンズでは28ヶ月連続して専門店が下回っている)、この間の前年割れは2002年7月の一回だけと安定した回復ぶりを見せている。その背景は2001年春頃からのセレクトショップブームに象徴される手工業製品志向や“面”バラエティ志向であり、セレクトショップに加えて既存専門店の中からもセレクト感覚を取り込んだ新ブランドで飛躍するケースが少なからず目に付く。
 その傾向が最も顕著なのがヤングのストリートカジュアルで、ポイントの「ローリーズファーム」、キャビンの「e・a・p」、シンシアの「イン&アウト」、アルファベットパステルの「アルファベットクラブ」等が好調に伸ばしている。ポピュラーパーツの「クレドソル」(リオチェーン)も好調だ。
 セクシーガールではストリートカジュアルとの同質化を抜け切れずに低迷するブランドが多いが、手頃な価格でOL層も取り込んだエレガンス系はまだ堅調だ。その伸び頭であったデリカの「セシルマクビー」は、効率の限界に近づいて伸びが鈍化して来た(好調要因は本誌前月号を参照されたい)。サヤの「ミジェーン」はロコガール復活の潮に乗って絶好調に加速しているが、109系では珍しくコンセプトを守ってきたブランドである事も評価されているのではないか。
 コンテンポラリーのOLパーツでもエレガンス系が好調で、「イング」はライバルより手頃でバリュー感のあるブランドとしてコンサバOLに人気を拍している。突出した好調ぶりを見せているのがブランドメーカー系のキャラクター編集SPAで、セレクト感覚の洒落た単品を手頃な価格で提供する「ロペ・ピクニック」が急ピッチで売上を伸ばしている。
 ストア型SPAではトレンディミックス系がキャラクター編集SPA等に食われて売上を落とす一方、郊外大型SCを主戦場とするファミリーベーシック系が好調に売上を伸ばしている。その伸び頭がワールドの「ハッシュアッシュ」だが、初期に開発した「ファインリファイン」をスクラップしての捲土重来である事はあまり知られていない。その意味ではメルローズの「メルローズ・クレール」も同様で、初期の「メルローズ・アンファミーユ」からのリコンセプトが功奏して好調な伸びに繋がった。オンワード樫山の「組曲ファム」も初期は低販売効率に甘んじていたが、郊外SCでのMD展開ノウハウが積み上がるとともに売上が伸びて来た。
 セレクトショップではインポート編集やストリートミックス編集SPA、ナチュラルミックス編集SPAと意外に大半のタイプが失速していく中、専門店系のトラッドミックス編集SPAとメーカー系のブランド軸編集が堅調だ。前者では単品集積に片寄るライバルが減速する一方で「ユナイテッドアローズ」の独走が続いており、後者ではジュンの「VIS」と「トゥモローランド」が好調を継続している。

新手キャラクターSPAの仕掛けたバリュー革新

 全国二百近いSCにおける六千余ショップもの販売成績を毎月のように検証していると、時に時代の変節点のような現象を見る。最近では2001年3月と2002年4月の2段階で重要な変節が見られた。
 2001年3月の変節はローライズデニムの大ブレイクを契機とした、ベーシック工業製品から後加工の効いた手工業製品への転換であり、工業的効率を追求したカジュアル系メジャーSPAたる「ユニクロ」が凋落し、セレクトショップがブームとなっていった。それから僅か13ヶ月後の2002年4月の変節では、前年の変節以降も堅調を続けていたブランド系メジャーSPAや、好調だった大手セレクトの一角も前年を割り始めた。その要因は、セレクト感覚を取り込んだ新手のキャクターSPAが仕掛けるバリュー革新にあった。
 ブランド系メジャーSPAの多くは自社企画型OEM調達を活用して原価率を20%台前半まで、大手セレクトのオリジナル開発もOEM調達で30%台前半まで削り込んでいたから、ブランドバリューがあるとは言え割高感が出始めていた。そこにメーカー系、専門店系の新手キャラクターSPAがセレクト感覚を取り込んだ低価格バリュー商品を押し出して来たのだから、顧客が流れてしまったのもやむを得ない。
 彼等は先行する大手よりロットは小さいものの、値下げロスを低く押さえて値入れを削り、低価格でバリューを訴求している。その代表的な例がワールドの「ハッシュアッシュ」やジュンの「ロペ・ピクニック」だ。キャビンの「e・a・p」やアウトバーンの「キリウォッチ」も手頃な価格と鮮度でバリュー感を訴求している。
 鮮度も品質もブランド系メジャーSPAや大手セレクトのオリジナルと遜色ない、あるいは鮮度的にはそれ以上の商品が格段に手頃な価格で手に入るのだから、インパクトは大きかった。「ロペ・ピクニック」はターミナルの既存店売上を60%も伸ばして高効率ブランドの仲間入りを果たし、「ハッシュアッシュ」も郊外大型SCで同20〜40%台の伸びを見せつけている。

「誰でもSPA時代」が開いたビッグチャンス

 メーカー系の「ロペ・ピクニック」や「ハッシュアッシュ」ほど強烈ではないにしても、専門店系のキャラクターSPAも従来の価値観を超えたバリューを訴求して新たな顧客を取り込んでいる。それが出来るのも、商社やテキスタイルコンバーターが企画・開発機能までセットして専門店のオリジナル開発をサポートしてくれるからだ。様々なニーズに応えるAMS業者が揃った「誰でもSPA時代」だからこそ可能になった変革であり、専門店復活の突破口となった感が在る。
 そのような視点で見ると、ストリートカジュアルの好調専門店は大半がこのシナリオに乗ったものだと読める。ポイントの「ローリーズファーム」はその先行例として高い評価を得ているし、シンシアの「イン&アウト」、キャビンの「e・a・p」、アルファベットパステルの「アルファベットクラブ」もその例にもれない。
 専門店系のキャラクターSPAに共通する成功条件は、1)テイストとプライスポイントを明確に絞り、オリジナル百%のキャラクターブランドに徹している(顧客にはメーカー系に見えるかも)、2)値入れを押さえて手頃な価格にし、バリュー競争力を高めている、3)セレクトショップとも共通するナチュラルで和める内装と陳列でチェーン臭がない、4)既存業態の臭いを残さず、まったく新しいブランドとしてデビューしている、5)キャラクターブランドとして広告やバブリシティに力を入れている、の5点と考えられる。
 最近の好調専門店に共通しているのは、かつてのような売れ筋の補給力や運用の上手さではなく、ブランドとしてのポジションとバリュー感の明確な主張のように思われる。それはメーカー系ブランドともはや何も違わない次元に近づいており、同じ土俵でのエクイティ戦略が意識されるのも時間の問題だ。「誰でもSPA時代」がもたらした専門店意識改革 の片鱗を見る思いがする。 

論文バックナンバーリスト