小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔が徹底解説
『Xデイが迫る「フォーエバー21」』 (2019年09月02日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

img_4c67c93087dbc7c3571086709fdc1735881656

 今年3月末で台湾での営業を終了し、4月には北京や上海、深圳の店もオンライン店舗も閉鎖して中国・台湾市場から撤退。次は日本市場撤退かと出店している商業施設を身構えさせた「フォーエバー21」が、とうとう破綻しそうだと米ブルームバーグが報じている。「フォーエバー21」はそんなにヤバイのだろうか、日本の店舗はどうなるのだろうか。

閉店と売上減少が続く「フォーエバー21」

 2009年4月末に上陸して16年末には21店を展開していた「フォーエバー21」だが、17年に入って1月にららぽーとTOKYO-BAY店とダイバーシティ東京プラザ店、5月にイオンモール和歌山店/各務原店、10月に上陸1号店の原宿旗艦店を閉め、18年3月には土岐(プレミアム・アウトレット)POのアウトレット店(仙台泉POとあみPOのアウトレット店は16年8月に閉店)、19年に入っては4月にイオンモール名古屋茶屋店、7月6日には名古屋栄ゼロゲート店も閉めている。現在は路面5店(札幌大通り、新宿、渋谷、福岡天神、大阪道頓堀)、イオンモール3店(京都、広島府中、沖縄ライカム)、仙台フォーラス、三ノ宮オーパ、ららぽーと2店(横浜、新三郷)、コクーンシティ、ルクアイーレの14店まで減っている。

「フォーエバー21」は非上場で本社決算も日本国内売上高公表していないが、米国では調査会社が推計した数字(全社売上高)が拾える。それによれば、07年の13億ドルから14年の40億ドルまで急成長し、米国アパレルチェーン売上高15位から4位まで上り詰めている。その後は17年まで足踏み、18年にはアジアだけでなく英国など世界各地で閉店が相次いで20〜25%も売上げを落としたとされる。

 仮に20%減だとすれば18年は32億ドル(全社売上高)で米国アパレルチェーンの9位に相当し、米国内売上高はH&M(米国内28.5億ドルで10位)には届かないにしてもインディテックス(米国内9.8億ドルで15位)は凌駕するから、勢いが衰えたとはいえ米国内ではH&Mとファストファッションの双璧をなしている。そんな「フォーエバー21」が売上げの減少に苦しんで経営破綻が迫るとされるのだから、わが国や中国のみならず米国でもファストファッションは下火なのだろう。米国ではH&Mも16年の32億ドルをピークに売上げを落としている。

img_54164128b1fe8637eff14d3453ea7718130131

外資SPAは総崩れ

 日本での「フォーエバー21」の売上高はつかみようがないが、H&Mジャパンの販売効率からやや落ちると見て売場面積から無理やり推計すれば、ピークは14年1月期の220億円強で、19年1月期は140億円弱まで減少したと見られる。

 H&Mと「フォーエバー21」が同じ商業施設に出ているケースはららぽーとの横浜、新三郷とイオンモール沖縄ライカムしかないが、「ユニクロ」とは大半の商業施設で重複しており、それぞれの対「ユニクロ」販売効率格差から両者の効率を推計できる。ちなみに18年のH&Mジャパンの販売効率は国内「ユニクロ」の4掛け強だった。 

 世界の情勢とファッション市場は08年から8年続いたグローバル化から17年以降、分散と対立のローカル化に転じており、グローバルSPA各社の業績も伸び悩んでいる。日本市場でも16年をピークに外資SPA各社の売上げは減少に転じており、ギャップ日本法人は「オールドネイビー」の撤退もあって15年の1060億円から18年は600億円ほどに激減し、H&Mジャパンも17年の628億円をピークに18年は615億円に落ち、19年は600億円を割り込みかねない。インディテックス日本法人も17年の766億円をピークに18年は700億円を割り込んだと見られる(全て当社推計)。

 主要外資SPAの合計売上高も15年をピークとして減少に転じており、18年はピークの8掛け強まで萎縮したと推計される。「アメリカンイーグル」や「フォーエバー21」の閉店が加わる今後は一段と減少が加速するのではないか。

 欧米モードとは異質な独自のトレンドとフィットが広がってローカル化が急進する日本市場では外資SPAは総崩れで、もとより販売効率が低く利幅も薄かった「フォーエバー21」は採算が苦しく、本国の経営破綻がなくても一段の店舗整理が必定だった。

img_cf04a3f722196e6419ff4e1f1829df1e96643

経営不安がつきまとう「フォーエバー21」

 日本市場で売上げを落としている大手外資SPAは「フォーエバー21」に限らないが、他社に経営不安は見られないのに「フォーエバー21」には経営不安がつきまとっている。

 直近四半期の業績を見ても、インディテックス社(2〜4月期)が現地通貨ベースで5%売上高を伸ばして売上対比16.5%、H&M社(3〜5月期)も同5%売上高を伸ばして同10.3%、ギャップ社こそ2%売上高を落としているが同8.5%の営業利益を計上し、アメリカンイーグル社も既存店売上高を6%伸ばして米国では好調なのに対し、「フォーエバー21」は閉店が相次いで大きく売上げを落としているのは推計できても営業利益や資金繰りは一切見えない。

 もとより「フォーエバー21」は非上場のファミリーカンパニーで財務諸表はおろか売上高や利益も一切公開しておらず、わが国でも官報への決算公告も行っていない。そんな非公開体質は好調時には問題とならなくても、ひとたび不調に転ずれば不安が不安を呼んで資金調達にも支障をきたす。「フォーエバー21」が現在置かれている苦境はそんな構図だと思われる。

 米国のチャプター11(連邦破産法第11条)はわが国の民事再生法にあたり、債務整理と事業再生を法的に執行するものだ。再生計画が整っていればつなぎ融資も受けられるし、スポンサーが現れれば再生へ、ダメなら事業を清算することになる。直近のバーニーズの破産法申請では投資ファンドなどから7500万ドルの融資を確保しているから再生の見通しがあるが、「フォーエバー21」の場合はつなぎ融資の確保から難航しており、バーニーズより状況が厳しいようだ。

国内店舗の存続と後釜は

「フォーエバー21」が十分なつなぎ融資を確保できないまま連邦破産法を申請する事態となれば、米国内では大手商業施設デベか投資ファンドがスポンサーとなって営業を継続する店舗が残るとしても、海外店舗の営業継続は極めて難しい。

 バーニーズの場合はセブン&アイ・ホールディングス傘下のバーニーズジャパンと資本関係がなかったから、本国の破綻で日本の店舗が閉店する事態とはならなかったが、「フォーエバー21」の場合は本国資本の直営だから本国が破綻すれば即、日本国内の店舗も閉店を余儀なくされる。本国の再生によほど有力な小売資本がつかない限り(ファンドだと不採算店舗/事業は即、切り捨てる)、破産法申請で日本の店舗は閉店することになる。

 となれば「フォーエバー21」閉店後の後釜をどうするかだが、外資SPAは総崩れで不採算店整理を加速している状況だから期待できないし、商業施設内の小型店でも1000平米以上、大型店では3000〜4000平米という大型区画を埋めるテナントは極めて限られる。規模的には「ユニクロ」「GU」やアダストリア系の複合店舗、あるいはスポーツ/アウトドアの大型店か「ニトリ」や「スタイルファクトリー」などインテリアの大型店が考えられるが(米国のSCではフードコートに転換するケースも見られる)、ゾーニングや販売効率を考えれば選択肢は限られる。

経営状態を開示しないテナントは導入しない

 外資テナント、とりわけ準核級の大型店舗は相手都合の退店リスクが極めて大きい。「オールドネイビー」の突然の撤退で商業施設デベは肝に命じたはずだが、今更打つ手がないということなのだろう。米国では残存定借期間の基準家賃一括徴収というペナルティで対応しているが(本サイト6月5日掲載『ブランド旗艦店が消えていく』)、経営破綻では徴収も難しい。

 そんな外資大型店舗のリスクに加え、「フォーエバー21」の場合は経営状態のディスクロージャーという最低原則も怪しく、出店契約に当たって財務諸表の提出を得られたのか疑わしい。中小の新興テナントならともかく準核級の大型テナントである以上、そもそも経営状態を開示しない企業を導入すべきではなかった。これを機会にルールを徹底すべきだろう。

論文バックナンバーリスト