小島健輔の最新論文

販売革新2005年4月号掲載
『SC戦略の優劣と量販店の将来』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

大型SC開発ラッシュの光と影

 大店立地法施行後、SC開発は徐々に再加速し、04年度は前年から15増の62SCが開設された。開設数こそ大店法下の90年代(92〜00年は百超の開設が継続)には及ばないものの、新設SCの平均商業面積は03年に28,455平米と前年から43%も急拡大し、04年も28,071平米と大型化傾向が継続している。
 工場跡地等の潤沢な物件供給、REIT等の開発資金調達の多様化、テナント供給の多様化、大店立地法対応力の確立などの要件が揃った事が大型化の背景だが、大型化が大型化を加速するという競争環境も否定出来ない。事実、CSCの規模は90年代の2〜3万平米級の箱型から最近はモールを併設して3〜4万平米級に肥大。中には一見、RSCかと見紛う5万平米級のモール型物件も開設されている。RSCともなれば5〜6万平米級はミニマムで、新規の計画物件は7〜8万平米級に肥大している。
 将来のライバルSC開設まで見据えれば大型化は商圏防衛上、やむを得ない対応であろうが、中には立地の性格や敷地、道路付けの限界を超えた無茶な開発も少なからず見られる。結果、大型化に見合わない商圏の狭さとアクセスの障害で売上予算を大幅に下回るSCが続出しているのが実態なのだ。
 当社の主催しているSPAC研究会(テナント企業中心に79社加盟)で04年度開設大型SCの出店結果評価アンケートを行った結果でも、CSC立地/敷地に過大なモール型SCを開設したケースがワーストSCの多くを占めた。どんなに大型化してもRSCまがいのモールを併設しても、CSC立地/敷地の壁は超えられない。そんな初歩の常識さえ無視して量販店核CSCの大型化が進められており、多くのテナント企業が苦難に直面している。逆に評価の高かったSCは商業面積の大小に拘わらず、立地/敷地の特性に適した開発が行われたケースがほとんどだ。
 03〜04年度開設SCでは商業面積3万平米以上のSCが約4割を占めており、近年の米国のそれ(99〜03年平均で推計約15%)と比すれば極端に大型SCに片寄っている。失敗SCの多発を受け、06年度からは立地/敷地の特性に適した多様化に転ずるのではないか。
 ※ICSCではGLA(総賃貸面積)37,161平米以上をRSCに分類しており、その区分では99〜03年平均開設比率は7.0%となるが、商業面積(共有面積含む)三万平米超は約15%弱と推計される。

SC開発の主役は専業デベロッパーへ

 90年代以降のSC開発ブームを新設SC総テナント数を軸に振り返ると、第二次改正大店法施行を受けての92〜94年の第一期、大店立地法施行前駆け込み開発による99年〜00年の第二期、大店立地法対応/資金調達/物件供給/テナント供給の四拍子が揃っての03年以降の第三期、計三次の山を経て開発SCの性格と開発主体がシフトしていった事が解る。
 第一期以降、98年までは量販店が開発主体の箱型CSCが継続開発され、新設SCの平均商業面積はジリジリと拡大したものの一万七千平米台に留まっていた。モール型SC開発はまだ試行錯誤の段階にあってローカル〜ルーラルに限定されていたが、その開発主体として専業デベロッパーが着実にノウハウを蓄積していった。
 大店立地法施行前駆け込み開発の第二期(99〜00年)は、ようやく成功パターンが見えて来たモール型SCと箱型SCの交代期となり、新設SCの平均商業面積は一気に二万平米台に乗った。モール型SC戦略で先行したイオングループが決定的なアドバンテージを得る一方、箱型SCに固執した他量販店はSC戦略から脱落していった。
 03年以降の第三期(04〜05年)ではモール型SCが開発の主流となり、新設SCの平均商業面積は二万八千平米台に急拡大。既存箱型CSCの淘汰が進む一方、売上不振が表面化してモール型CSCの化けの皮も剥がれた。モール型CSCとは、かつてなら箱型CSCが開発されたようなCSC立地/敷地にモール型で開発された量販店核大型SCで、商業面積はミニRSC級でも獲得商圏はCSCの枠を出られなかった。
 モール型CSCの度重なる失敗で量販店本体は大型SC開発の信頼を損ない、「量販店本体開発のSCは大きくてもモール型でもCSC」という認識がテナント業界に定着。「モール型RSC開発は専業デベロッパー」という役割分担が明確になった。同一資本グループでも専業デベロッパー開発SCの安全性と優越性が明らかになり、量販店はSCという鎧を失って核店舗としての実力を再度、問われるに至っている。
 SC戦略に出遅れたイトーヨーカ堂がそんな経緯を理解しているか否かは解らないが、量販店が主体となって大型SCを開発する時代は既に終わっている。大型SCは試行錯誤を重ねてノウハウを確立した専業デベロッパーが手掛ける時代に移っており、専門サービス業者を活用するにしても既に手後れと言わざるを得ない。焦って手掛けたSCの多くは専業デベロッパーが不適と判断して降りた物件であり、期待する商勢圏を確保出来る可能性は極めて低い。
 専業デベロッパーとしては、サバブ・エッジ〜ローカル広域型RSCに特化してノウハウを確立したイオンモールの成功率が突出して高く、他デベを引き離している。プレミアム・アウトレットモール特化のチェルシーも成功率百%と別格だ。メトロ圏アーバン〜サバブの大型SCではダイヤモンドシティも目立つが、立地/敷地にばらつきがあって成功率はまだ安定していない。三井不動産はメトロ圏立地アウトレットモールでは成功パターンを確立したものの、ライフスタイルセンターからターミナルの再生物件まで多様な案件を手掛けており、定型成功モデルはまだ見えない。他社はこれから開発を本格化する段階にあって定型成功モデルを問う段階にはないが、百貨店核RSCでは東神開発や阪急グループ、低コストなライフスタイルセンターやパワーモールでは大和ハウス系が期待される。

SCの優劣は立地/敷地選定で決まる

 当社でテナント企業向けに事前審査・格付けした00年以降開設の主要大型SC百余物件を開設後の営業成績も加味して検証すれば、SCの優劣を決める最大要素は立地/敷地選定である事は明らかだ。
 立地には以下の4要素が絡むが決定的要素は1)〜3)であり、そのマッチングがSCの性格・優劣を規定するが、4)も時として大きな影響を及ぼす事がある。
   1)商圏の密度/特性×アクセス環境も含めた拡がり
   2)敷地の大きさ/形状/用途・建築規制×接道環境
   3)既存/計画競合商業施設の分布と売上高
   4)敷地や周辺地区の歴史的・社会的イメージ
 1)〜3)のマッチングの基本となるのが、ターミナル〜ダウンタウン〜アーバン〜サバブ〜サバブ・エッヂ〜ローカル〜ルーラル〜リゾートの商業立地特性であり、それぞれにおいて最適なマッチングが求められる。高密度商圏では小商圏高占拠率、低密度商圏では大商圏高占拠率が成功の基本で、郊外SCの実勢商圏はハフモデル的には売場面積占拠率10%圏が近似する。期待する実勢商圏を確保するにはどれほどの商業面積/駐車台数が必要か、また実勢商圏内の10%売上×立地係数と商業面積/投資が見合うかが物件選定の起点となる。
 2)このバランス点の建築容量確保、顧客車両/納品車両の収容と出入りを物理的/大店立地法的にレイアウト可能な敷地物件を選定する事になるが、敷地のゆとり(広域型SCでは敷地内周回道路が不可欠)と接道環境に恵まれないとピーク時の出入りは大渋滞になる。当然ながら、1)その適合物件が商勢圏を確保し易い位置にあってアクセス環境にも恵まれている必要が在る。大型河川や運河、高速道路や幹線道路、鉄道や操車場などはアクセスを妨げるから注意を要するが、ほとんどのSCは大なり小なり、この点には目を瞑っている(半月型商圏、閉鎖型商圏が極めて多い)。  加えて、3)その敷地と周辺地区が地域で好ましいイメージを持たれているか否かも問われる。貧困地区とか刑場跡地とか、地域住民が敬遠する地区は避けたほうがよい。ライフスタイルセンターなどでは、逆に好ましいイメージの地区から1)2)を満たす物件を捜すアプローチもあろう。
 このように見ればCSC物件とRSC物件は位置も敷地もまったく条件が異なり、転用のしようがないはずだが、アーバンやサバブの量販店核SCでは露骨な転用ケースが少なからず見られる。これらのSCが成功する訳もなく、販売不振に喘ぐ結果を招いている。周辺環境が好ましいアーバン〜サバブのCSC物件なら、小商圏高占拠率に徹したライフスタイルセンターという選択もあるだろう。その場合でも、CSCより商圏が拡がるという期待は禁物だ(売上を大きくする事は可能)。
 日米のSC発展史を実践的に比較検証して長期的に商圏の発展〜衰退構造を読むなら、現状のアーバン〜サバブ立地SCのほとんどは商圏萎縮が避けられない立地に位置している事が解る(図3参照)。サバブ・エッジの百貨店核RSC開発ラッシュが現実のものとなれば、大半の疑似RSC(実態は量販店核大型CSC)は一段と厳しい状況に追い込まれるだろう。いったい量販店は米国のSC発展史をどう見て来たのだろうか。

構成企画は立地の壁を超えられるか

 立地や敷地に問題があっても構成企画やテナントミックスに魅力があればSCの成功は可能という希望的見方もあるが、多くのSCを審査・格付けしてきた経験からみて、その可能性は極めて小さい。ただし、立地/敷地とSCの性格がミスマッチゆえに行き詰まったケースでは、立地/敷地に適した性格にリモデルすれば浮上する可能性が高い。
 周辺に競合SCが増えて商圏が縮小したようなケースでは小商圏高占拠率型に構成を転換すれば売上が回復するし、敷地とアクセスに恵まれた例外的なケースでは、増床して広域型の核店舗を導入すれば商圏を拡張する事も可能だ。それは新規開発においても同様で、企画段階で立地/敷地の特性と構成企画のミスマッチを検証してSCの性格を訂正すれば失敗を回避出来る。量販店核のCSCでは始めからステレオタイプな構成が規定されるケースがほとんどで、立地/敷地ファクターの再検証などは顧みられないようだが、それでは失敗率が下がらない。
 SC構成企画の基本は立地/敷地の持つ性格をフルに活かす事であり、ミスマッチな企画が成果をもたらす可能性は無い。ましてや、立地/敷地のポテンシャルを超えた広域狙い企画は確実に失敗をもたらす。アウトレットモールなどの特殊ケースを除けば、より小さな商圏でより高い占拠率を狙うほど成功率が高く、より大きな商圏を狙うほど占拠率が低くなって成功率も低くなる。これがSC構成企画の定理とわきまえるべきだろう。

量販店のポストSC戦略

 90年代以降、量販店は業態の競争力低下を郊外SC戦略による立地開発でカバーして来たが、SC開発の主体が専業デベロッパーに移行していけばテナント出店する側となり、核店舗としての真贋を問われる事になる。それは決して遠い将来の事ではなく、ほんの数年先に迫っている現実なのだ。
 現状のSC核量販店は衣料関連売場等の水増しで大型化しただけで、核店舗として広域集客を果たすどころかモールの専門店群の集客に依存しているのが実態で、他社資本の専業デベロッパーから出店依頼など有り得ない。足元商圏に立脚する食品部門はともかく、広域集客を果たすはずの衣料品部門は限界的な低販売効率/消化率に苦しんでおり、その供給業界とともに実質破綻寸前の状態にある。
 SC核店舗として生き残るには衣料/服飾部門が広域集客の要となり、かつ収益の源泉とならねばならない。その為には1)地域特性への個店対応、2)調達手法と提供方法の多様化によるブランド商財拡充、3)販売組織育成による売場運用消化力強化、というチェーン運営の枠を超えた改革をやり遂げるしかない。
 3点の改革によってPDS(チェーン運営の大衆百貨店)に変貌出来れば核店舗としてお声が掛かるようになるが、チェーンオペレーションが抜本から否定される訳ではない。本部主導のチェーンオペレーションから店舗主導のチェーンオペレーションに反転するだけで、調達の多様化に伴うサブシステムが加わるものの基幹体系はさほど変わらない。ただ、店舗現場の活力と運営精度が業績達成の主導権を握る事になる。
 専制的なチェーンストアを脱して運営が民主化され、業績が好転するという結構ずくめの‘革命’なのだが、それを妨げる宗教的な確信が経営陣を縛っているとすれば量販店の将来は閉ざされてしまう。
 イトーヨーカ堂は郊外SC戦略には決定的に出遅れたが、大手量販店の中では唯一、そのような呪縛の外にあり、専業デベロッパー下のRSC時代には核PDSとして新たな発展を遂げる可能性がある。イオンは郊外SC戦略では圧倒的なリードを果たしたものの、チェーンストア哲学のビジネスモデルに縛られて核PDSの開発に出遅れば、専業デベロッパー下のRSC時代に取り残される事になる。
 HCから発展した日本型スーパーセンターの優位が明らかになり、米国式のスーパーセンターがポストSC戦略の切り札になる可能性も無くなった。SC戦略もSC核店舗戦略も欠く外資系量販店は、如何にチェーンシステムが優れていても日本市場で成功する可能性はゼロに等しい。恐らくは遠からず、すべて撤退する事になるだろう。

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