小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『そごう・西武の失敗から考える「百貨店復活論」
後編:日米比較で見えてくる現実路線』
(2023年10月04日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 米国の百貨店業界もわが国百貨店業界と同様、斜陽の坂を転げ落ちてきたが、合併によるセントラルバイイングの規模の利益追求や同質化に陥らぬ独自のビジネスモデルで高収益を確保している企業も存在する。そんな米国百貨店のビジネスモデルと収益化対策を検証し、わが国百貨店の再建策を提示してみたい。

 

【中見出し】米国百貨店の多様なビジネスモデルと収益対策

 

 米国の百貨店はソフトラインに特化してもわが国の百貨店のように同質化せず、サックスフィフスアベニューやニーマンマーカス(20年5月、連邦破産法11条の適用を申請して破綻)のようなラグジュアリーストアからメイシーズやディラードなどNB(ナショナルブランド)中心の中級デパートメントストア、大衆NB中心のコールズ(巨大な「しまむら」というイメージ)までクラス別に棲み分けている。シューズ専門店から発展したノードストロムだけは異色で、手頃価格のNBからトップエンドのラグジュアリーブランドまでカテゴリーも価格帯も客層も異なるさまざまなセレクトショップを複合し、カフェやスパも併設している。百貨店というよりセレクトショップ複合ライフスタイルストア(23年1月期末の平均店舗面積1万5310平方メートル)と位置付けるべきだろう。

 郊外や地方まで多数の店舗を展開する中級デパートメントストアは同質化で業績が低迷して合併を繰り返し、メイシーズ(23年1月期末でフルライン店2業態計623店)とディラード(同フルライン店247店)という巨大チェーンに集約され、急成長してきたコールズ(同1170店)もリーマンショック以降は貧富差の拡大で低所得層の消費が伸び悩んで業績が落ち込み、ノードストロム(同フルライン店は115店)も近年は伸び悩んで収益も悪化している。

 以下に米国の百貨店の近年の特徴を列挙しておこう。

 

  • オフプライスストアの拡大

 

 正価販売が低迷する中、米国のオフプライスストアは成長を続けており、百貨店にとっても自社売れ残り品の処分と成長(実態は売上維持)を担い、ECと並ぶ成長事業となっている。ノードストロムは「ラック」243店(平均店舗面積3307平方メートル)を展開して売上高の31.9%を稼ぎ、メイシーズは「バックステージ」309店(うち300店はフルライン店に併設)、ディラードも27店のクリアランスセンターを展開している。

 ビューティ部門も成長株で、メイシーズは15年に買収したビューティチェーンの「ブルーマーキュリー」を買収時の60店から160店に拡大し、コールズは「セフォラ」のインストアを現状の600店から23年中に850店に拡大し、25年中には全店(1170店超)に広げるとアナウンスしている。

 

【画像2入る】メイシーズのオフプライス業態「バックステージ」

 

  • ECとOMOの拡大

 

米国の百貨店はコロナ前からEC比率が高く、Curbside pickup(駐車場受け取り)を含むBOPIS(EC注文品の店受け取り)の普及もあって、コロナ下では瞬間風速で過半を超えるチェーンもあったが、店舗売上高が回復した23年1月期決算ではメイシーズが23.6%、コールズが32%、ノードストロムが38%と落ち着いてきている。各社ともBOPISの拡大に対応してFC(フルフィルセンター)出荷から店在庫引き当てにシフトしており、コールズではEC売上高の35%に達しているという。

 

  • セントラルバイイングで規模の効率

 

米国の百貨店は売り上げが伸び悩む中、店舗販売より格段にコストが低いECとOMO(BOPIS中心)を拡大して販管費を吸収してきたが直近はECも伸びが鈍化し、リベンジ消費も一巡してコストインフレの吸収が困難になっている。23年1月期はセントラルバイイングで規模の効率を発揮するメイシーズとディラードは高収益を維持したが、ノードストロムはクレジット手数料収入を除く現業の営業利益が売上対比0.18%と収支いっぱい、経営陣の交代などで混乱したコールズは大幅赤字に転落している。

 

  • クレジット手数料依存

 

米国の百貨店はハウスカードのクレジット手数料に依存しており、23年1月期のメイシーズは現業の利益率3.55%に対してクレジット手数料(8億6300万ドル)を合わせた営業利益率は7.08%に倍増する。販管費率が24.41%と他社よりひと回り低いディラードは現業の利益率も14.32%と高収益で、クレジット手数料(1億2510万ドル)を合わせた営業利益率は16.14%と上乗せは1.82ポイントにとどまる。14年の進出以来、低迷が続いて黒字化しないカナダ事業(23年6月末で撤退)が足を引っ張って販管費率が39.29%と40%に迫るノードストロムは現業の利益率が0.18%に落ち込み、クレジット手数料(4億3800万ドル)を加えた営業利益率は3.08%とクレジット手数料への依存度が高まった。経営陣の混乱で既存店が6.6%も落ち込んで現業がマイナス4.03%の赤字に転落したコールズは、クレジット手数料(9億3700万ドル)を加えて何とか1.43%(前期は9.10%)の営業黒字を確保している。

 

【中見出し】わが国百貨店の堕落がもたらした衰退のスパイラル

 

【画像3入る】百貨店でのアパレルの取り引きは消化仕入れが主流(画像は西武渋谷本店)←渋谷は本店ではないですが

 

 わが国百貨店は「消化仕入れと売場貸しの個店経営の半身不動産業」、対して米国の百貨店は「セントラルバイイング(買取仕入れ)のチェーン小売業」と言われるが、米国の百貨店でも化粧品やジュエリー、シューズはもちろんアパレルのブランドインショップの一部もコンセッショナリー(売り場貸し)であり、買い取りの売り場もプロモーション(値引き分担)はもちろんキャンセルや未引き取りもあるから、セントラルバイイングを除けば全く異質というわけでもない。

 拡大するECも在庫を抱えるとは限らず、サプライヤー在庫をラインナップするドロップシッピング※1.も活用されている。値引きや減耗(万引きや返品はわが国の何倍にも達する)のロスを差し引いた粗利益率は33〜42%と買取商売としては低くてインフレでかさむ販管費を吸収できず、一人当たり売上高が店舗販売の10倍前後と採算性の良いECの拡大とハウスカードの手数料で収益を下支えしているのが実情だ。

 わが国百貨店の衣料品取引慣行は消費不況の1984年を転機に買い取りから委託仕入れ※2.に移行し、00年のそごう破綻を契機に消化仕入れ※2.へと一転したが、それによる納入掛け率の切り上げは行われず、バブル崩壊の90年代には売上高の減少を利幅で埋めようと百貨店業界は競って納入掛け率を切り下げた。92年から00年で12ポイント以上切り下げられたから、それまで概ね小売価格の33%程度だった百貨店ブランドの生産原価は20%を切らないと利益が残らなくなり、ほぼ国内生産だった百貨店ブランドもほとんどが中国などの海外生産に切り替わっていった。

 百貨店都合の原価切り下げで百貨店ブランドのお値打ち感は目に見えて劣化し、ショッピングセンターや駅ビルに展開するアパレルチェーンの急拡大期とも相まって百貨店から顧客が流出する事態を招き、今日に至る百貨店と納入アパレル業界の連鎖的な衰退スパイラルを引き起こした。百貨店業界が競って納入掛け率を切り下げるというカルテル紛いの収奪により、バブル崩壊による売り上げ急落で本来は断行すべきだったリストラが先送りされてしまい、本質的な事業構造の転換が進まないまま、そごうの破綻やセゾングループの解体を経てリーマンショック以降、百貨店の閉店と人員整理が加速していったことが悔やまれる。

 

※1.ドロップシッピング……在庫を抱えず受注してサプライヤーが顧客に直送するEC事業形態。

※2.委託仕入れと消化仕入れ……委託仕入れでは納品時点で百貨店側に在庫の所有権が移るのに対し、消化仕入れでは販売時点で百貨店側に移る。ゆえにアパレル側が在庫を好調店に移動する場合、委託では百貨店側の返品伝票を要するが消化では不要で、在庫の運用が機敏にできるのに加え、百貨店の破綻時にはアパレルが在庫を引き上げることもできる

 

【中見出し】わが国百貨店再生への選択と現実

 

 わが国百貨店の根本改革の方向として、(A)買取仕入れで粗利益率を高める小売業への原点回帰、(B)定期借家契約のテナント売り場でショッピングセンター化する不動産業化、という両極の選択がうたわれてきたが、どちらかに徹底するというのはそれぞれの専業事業者に競り勝つ実力と効率が必要で、長らく殿様商売を続けてきた百貨店の人材では難しいという見方もある。

 

(A)小売業への原点回帰とセントラルバイイング

 

 ノードストロムやわが国セレクトチェーンの苦闘を見る限り、小売業回帰を進めれば労働集約産業の呪縛にはまって人件費の抑制が難しく、販管費を吸収できる粗利益率を確保できる保証もない。少子高齢化で人手不足と賃金インフレが加速する今後のわが国では難易度はさらに高まる。大手百貨店で最も小売業に注力している三越伊勢丹でさえ、百貨店事業の売上対比セグメント利益率はコロナ前最盛期の19年2月期でさえ1.47%に過ぎず、コロナからの回復が進んだ23年2月期も2.00%にとどまっており、部分的ながらセントラルバイイングを志向する高島屋の方が2.44%と凌駕している。

 チェーン百貨店の収益力は規模のメリットを生かせるセントラルバイイングの深耕度と立地の異なる多数の店舗へのDB.※3.運用精度が決めるのが現実で(米国でもメイシーズとディラードの利益率が突出している)、突出した売上高の都心店だけで支えられるものではない。その意味では、三越伊勢丹より高島屋の方が一歩、リードしているかも知れない。

 

(B)ショッピングセンター化とプロパティマネジメント

 

ショッピングセンター化すれば資本集約産業に転じてECと同じく10分の1の人員で同じ売上高を稼げるから収益構造は大きく改善されるが、9割の人員をリストラしなければならず、多数の商業施設を手掛けて仕組みを確立した専業の商業施設デベロッパーほど効率的に運営できるとも思えない。自前の物件なら資金と金利の負担は限定されるが、賃借物件や新たな開発物件では賃借料や借入金利に圧迫されて損益は厳しくなる。

 もとより百貨店(コンセ契約)とSC(テナント契約)のハイブリッドスタイルで発展して来た韓国や中国の百貨店はコンセからテナントへバランスをシフトしていけば良いが、コンセ契約とテナント契約の運営コストの差は集中レジ要員ぐらいで大きな違いはなく、アパレルチェーンやECへの売上流出に追いつかないまま、中国の百貨店は大量閉店が続いている。

 それでも23年2月期の高島屋の商業開発業のセグメント利益は92億6600万円と百貨店業の50.3%、Jフロント リテイリングもSC事業とデベロッパー事業で74億2800万円と百貨店事業とほぼ同額(98.7%)を稼いでおり、自前物件からの転換なら成算がある。高島屋もJフロントも一等地店舗は高額でも買い取って自前化を進めており、ショッピングセンター化しても十分に採算が見込めるようだ。

 

(C)求められる現実的環境対応

 

わが国百貨店に比べれば格段に買取比率が高い米国の百貨店も、運営コストの低いECを売上高の20〜40%を占めるまで拡大してBOPISや店在庫引き当ての比率も高めて店舗DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、オフプライスストアを多店化して自社商品の消化と事業機会拡大に努め、自社発行ハウスカードの手数料収入で利益を下支えしてもなお、経済・消費動向の荒波にもまれて業績が上下し、経営体制が崩れたり経営戦略が外れたりすれば急転直下に業績が悪化することもある。打てる手を全て打っても内外の環境次第で業績が上下するのが現実で、内外の状況を読んで様々な施策を柔軟に組み合わす環境対応力が求められる。

わが国の百貨店もセレクトショップのような単品編集で買取を拡大するより、大箱でのコーナー編集による一括販売代行(個別のコーナー運営に倍する労働生産性が得られる)や有力ブランド/ストアのフランチャイズ導入が現実的で、それで成果を上げている百貨店もある(少なくとも現場の人員整理は避けられる)。そんな個店対応に加え、セントラルバイイングによるJB(ジョイントPB)※4.やVMI※5.で効率的なサプライと販売消化を両立して高粗利益率を確保すれば、収益性は格段に向上するのではないか。

ECやOMOはリアリテイを欠いた机上の戦略が過大投資となって使い勝手の良いサイトデザインやOMOアプリの確立が遅れ、未だ中元・歳暮と化粧品などにとどまるケースが多い。EC比率は高島屋の4.9%、三越伊勢丹の4.3%が目立つぐらいで米国の百貨店とは1ケタ違うが、逆にいえば今後の拡大余地が大きく、収益の改善効果が期待できる。

セントラルバイイングの買取商品なら自前の物流や店在庫引き当てのBOPISやローカル出荷など自在だが、消化取引商品でも在庫を預かってのFC(フルフィルセンター)出荷のみならずサプライヤー在庫のドロップシッピングでラインナップを広げることもできる。フロントやバックヤードのシステムも大風呂敷を広げず既成のプラットフォームやアプリを活用すれば、コストも時間も節約して手早く拡大出来るのではないか。

ハウスカード発行によるクレジットカード手数料収入は発行子会社(イシュア)が百貨店全額出資であればフルに期待できるが、カード発行会社との合弁だと限定される、と思われがちだが、必ずしもそうでもないようだ。三越伊勢丹のエムアイカードは三越伊勢丹ホールディングスの100%子会社だが、高島屋の高島屋ファイナンシャル・パートナーズは高島屋69.5%、クレディセゾン30.5%出資の合弁会社だ。とはいっても23年2月期の百貨店事業と金融事業のセグメント利益は、三越伊勢丹の百貨店204億3200万円・金融37億9100万円(前期は百貨店がマイナス63億3900万円/金融60億7000万円)に対し。高島屋は百貨店184億1000万円・金融45億1300万円(前期は百貨店マイナス65億6100万円/金融43億5800万円)と大差ないから、運用次第と思われる。高島屋がパートナーを組むクレディセゾン自体が西武百貨店のハウスカード発行会社(原点は緑屋)から大きく発展したもので、経験豊富でシステムも確立しており、独資よりベターな選択だったかもしれない。

 

【画像4入る】西武池袋本店は不動産を取得したヨドバシホールディングスがヨドバシカメラの大型店を入れる予定だ

 

以上、(A)と(B)を基本に(C)という現実的な全方位対応を提示したが、長いリストラの冬を乗り越え、コロナ禍をようやく凌いだばかりで、そのどれもが途上の百貨店が多いと思われる。(A)も(B)もECやOMOと店舗DXもハウスカード戦略も、それぞれに投資はもちろん知見とスキルを要することは言うまでもないが、経営企画室的な机上設計(官僚的な計画経済に近い)で現実離れした高額投資に陥ることなく、顧客と現場に寄り添う中小企業的な現実路線で、既成のプラットフォームや多様な便利アプリやツールを柔軟に活用し、適切なパートナーを選択して迅速かつ効率的に進めるのが賢明ではなかろうか。

中小企業的な現実路線と言っても、労働生産性を飛躍的に向上させるには店舗物件の自前化、セントラルバイイング体制をベースとした店舗DXとOMOプラットフォームの確立など、資本装備率の向上が不可欠だから資本力も必要だ。わが国百貨店の再生には現場感覚の現実路線と資本集約型への戦略投資という両面が問われているのではないか。

 

※3.DB.(Distribution/Distributor)…チェーンストアでは調達した商品を多数の店舗に最適配分・補給・移動する在庫運用をDistribution、運用責任者をDistributorと言い、値入れの減耗率をマーチャンダイザーやバイヤーと連帯して評価される

 

 

※4.JB(ジョイントPB)…しまむらや米国のバックルなどで成果を上げているサプライヤー企画の同盟型プライベートブランドで、納品された商品は買い取りでもQR生産までの補給用バッファー在庫はサプライヤーが自主的に負担するケースが多いと思われる

 

※5.VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い

 

 

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