小島健輔の最新論文

WWDジャパン2008年8月25日号掲載
『ここが違うよ日欧ファストファッション』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

ファストファッションて何!

 「ファストファッション」とか「ファストアパレル」とかよく言われるけど、どんな意味なの?元々はファストフードのように「それなりに旨い速い安い手軽なファッション」という意味で使われ出し、そのような商品を提供する業者を「ファストアパレル」と呼ぶようになったと思われます。「ファストアパレル」は初期は現金問屋やキャリ−調達(ソウル東大門市場などの流通素材で一泊二泊で作って持ち帰る)の零細SPAを指していましたから、「手軽な物づくり/手軽な調達」という意味もあったのでしょう。それが何時の間にか「H&M」や「ZARA」などのグローバルSPA、「TOPSHOP」などのハイストリートストアまで指すように変質して行ったのは、モードが大衆化して「旨い速い安い手軽なファッション」で済ませるのがメジャーとなったからと思われます。その意味では「ユニクロ」や「しまむら」もファストアパレルの一員に分類してよいでしょう。
 しかし、彼等は必ずしも「ファスト」な物づくりを行なっている訳ではありません。「ユニクロ」や「GAP」の仕様のこだわりや開発期間を考えれば決して「手軽な物づくり/手軽な調達」とは言えませんし、開発期間が短いと言われる「ZARA」にしても自ら多数のデザイナー/パターンナーを抱え素材の整理加工〜グレーディングまで手掛ける開発体制は「手軽」とは懸け離れています。その意味では企画から仕様開発、生産までOEM業者に丸投げする「ローリーズファーム」や「グローバルワーク」の方が遥かに「手軽」な物づくりと言うべきでしょう。
 商品化が「速い」と言う意味では企画決定から店頭投入まで最速3週間という「H&M」は確かに速いが、自社工場を軸とした逆看板システムとグローバルロジスティクスで一週以内に全世界で店頭投入出来る「ZARA」はもっと速いし、109のキャリーアパレルは最速3日で店頭投入しているではありませんか。その意味で店頭投入まで8週もかかる「ローリーズファーム」や「グローバルワーク」が速いとは言えませんし、4ヶ月も5ヶ月もかかる「ユニクロ」や「GAP」はスローアパレルと言わざるを得ません。
 トレンドが「速い」という点では、コレクションブランドと同時に素材から開発する「ZARA」が質的にも突出しています。トレードオフでは「H&M」も速いのでしょうが、流通素材依存という点で質的に「ZARA」には適いません。ストリートの動きに敏感という点では、ストリートクリエイターのセレクトやヴィンテージまでミックスする「TOPSHOP」の右に出る大手は無いでしょう。
 売場の鮮度を商品回転で評価するなら「ZARA」(4.5回転)も「H&M」(4.0回転)も失格です。グローバルSPAで最速は以外と「ユニクロ」(6.4回転)なんですネ。回転が速いという事では最盛期のポイント(13.2回転/07年2月期)や「セシルマクビー」(18回転)が突出しています。109のキャリーアパレルなど24回転以上でしょう。

モードのトレードオフはKYかも

 コレクション制で年2企画というスローなモードブランドは企画から店頭まで半年前後もかかり、商品回転も年2回未満(100%消化は不可能)に留まります。低回転高コストですから目の玉が飛び出る不合理な高価格は否めず、鮮度もコピー業者が先行してしまいます。スタグフレーションに苦しむ落日の日本では、よほど泡銭があってスノブな欲望を抑え切れないファッションビクティム以外は手を出さない代物と化した感が在りますが、果たして欧米系ファストアパレルはそのメジャーな代替として盛り上がって行くのでしょうか。私は疑問だと思います。  活力が低下して行く落日の日本ではローカル化/蛸壷化が進行し、グローバルなモードトレンドへの関心は低下して行くからです。それぞれのローカルなカルチャーやライフスタイルに和む等身大のファッションが希求される日本市場では、グローバルなモードトレンドのトレードオフたる欧米系ファストアパレルのメジャー化には限界があるのではないでしょうか。「H&M」も一時は注目されるでしょうが、「GAP」のようにメジャー勢力として定着するのは難しいと思います。

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