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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『ユニクロの有明自動倉庫に見る課題』 (2018年10月24日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ファーストリテイリングがプレスに公開した有明自動倉庫を検証してみたが、『ECマテハンの画期的自動化』が評価される半面、『パッキン物流のままの店舗物流はどうするのか』『どんなに自動化しても棚入れする限りは広大な倉庫スペースを要し滞貨が発生する』という課題も浮き彫りになった。

EC特化とオリコンで画期的自動化を実現した有明倉庫

 有明自動倉庫は24時間稼働で自動検品率100%、自動化前と比べて入庫生産性80倍、保管効率3倍、出庫生産性19倍、省人化率90%、オーダーから出荷まで8~16時間もかかっていたのを最速15分〜最大60分に短縮するという画期的な自動化を実現したが、その要は店舗向け物流を切り離してEC物流に特化したことにある。

 有明倉庫はオリコン(折り畳みプラスティックコンテナ)と物流用バーコードで一貫運用するもので、マテハン形状の統一でソーターやロボットを活用した工業的自動化を実現している。入荷工程ではオリコンのままRFIDを読んで自動検品し、物流用バーコードで棚入れもピッキングも自動化している。ピッキングしたオリコンは宅配箱入れラインに自動で届けられるが、ここだけは手作業で取り出して箱入れされる。オリコンは商品が残っていれば自動で棚に戻され、空になれば自動で折りたたんで回収される。商品が入れられた宅配箱は容量を自動検知して適正な高さに折りたたまれ、宅配伝票を添付して自動で出荷仕分けされる(詳細な物流プロセス図を月刊『販売革新』2018年11月号の筆者原稿に添付)。

次ステップは店舗物流の自動化

 有明倉庫の画期的自動化は、物流で包括提携したマテハン・サプライヤーのダイフクの力によるところが大きい。ダイフクは自動車工場のマテハンから発して物流トータルのシステム・サプライヤーに飛躍したグローバル企業で、近年は電子工業や流通業にも業務を広げている。

 ダイフクにとって工場ラインから店頭や宅配出荷まで一貫して自動化するのはお手の物だが、ユニクロの膨大な店舗物流と個客対応のEC物流を一体運用するのは合理的でなく、まずはECに特化して有明倉庫を自動化したもので、店舗物流のオリコンによる自動化は次の段階となるようだ。

 現段階ではRFIDタグは生産ラインで添付してもパッキン出荷されてコンテナで海を渡り、国内仕分け基地で店舗向けはパッキン単位で仕分けされ、EC向けは手作業でパッキンを開けてオリコンに移し替えていると推察されるが、次段階では工場出荷段階からオリコンで通し(コンテナ積載効率が低下するが)、店舗向け仕分けもオリコンで自動化すると思われる。

スルー型物流とダム型物流

 EC物流にせよ店舗物流にせよ、オリコンでマテハンを自動化しても「棚入れ」する限りは膨大な倉庫スペースを要するし、そこに在庫が滞貨するリスクも生じる。有明自動倉庫でプレスに公開されたのは入荷工程だけで、その後ろには広大なストックヤードが潜んでいる(配置図参照)。

 それを回避するにはZARA(INDITEX)のようにストックヤードを一切持たないスルー型の物流プロセスを組むしかないが、低価格単品を大量生産して継続販売するユニクロにはハードルが高い。

 ZARAではDC(トランスファー型だが物流加工も行う)に入る前に店舗発注で行き先が全て決まっているので、自動ソーターで高速振り分けして棚入れされることなく出荷され、世界の全店舗に直送される。ひとまき売り切りだから「補給」という概念がなく、各国にもH&Mのようなストック型のDCは存在しない。ECを展開する49カ国にはECに特化したフルフィルセンターを配しているが、そのストックヤードから店舗在庫が補充されることはないはずだ。

 低価格単品を継続販売するユニクロには大量の「補給」が不可欠で、ホールガーメントなどIoT仕掛けで即時生産するごく一部の商品はともかく、大半の商品は消費地に補給用のDCを置いて“ダム型物流”せざるを得ない。それ故、EC物流との一元化は難しく、有明倉庫はECに特化して自動化するという選択になったと思われる。

それでも残る課題をどう解決するか 

 工場からオリコンで出荷して店舗向け物流もロボティックに自動化しても、補給用DCのストックヤードが解消されるわけではない。海外の生産ラインからIoT化して物流の頻度を高め、補給用ダムの水位を下げていくのが“正解”と思われるが、物流コストの上昇をどう解決するのだろうか。

 ファーストリテイリングにとっては現実的な課題でも、多くのアパレル事業者はそんな物流の“解”を問われる遥か以前で混迷している。有明自動倉庫はそんな格差も痛感させたのではないか。

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