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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『レジレスよりキャッシュレス!』 (2018年05月23日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

「Amazon Go」を契機に中国でも日本でも“無人店舗”が大流行だが、その実態は“無人精算”のレジレス店舗であり、人海戦術のマテハンが残る限り“無人店舗”にはならない。それはともかく、たかが“無人精算”にあれほどのハイテク装備が必要なのだろうか。

無人精算の3つのメリット

 “無人店舗”には遠いにしても“無人精算”には多大なメリットがある。それは以下の3点だ。

1)レジ作業を無くして人時量(=人件費)を圧縮できる

 レジ作業人時の圧縮だけならセルフレジ、とりわけ顧客の作業負担の軽いスマートセルフレジで十分だが、店頭の一等地を占拠するレジ列は圧縮できず、かえってスペースを食う事例も見られる。

2)店頭の一等地を占めるレジ列を無くすか圧縮できる

 セルフレジではレジ要員は削減できても店頭のレジスペースは圧縮できないが(かえって肥大するケースも見られる)、スマートセルフレジをカートに乗せたスマートカートなら無くせるし、画像認識AIとスマートゲートの組み合わせでも無くせる。それでもスマートゲート列と顧客が袋詰めするスペースは残ってしまうが……

3)顧客のレジ待ちを解消できる

 セルフレジではRFIDタグを一括読み取りして自動で袋詰めまでしてくれないとかえって手間取りかねないが、スマートカートやスマートゲートならスイスイ流せる。でも、どこで袋詰めするのだろうか。ローソンの自動袋詰めセルフレジ「レジロボ」はRFID対応すれば化けるかも……

キャッシュレスこそ究極の狙い

 無人精算のメリットも小さくないが、もっと抜本的に店舗運営を効率化する方法がある。それは現金扱いを一切、止めてしまうことだ。

 現金扱いを止めればセルフレジの構造も格段に簡単になって投資も軽くなり、精算のスピードも格段に速くなる。加えて、閉店後の現金精算が不要になって残業が減り、現金保管や釣り銭の用意、現金輸送や警備も不要になる。

 いいことずくめのキャッシュレス化だが、それを実現するのに「Amazon Go」みたいなハイテク重装備が必要なのだろうか。画像認識とセンサーを駆使したAIで購入を検知してスマホでID決済する必要があるとは思えない。それはRFIDタグとスマートカートやスマートゲートを組み合わせてモバイル決済するのも同様だ。

スマホ決済のハイテク装備は不要かも

 キャッシュレスに無人決済するだけならセルフレジと交通系や流通系のICカードやデビットカードを組み合わせれば十分で、ハイテク装備はいらない。この際、手数料率の高いクレカも止めてしまおう。あえてハイテク装備をするのはスマホ決済と画像認識によるビッグデータ入手を目論むからで、ならば「Amazon Go」のようにICタグとPOSマーケティングを否定すべきだ(ICタグを使っておらずスマートゲートではない)。

 中国がモバイル決済一辺倒になったのはオンラインの第三者決済(Alipay/WeChatPay)からオフラインの店頭決済に広がったからで、スウェーデンの場合はATM網維持など現金扱いのコストに苦しむ銀行業界が銀行口座と紐付けてID決済する必要があったからだ。無人精算とキャッシュレス化という運営効率化が目的なら、モバイル決済を前提にする必要はないのではないか。

 業界のトレンドにあおられて過大なハイテク投資に走っては、明日にでも登場するお手軽なキャッシュレス無人精算システムに切り替えられず、泣きを見るリスクが指摘される。

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