小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年03月05日付)
『ECも店舗販売と同じ虚構に堕ちるのか』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 店舗販売では本部と店舗の待遇格差が広がり、せっかくファッション業界に入ったのに『いつかは企画に』『いつかはプレスに』と夢見ながら店舗で朽ちていく若者が少なくないのが現実で、ロープレコンテストの乱立は業界ぐるみでそんな虚構を維持せんとする悪足掻きにしか見えない。本当に販売専門職を確立しようと誠実に動くなら、ロープレコンテストでなくフィッティングコンテストに注力すべきだ。
 買上率や客単価を左右するのはおもてなしでもお愛想でもなく、顧客の要望を正確に受け止めるエントリー能力、商品の特性と顧客の特性をマッチさせるフィッティング能力に他ならない
 エントリー能力は顧客が求める商品やサービスを素早く確実に掴んで応える能力だが、商品情報も購入者評価も在庫検索もECフロントに依存せざるを得ないから、その多くは近々にAIに取って代わられてしまう。顧客の体型やサイズも画像認識やビッグデータでAIが捉えるとしても、商品毎にデリケートに異なるデザインと物性(張りや落ち、伸縮など素材とパターンの折り合いで決まる)、顧客毎にメンタルに異なるフィットや崩しの好みをマッチングさせるフィッティングスキルはALEXAやSiriはもちろんワトソンにもご無理でしょう。ゆえに接客術ではなくフィッティングスキルを極めるのが販売職の未来を切り開く鍵だと思う。
 それはさておき、低迷する店舗販売に代わる救世主として各社が注力するECだが、ここでも店舗販売と似たような格差と収奪の虚構が目に付くようになった。
 ECの販売現場?を支えるのは「Webコーダー」という職種で、HTMLやCSSなどWeb標準言語を使ってコーディングし、新商品を掲載したり写真やコピーを差し替えたり、時には細かい配置替えも手がける、店舗なら接客や陳列・編集を担う「販売員」そのものだと思うが、両者は待遇も似ている。Web標準言語のスキルやSEO知識を持っていると言っても年収は300万円台止まりで、業務の性格上、店舗販売より格段に残業も多い。
 ECサイトを構築するには何らかの基本パッケージをベースにWebディレクターが構成を組み、Webデザイナーがビジュアルをデザインし、システムエンジニアがプログラムのシナリオを書いてプログラマーが細かく描き上げていく。何だかアニメの製作体制みたいに聞こえるが、ブランドディレクターが方針を決めてMDを組み、デザイナーが商品を企画してパターンナーと生産管理が生産仕様書に仕上げ、縫製工場が生産するみたいな分業になっている。Webコーダーは出来上がったサイトにささげデータを載せて運用していく役割と位置付けられるから、やはり販売員に近い。
 店舗販売員はファッションビジネスの最前線を支えているのに虚構に操られ低報酬を強いられる構図を否めないが、希望の星たるECの現場を支えるWebコーダーも『いつかはWebデザイナーに』『いつかはWebディレクターに』という虚構?に操られ長時間労働と低報酬を強いられているのかも知れない。ならばアナログな店舗販売と現場の実態は何も変わらないではないか。
 ファッション販売の希望の星としてEC拡大が競われる昨今だが、効率化されるのはフロントと決済だけで物流(DC運営とりわけピッキングと宅配)は泥沼化しているし、ネット販売職?たるWebコーダーの待遇は低位に留まりキャリアコースも描かれないままだ。このままではECでも店舗販売と大差ない格差と収奪の虚構が形成されてしまう。ECがファッション販売の中核を担おうとする中、このままでよいのだろうか・・・・・

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