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ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは』
(2024年10月16日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 この夏は前年に続く記録的な猛暑で9月も彼岸中盤(21日)まで真夏日が続いたが、それを好機に売上を伸ばした百貨店衣料品やユニクロに対し、チェーンストア衣料品は逆に夏期の売上が落ち込んだ。いったい何が明暗を分けたのだろうか。

 

■チェーンストア衣料品は温暖化に遅れた

 23年(22年9月〜23年8月)、24年(23年9月〜24年8月)と続いた秋口の残暑と暖冬、長く暑い夏で衣料品の売上はどう変わったのか。10年前の14年(13年9月〜14年8月)からの変化を検証してみたら、チェーンストア衣料品の対応の遅れが顕になった。

 百貨店衣料品の14年の売上季節指数は冬期(27.04%)、春期(26.19%)、秋期(25.14%)、夏期(21.63%)の順で、秋冬期52.18%対春夏期47.82%と秋冬とりわけ冬期に偏っていた。単価の高い防寒アウターが冬期の売上を稼ぎ、単価が下がる夏期は売上の水位も下がるという構図が定着していた。

 温暖化が急進した23年では冬期が25.94Pと1.10Pも低下して0.17Pの低下にとどまった春期(26.02%)に抜かれ、25.14%と動かなかった秋期が続き、夏期は1.27Pも上昇したが22.90%と最下位は変わらなかった。温暖化が継続した24年では、わずかに0.10P回復した冬期が26.04%と、0.01Pの伸びにとどまった春期(26.03%)を僅差で逆転し、0.15P低下した秋期(24.99%)が続き、夏期はさらに0.04P上昇しても22.94%と最下位は動かなかった。とは言っても、14年からは夏期が1.31Pも上昇して冬期が1.00P低下し、秋冬期51.03%対春夏期48.97%と1.15Pも動いているから、温暖化の影響は顕著だった。

 

 より変化が顕著だったのが国内ユニクロだ。14年は11月下旬の創業祭売上が大きい秋期(29.13%)が最も高く、防寒アウターやヒートテックが強い冬期(27.54%)が続き、春期(22.90%)、夏期(20.42%)の順で、秋冬期56.68%対春夏期43.32%という極端な秋冬偏重だった。

23年は秋期が残暑もあって27.06%と2.07Pも落ち込み、防寒アウターが後ろ倒しされた冬期が28.55%と1.01P上昇して首位になり、コロナ明けで1.20Pも上昇した春期が24.10%と続き、夏期は0.13P低下して20.29%とさらにシェアを落としているから、暑く長い夏にMD展開が対応できなかったのではないか。

24年はさらに0.85P落ちても26.21%と秋期が最も高く、2.76Pも落ちた冬期が25.79%で続き、さらに1.30P上昇した春期が25.40%で続き、夏期は2.31Pも急上昇しても22.60%と最下位は変わらなかった。14年から夏期は2.18P、春期は2.50Pも上昇して秋期は2.92P、冬期は1.75Pも低下し、秋冬期52.00%対春夏期48.00%とシーズンバランスは4.68Pも動いている。23年5月のコロナ明けや24年5月以降の消費好転という消費環境の変化も大きいとは言え、政策的にMD展開と予算(調達と売上)を春夏シフトしなければここまで大きくは動かない。

 

ユニクロと真逆に、ほとんど変化しなかったのがチェーンストア衣料品だ。14年は百貨店衣料品と同じく冬期(26.09%)、春期(25.34%)、秋期(24.86%)、夏期(23.71%)の順で、秋冬期50.95%対春夏期49.05%とやや秋冬に偏っていたが、普段着の比重が高く単価の高い防寒アウターが弱い分、百貨店衣料品より平準化していた。

 23年はコロナ明けで春期が26.89%と1.55Pも上昇し、暖冬で0.85P低下した冬期(25.24%)を抜いて首位となり、猛暑で0.84P上昇した夏期が24.55%と、残暑で1.53Pも落とした秋期(23.33%)を抜いて3位に浮上した。

24年は1.00P回復した冬期(26.24%)が1.46P反落した春期(25.43%)を抜き返し、1.58P回復した秋期(24.91%)が続き、1.13Pも反落した夏期(23.42%)が再び最下位に落ちた。ユニクロや百貨店衣料品とは逆に元に戻ってしまい、14年からは冬期が0.15P、秋期が0.05P上昇して夏期は0.29Pも低下し、秋冬期51.15%対春夏期48.85%と春夏期が0.20P低下している。

残暑や暖冬、夏場の亜熱帯化という気候の現実に逆行する不自然な推移であり、百貨店衣料品のような晩夏企画の拡充やユニクロのような政策的な春夏シフトを欠いた受身の対応が推察される。

 

■残暑と暖冬、暑く長い夏へのMD対応

 衣料品のMD展開を「残暑と暖冬」「暑く長い夏」という気候変化に対応するには、まず外衣(アパレル)と下着(インナーとナイティ)に分けて考える必要がある。アパレルの売上が低下する夏場は下着の売上が高まるから、「暑く長い夏」には両者の予算配分を変えるのが確実で、アパレルの中でもブラトップやキャミソール、ホットパンツなどインナーに近いアイテムを拡充するべきだ。ユニクロがどうしたのか数値的な検証はできないが、店頭のMDやキャンペーンを見る限り、そのような対応が行われたと推察される。

 アパレルの「暑く長い夏」対応は接触冷感や吸汗速乾、汗染み防止やUVカットなど機能性の合繊使いや機能加工が広がり、アウトドア系のストアではファン付きの空調服(バッテリーまで合わせると結構な値段になるし重い!)も目立ったが、いくつか課題も指摘される。機能性の合繊使いや機能加工は、ペロブスカイト構造など新物質が加わったりペルチェ素子とファンを組み合わせたりと今後も広がっていくと思われるが、大半は既存のアイテムに機能を加えただけで、デザインやパターン、素材・色柄の「亜熱帯」対応は遅れている。セレクトショップなどではインド綿やバティックプリントの「亜熱帯」風晩夏企画、バルーンシルエットやワイドシルエットの通気性アイテムも見られるが、チェーンストア衣料品では限られる。

夏場の「亜熱帯」対応に加え、「残暑」対応は晩夏・初秋企画の拡充と秋物企画の圧縮、「暖冬」対応は防寒アウターの軽量化と梅春インナー(起毛性軽量春色ニット/カット)の拡充が基本だが、実施するには年間の季節MD展開と予算編成から組み直す必要がある。それ無くしての個別企画対応では品揃えのバラエティや奥行きが確保できないから、売上の季節バランスを動かすほどのパワーにはならない。

 

 アパレル業界(婦人服)の慣習的MDは春期、初夏期、夏期、秋期、冬期、梅春期の6期が基本だったが、近年は気候とライフスタイル、消費とウエアリングの変化で変革が迫られている。

春夏期は温暖化とトレンド先取りで初夏期が前倒されて春期が短くなり、GWに前後して夏期商品も投入が一巡してしまう。5月末以降は夏の通勤着や梅雨アイテム(意外と数字を稼ぐ)、リゾートアイテムを除けば新規企画の投入が限られて陳腐化し、EC先行で値崩れが始まって6月中旬からはプレセール状態になってしまうのが近年の実情だったから、猛暑がなくても晩夏企画は必定だった。

秋冬期は残暑で秋物の販売期間が極端に短くなったから、9月は晩夏・初秋企画で繋ぎ、秋物はひと蒔きの羽織アイテムやトップス、継続できるボトムに限定して梳毛ニットを抑制するのが一般的だが、定番を継続販売するユニクロは梳毛ニットを逃げていない。10月下旬から冬物をひと蒔き(2次投入はしない)で投入し、11月下旬には梅春物(軽量春色防寒アウター/インナーやXマス企画)に切り替えて年明けのセールまで引っ張るのが今時の「正解」と思われる。かつては11月下旬に冬物アウターの値頃二次投入が行われていたが、暖冬が続いて需要が減退し、春トレンドの前倒しで軽量春色の梅春防寒アウターに需要が移っていった。

 そんな変化がMD展開ストーリーと調達予算/売上予算にオーソライズされているか否かが、変わっていく季節進行に対応する要ではなかろうか。

 

■軽量化・機能化・イージーケア・イージーフィットという「革命」

 売上の季節バランスを変えているのは温暖化だけではない。防寒アウターに限らず、全てのアイテムで「軽量化」「機能化」「イージーケア」「イージーフィット」が進行し、価格とウエアリングが大きく変化している。

 かつてのチェーンストアの商品開発は「トレードオフ※」が基本で、見た目は維持したまま素材を落としたりパターンや縫製を簡略化してコストを落とすことが常套化していたから、合繊使い(合繊混も含む)の軽量アイテムは「ペナペナの安物」と見られがちだが、今時の軽量アイテムは「軽量化」「機能化」「イージーケア」「イージーフィット」を志向したもので、トレードオフを志向したものではない。防寒アウターなどは旧来のウールコートなどとは異次元の機能アイテムとなって、価格も手頃になることが多く、平均単価が下がって冬場の売上が下がる一因ともなっているが、価格を落とすことが主目的ではない。

 今時、重くて嵩張る割に暖かさがイマイチで、着心地も硬く着回しも限られ、家庭での洗濯も難しいウールコートやゴム引き綿コート(通気性なく蒸れる)、ムッシュ・ビバンダムのように膨らんだダウンコートを好む人は極めて稀だ。トレンド返りで古いウールコートや綿コートに袖を通してみても、重さと硬さ、融通の効かないフィットに腰が引けてしまう。

 イトーヨーカ堂はカジュアル平場をアダストリアが商品供給する「ファウンドグッド」にバトンタッチしたが、メーカーとタイアップした旧来のイトーヨーカ堂のPB衣料と比較して「頼りないほどペナペナ」という印象を受けた業界人も少なくなかったと思う。だが、それは価格を下げるためのトレードオフというより、今時の子育て世代(同時に多忙な働き盛りでもある)の求めるスペックに応えたもので、「軽量化」「機能化」「イージーケア」「イージーフィット」を追求した商品と見るべきだ。

 近年のユニクロの商品も「素材が薄く(軽く)頼りなくなった」という声も聞くが、トレードオフでコストを落としたのではなく「軽量化」「機能化」「イージーケア」「イージーフィット」を追求した結果であり、「ユニクロC」などグローバルに通ずる軽快なイージーフィットがジェンダーの際を超えて支持されている。

「軽量化」「機能化」「イージーケア」「イージーフィット」はスポーツウエアで先行し、カジュアルに波及して「アスレジャー※」の奔流となり、今やビジネスウエアやタウンウエアまで波及している。アクティブスーツ※の登場(2018年)から2023年で紳士既製スーツから180万着がアクティブスーツに移行し、ユニクロやグローバルワークなどカジュアルチェーンや量販店の低価格品まで合わせれば330万着を超えたと推計されるから、まさしく「革命」だった。

「軽量化」「機能化」「イージーケア」「イージーフィット」は女性の労働力化と男女分担の崩壊、温暖化と都市環境の変化など様々な要因がもたらしたもので、加速することはあっても後戻りすることはない。合成繊維(再生繊維も含む)のみならず天然繊維も紡績や加工の技術革新で「軽量化」「機能化」「イージーケア」が進み、着崩しやジェンダーレス化に対応して服の構造とパターンもフレキシブルになっていく。

 この革命に乗り遅れれば、現役世代(X〜Y〜Z)を取り込めず、温暖化する四季のウエアリングにも対応できず、マーケットのシェアを失っていく。チェーンストア衣料品はテクニカルな「温暖化」対応を超え、ライフスタイルとウエアリングの革命に抜本から応えるべきではないか。

 

※トレードオフ・・・・何かを得るために何かを犠牲にすることを言う。

※アスレジャー(Athleisure)・・・・アスレチック(運動競技)とレジャー(余暇)を組み合わせた米国の造語で、スポーツウエアの機能性とレジャーウエアの開放感を日常のカジュアルに取り込んだライフスタイルやウエアリングを言う。

※アクティブスーツ・・・・合繊素材の機能性イージーケア軽量セットアップで、縫製工程はトラックスーツ(ジャージのセットアップ)と大差ない。24年は接触冷感フルストレッチ(通称アイスシルク)のセットアップもヒットした

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