小島健輔の最新論文

マネー現代
『アパレル業界で話題騒然!
いまどき客が殺到する「オフプライスストア」は本当に“救世主”なのか?』
(2021年03月27日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

「オフプライスストア」はアパレル業界の救世主か

米国では首位のTJX、二位のロス・ストアーズ、三位のバーリントン・ストアーズに四位のノードストロム・ラック(ノードストロム百貨店のオフプライス部門)を加えた上位4社だけで7300余店もあって702億ドル(約7兆6000億円)を売り上げ、全米デパート総売上1350億ドルを追い上げるオフプライスストアだが(いずれもコロナ前の20年1月期)、わが国ではようやく展開が始まったばかりだ。

ゲオの子会社ゲオクリアが19年4月25日に横浜の港北に開業した「ラックラック・クリアランスマーケット」1号店(427坪)が皮切りで、同年9月14日にはワールドとゴードン・ブラザーズ・ジャパンの合弁会社アンドブリッジが埼玉の西大宮に「アンドブリッジ」1号店(300坪)を開設。規模の大小はあるものの、在庫処分業者やディスカウントストアもオフプライスストアに進出している。

「ラックラック・クリアランスマーケット」は3月26日開店のミーナ津田沼店(155坪)で期間限定店舗も含めようやく10店、「アンドブリッジ」は3月13日に開店したニューポートひたちなか店(400坪)が期間限定店舗も含めて5号店になるなど、まだまだ実験段階で出店立地や規模も定まっておらず、販売効率も期待通りとは言い難い

 

じつは「販売効率が低い」二つの要因

『販売効率が低い』というのは類似立地のフルプライス店舗(一般の「定価」販売店)と比較しての話で、店舗規模にもよるがフルプライス店の半分から高くても7掛けほどにとどまっている。最も上手く行っている「アンドブリッジ」でも年間坪あたり100万円程度だから、他は推して知るべしだ。

ブランド直販のアウトレットストアが類似立地フルプライス店の平均5割り増しを売っているのと比べれば、同じ値引き処分店なのにオフプライスストアは販売効率が低く、アウトレットストアの半分にも届かない。米国のオフプライスストアはアウトレットストアと大差なく、フルプライス百貨店より平均5割ほど販売効率が高いのに、日本のオフプライスストアはどうして販売効率が低いのだろうか。

大幅値引きが売り物のオフプライスストアはフルプライス店より絶対売れそうに思われるが、実は二つの落とし穴がある。

ひとつは、数を売っても単価が低いため販売効率を稼ぎにくいことだ。

もっとも上手く行っている「アンドブリッジ」にしても、知名度のある百貨店・専門店ブランドの放出品を揃えても、平均7割引では客単価は5000〜6000円、雑貨も含めた商品単価は2500円程度にとどまる。月坪10万円売るのに元「正価」で70万円近い坪在庫を積まねばならならず、それ以上売れると小人数運営では搬入陳列作業が追いつかなくなる。

もうひとつは、補充の効かないオフプライスストアでは人気品が売れてしまえば魅力のない残品ばかりになり、売上が止まってしまうことだ。

売りやすい商品、売りにくい商品の「4類型」

フルプライス流通からあぶれてオフプライスストアに流れてくる商品は、ブランドのテイストやクラスを問わず、販売の難易度は4ランクに分けられる。

最も売り易いのは1)商品に問題はないが過剰供給だったり価格(正価)が割高で売れ残った商品で、今シーズン品なら値引きすれば容易に売れる。

次に売り易いのが2)同様なキャリー商品(前シーズン品、または前々シーズン品)で、これも大幅に値引きすれば売れる。

難しいのが3)極端にトレンドを外したりオーバーデザインで顧客が限られる商品で、セルフ販売のオフプライスストアでは大幅に値引きしても売れ残ることが多い。

どうにもならないのが4)企画ミスや生産ミスによる不適合商品(素材や縫製に破綻がある不良品ではない)で、パターンに無理があって着にくかったり、デザインと素材がミスマッチで着る場所がないなど、どうしてこんな商品を作ってしまったのかと訝られる。

在庫処分業者のオフプライスストアでは3)や4)も見られる。普通には売りようがない商品だが、持ち込まれる処分在庫を選ばずまとめて買い取るため、そんな商品も紛れ込んでしまうのだ。

4)でも300円とか500円とか破格の均一価格にすると、部屋着とかリメイク材料として買っていくお客もいるから、なんとかはけるのだろう。売り易い1)や2)を揃え、売れただけ補充できれば販売効率を稼げるが、都合よく処分品が放出されないのがオフプライスストアのネックで補充が効かず、売れる商品が途切れてしまえば当然に売上は落ちる。放出される処分品を受け身で揃えるだけのオフプライスストアでは売上は稼げないのだ。

「品揃え計画」と「調達力」がキーになる!

売れるオフプライスストアの条件は『季節の必要アイテムが欲しいブランド/欲しい価格で揃っていること』に尽きる。激安品の「宝探し」と言っても不要なアイテムが売れるわけがない。

オフプライスストアには根本から目的が違う二タイプがある。ひとつは著名ブランドを割引訴求する「ブランドディスカウント型」、ひとつはブランドを問わずアイテム毎の絶対低価格を訴求する「激安プライスライン型」だ。

前者では知名度のあるブランドが揃うこと、後者では絶対的な低価格(しまむらの半額以下)が大前提で、その上で季節の品揃えが問われる。わが国で前者を代表するのがワールドの「アンドブリッジ」、後者を代表するのが東京圏の郊外に展開する「タカハシ」だ。

米国でも日本でもオフプライスストアの季節品揃えは「売り切り」販売消化に無理のない8週または2ヶ月サイクルで組まれることが多く、在庫回転も米国の大手オフプライスチェーンは年間6回前後と季節在庫を上手く消化している

ユニクロのような定番商品を継続販売するアパレルチェーンではアイテムによって3ヶ月と6ヶ月の販売期間を組み合わせ、在庫回転も年間3〜4回に着地するが、補充の効かないオフプライスストアは「売り切り」を前提に6シーズンで品揃え計画を組むのが現実的だ。

その季節毎に適切なアイテムが必要量揃うかどうか、「品揃え計画の精度」と「調達力」が問われる。品揃え計画が適切なものであれば、販売効率は調達の実現率にほぼスライドする。

品揃え計画に基づいて放出在庫から選択的に調達するわけだから、前述した商品のランクは当然に1)、2)に絞られるが、「ブランドディスカウント型」の著名ブランドについては3)も容認されることが多い。

※「タカハシ」・・・関東の郊外圏に平均160坪の41店舗(計7065坪)を布陣して87億円を売り上げる(20年8月期)エッセンシャルな激安プライスライン型オフプライスストア。

放出品では足りず品揃え計画の実現度が低位に留まるなら、ブランドメーカーと掛け合って余剰になりそうな今シーズン在庫を別注品番化して放出してもらったり、互いにメリットがあるようなら企画段階から別注して今シーズン在庫を確保するようになる。

数百数千の店舗を展開する米国の大手オフプライスチェーンではブランドとタイアップした計画調達品が不可欠で、オンシーズンの鮮度を確保するためにも(放出品は大半がキャリー品)タイアップ調達品の比率を高めざるを得ない。

自社ブランドの過剰在庫や売れ残り在庫を処分するアウトレットストアの販売効率が高いのは、不足する品揃えを自社で開発したアウトレット専用品で補完するからで、オフプライスストアがアウトレットストア並みの販売効率を求めれば必然的に計画調達品が増えていく。米国の最大手TJXではオンシーズンの計画調達品が4割を超えると見られる。

開発に手間取れば「黒船」が上陸する

オフプライスストアの販売効率を左右するのは「品揃え計画」の精度と「適品」の調達力であり、売り切って粗利益率を高めるには「編集陳列」のスキルも不可欠だ。そのどれが欠けても採算ラインには乗らないから、フルプライス流通からあぶれた放出品を引き受けるだけのオフプライスストアが続くはずもない。消費者にとってもそんなオフプライスストアは魅力がなく、日常消費に定着するとは思えない。

過剰在庫が溢れるとは言え、日本のオフプライスストアはまだ黎明期で品揃えと調達のスキルが伴っておらず、米国のように百貨店を脅かすほどメジャーになるのは何年も先になりそうだ。国内のオフプライス事業者が魅力的なストアの開発に手間取るようなら、ノウハウを確立した米国の大手オフプライスストアという「黒船」の進出を招きかねない。そうなっても対抗できそうなのは「アンドブリッジ」ぐらいで、ワールドがグローバルなオフプライス商品調達に突出したゴードンブラザーズとタッグを組んだのは大正解だったのではないか。

 

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