小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2019年01月15日付)
『ストリートに追いついたピッティ?』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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apparel-web.com <http://apparel-web.com> のサイトより

 

 毎シーズン、ピッティが始まると決まって発信されるのがダンディなテーラリングスタイルに身を包んだ男たちが並ぶシーンだが、今年は様子が違っていた。いつもはパーソナルオーダーかと思うほど細部までピッタリ身に沿うボディコンなフィットだったのに、今シーズンはジャケットもパンツも緩く“抜けた”トーキョー風に一変していたのだ。
 イタロファッションを代表する合同展示会のピッティ・ウォモは長年にわたって世界のメンズファッションをリードしてきたが、近年は変化に取り残されてマーケットを後追いすることが多くなっていた。その典型が、イージーケアな合繊系機能素材の活用や“抜けた”緩いフィットへの転換の遅れだろう。
 生活と生計に追われオシャレより機能性を重視せざるを得ない今日の生活者たちにとって、創る側の論理にこだわって価格を上げ使い勝手を悪くするギョーカイ側の頑迷さはうざいだけで、もはや憧れも崇拝も過去のものとなった。古典的なこだわりを捨てて緩く作られたイージーケアで手頃な服が死文化したTPOを駆逐し(アスレジャーなんてマイルドヤンキーそのものだ)、使い手主導の“ウエアリングトレンド”がギョーカイの先を行っている。
 00年のブロードバンド革命、08年のスマホ台頭(iPhone 3G)を経て非対称なファッションシステムが崩れトレンドの主導権が使い手側に移行したにもかかわらず、ギョーカイはファッションシステムの幻想を追い続け、過剰供給と叩き売りの悪循環に陥った。それは我が国だけでなく、米国も欧州も大差なかったようだ。
 使い手側の“ウエアリングトレンド”がギョーカイの先を行くというファッションシステムの崩壊は14年頃から広がった“ノームコア”で広く認識され、欧米ギョーカイはマーケットにグリコして過剰なクリエイション競争から後退していった。問題はその後で、使い手のウエアリングが“ノームコア”から“エフォートレス”“抜け”“アスレジャー”と加速度的に進化したにもかかわらず、ギョーカイの大半はついていけなかった。
 着流しなキモノ文化が密かに通底する日本と韓国のストリートがウエアリングの最先端をリードし、日本や韓国、台湾のストリートブランドが精彩を放っているが、テーラリング/オートクチュールのボディコン文化(恐らくはそれ以前からの性的文化が通底)を抜けきれない欧米ギョーカイは著しく出遅れた。ピッティ・ウォモがイージーケアな機能素材に対応したのは我が国に2年遅れ、ゆる抜けフィットに対応したのは3年以上遅れたのではないか。
 今のウエアリングトレンドをリードしているのはパリでもミラノでもロンドンでもNYでもない。恐らくはキモノ文化の残滓がどこかに残るアジアの若者が闊歩するトーキョーハラジュクのスニーカー通り(九重通り)かSEOULの弘大か明洞・東大門あたりが最先端だと思う。

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