小島健輔の最新論文

販売革新2018年05月号掲載
『優等生の安全運転が追い詰めた「しまむら」
  旧弊を絶って新たなプラットフォームへ』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング 代表取締役

 しまむらの18年2月期決算が発表されたが、期初の予想から幾度も下方修正して全社売上は0.1%減の5651億円、主力業態の「しまむら」も98.7と09年2月期以来の前年割れとなった。営業利益も12.1%減の429億円に落ち込んで2月21日付けで社長が交代する事態となったが、販売不振に至った内外の事情を考察してみた。

 

■管理精度で利益を稼ぐ「安全運転」の弊害

 まずは何処で売上を落としたかだが、全社売上の8割近くを占める「しまむら」が既存店比97.0と苦戦した事が大きい。「アベイル」も同98.8と伸び悩んだが、全社売上に占める比率は9.0%と影響は限られる。では「しまむら」は何処で落としたかだが、第1四半期(3〜5月)の95.3、第3四半期(9〜11月)の93.5が痛かった。第1四半期では3月が92.5、第3四半期では11月が89.0と落ち込みが大きかった。

 しまむらの締め日は毎月20日で立地特性ゆえ衣料品の売上は実需期に集中するから、第1四半期(〜5月20日)が春物、第二四半期(〜8月20日)が夏物、第3四半期(〜11月20日)が秋物、第4四半期(〜2月20日)が冬物にほぼ見合う。都心立地の季節感覚とはズレるが、しまむらの現実に見合っている。「しまむら」の11月が89.0と大きく落ち込んだ要因は過去の経験則とは異なる早期の冷え込みだったと容易に推察されるが(11月の全国百貨店婦人服の月指数は前年より4.3%上振れている)、もとより秋期の売上比重が衣料消費の実態から掛け離れて高すぎた(冬期が低すぎた)ことも指摘される。

 業態別の月度売上を掴めれば月指数の流れが解るが、しまむらは四半期単位の全社売上しか実額を公表しておらず、四半期売上シェアの推移から推察するしかない。第1四半期の売上シェアは24.4%と17年2月期から0.4ポイント落としているが、16年2月期までの5期間平均の23.7%よりは0.7ポイント上回る。第3四半期は25.3%と同0.8ポイント落としているが、5期間平均の25.4とは大差ない。長期に見ても、しまむらの売上は季節変化に乏しく大きく振れる事もない。近年では好調だった12年2月期(売上前比106.0)の第4四半期が26.8%、16年2月期(同106.7)の第3四半期が26.2%と振れたのが目立つぐらいだ。

 同期間の全国百貨店衣料品の四半期売上(末締め)と比較すれば、春期が1.3ポイント、冬期が2.0ポイント低く、夏期が3.5ポイントも高く、秋期は大差ない。夏期の高さは肌着が24.3%も占めることも要因と思われる。ライバルとされる「ユニクロ」と比べれば、春期は0.6ポイント、夏期は6.5ポイントも上回るが、冬期は2.5ポイント、秋期は4.6ポイントも下回る。「ユニクロ」はダウンアウターやフリース、ヒートテックといった防寒アイテムに強く夏商材に弱いが、しまむらは肌着中心に夏商材に偏り、防寒アイテムが弱い。そこを秋の早い冷え込みと48年振りという厳しい冬の寒さに突かれたのが大きな敗因だったのではないか。 

 そんな天候変異がなかったとしても、春夏秋冬が異様に平準化したしまむらの売上は実需に即したものとは言い難い。運営人時量や物流量を安定させ値引きロスを抑制する効果は評価されるが、過去の経験則を外さない管理精度が変化への対応を緩慢にし、チャンスに乗れずリスクを回避出来ないという結果を招いた事は否めない。

 しまむらは販売不振の原因として品番数と在庫の絞り込みを挙げているが、それは運用精度の問題であって、チャンスとリスクに積極的に向き合う商品戦略に較べれば桁が違う話だ。春のフレッシャーやオケイジョン、スプリングコート、夏のリゾート雑貨や水着、秋のカジビジや旅行着、冬の防寒アウターや梅春ニット、クリスマスやバレンタインなどイベント対応を強めれば、管理精度は落ちる(ロス率が高まる)かも知れないが、もっとメリハリのある売上が取れるはずだ。

 しまむらは売上も在庫も平準化する事によってスムースな消化回転を図り、人件費や物流費など運営コストを抑制してきた。しかし、季節の推移や消費には変化はつきもので、変化に対応すれば売上は伸びるが在庫管理や経費管理の精度は落ちる。『変化への対応を最小限に抑えて管理精度で利益を稼ぐ』というマネジメント理念がしまむらの経営を安定させる一方、成長を阻害して来たことは疑う余地もない。それが露呈したのが前期だったのではないか。

 今期立ち上げの3月も「しまむら」が既存店94.4/全店96.5、「アベイル」が既存店88.8/全店92.5と厳しいが、決算会見での『レディスアウターの品揃えを拡げる』という北島新社長の発言は手応えを感じさせる。

 

■カテゴリー構成も変わっていない

 図2は07年2月期から18年2月期までの「しまむら」のカテゴリー構成を追ってみたものだが、この間の消費の変化を無視するがごとく、ほとんど変わっていない。インテリアが1.4ポイント、靴が0.7ポイント、婦人衣料が2ポイント弱増えてその分、洋品小物が2.3ポイント、ベビー・子供服が1ポイント、寝装具が多少減っただけだ。

 この間の家計消費におけるカテゴリー別の消長と比較すれば衣料品を圧縮して服飾雑貨を増やすべきだったが、むしろ逆行している。伸び頭の化粧品さえ17年春からようやくプチプラコスメをワンラック程度で展開し始めたばかりで、部門扱いにもなっていない。百貨店さえこの間、遅ればせながら衣料品を圧縮して服飾雑貨や化粧品を拡大して来たのだから、しまむらは変化への対応をかたくなに拒んで来たと言わざるを得ない。

 「米国のしまむら」と言いたくなるほど立地や客層が似ている「Kohls」(大衆デパートに分類される)は店舗規模こそ二千坪級と「しまむら」の6倍強だが、肌着も含んで衣料品が63%としまむらの72.9%(18年2月期)、ホーム関連も19%としまむらの15.7%(同)に近い。違いが指摘されるのが服飾雑貨の9%(しまむらは6.8%)と靴の9%(同4.5%)だが、アニュアルレポートでは分類が不明の化粧品は「LORAC」や「NYX」など人気NBも多数揃えたセフォラ感覚の大きな売場を構え、アクセサリージュエリー売場では3ドルのスパンコールから1万2000ドルのエンゲージリングまで扱っている。伸び頭はもちろん化粧品だが、儲け頭はもしかしてジュエリーかも知れない。

 品番数だ在庫水準だと管理精度を追求するより、伸びるカテゴリーの拡充を急ぐべきではないか。

 

■金太郎飴なCMIのままでよいのか

 しまむらにはもう一つ、盲点が危惧される。それはローカルなエスニック(顧客タイプ)対応に目を瞑った金太郎飴なCMIだ。

 しまむらのチャレンジは若いシマラーを狙ったプチプラなものばかりで、顧客の大多数を占めるミッシー〜ミセス層に対しては変化を躊躇して来た。共稼ぎで労働者化するミッシー層の通勤スタイルはブルゾン軸のカジビジかマンパ軸のアスレジャーと化す一方、プライベートシーンでは逆にナチュラルレイヤードに振れている。ミセス層とてストレッチパンツを脱して幾つかの個性的な方向に分散している。まさか「おばさん」と十把一絡げに見てはいないだろうが、若い娘以上に個性化している現実に目を瞑るべきではない。マーケットは業界の仕掛ける画一的なトレンドを脱して多様化しており、世代やライフスタイル、地域の生活文化によってきめ細かくローカル対応する必要に迫られている。

 金太郎飴的標準化とCMIで運用精度を極めて来たしまむらも、ここへ来て地域特性に応じた個店対応にトライし始めているが、エスニックマーケティングが常識の米国チェーンストアではCMIを補完するSMIは常識だ。地域によって人種や宗教の構成が極端に違う米国で金太郎飴なCMIが回るはずもない。外国人観光客どころか日本人とて世代やライフスタイルで人種が違うかと思うほど装いの好みは異なる。北関東と城南・湘南、神戸と阪南など国が違うのかと思うほど売れるものが違う。画一的な品揃えで回っているように見えるのは外れた客層は買っていないからで、後ピンのPOSでは捉えられない少なからぬ売上が失われている。

 主婦パートを戦力化して成功したしまむらなのだから、顧客の顔が見える彼女たちに部分的にでもSMIを担わせ、顧客のニーズに応える醍醐味を楽しんでもらってもよいのではなかろうか。

 

■停滞する多業態戦略

 変化を嫌うように見えても、しまむらは立地を同じくする新業態の開発には積極的だった。「しまむら」が500店に迫った97年にはヤングカジュアルの「アベイル」、00年には雑貨業態の「シャンブル」とベビー・トドラー用品の「バースデイ」、06年には靴の「ディバロ」をスタートしているし、今期は家具・インテリアの大型業態を立ち上げる。

 それらのうち「アベイル」は14年2月期以降、売上が伸び悩む中も出店を続けて313店に達したが18年2月期は「バースデイ」に抜かれ、13年2月期の94.5%に留まる。「バースデイ」は成長を継続して261店に達したが、「シャンブル」は100店を前に店舗数を増やしても売上が伸び悩み、「ディバロ」は16店で足踏みしたまま離陸さえ見えない。12年2月期から「バースデイ」が売上を2.5倍にし、「しまむら」も16.7%伸びたのに、「シャンブル」は4.8%しか伸びていない。

 加えて危惧されるのが粗利益率の急落で、「アベイル」は17年2月期まで4期連続して4.5ポイント、「シャンブル」も同じく4期連続して計10.4ポイントも粗利益率を落としている。この間に「バースデイ」は1.1ポイント、「しまむら」も1.4ポイント粗利益率を伸ばしているから、「アベイル」と「シャンブル」は消化回転がかなり悪化したと推察される。18年2月期は「アベイル」が1.1ポイント、「シャンブル」は一気に6.1ポイントも回復しているが、しまむららしからぬ変動だ。

 「アベイル」はもとより狙いもMD手法も調達手法も壁が見えていた業態で、ECに食われ易いブランド編集も今となってはリスクが大きく、300店ものスケールで動きが取れなくなれば大きなお荷物になってしまう。急速な粗利益率の低下を見る限り「シャンブル」も収益の目処が見えなくなっており、服飾雑貨/インテリア雑貨/文具・趣味雑貨/化粧品の分散したカテゴリーバランスを再編して新たな業態に作り直す必要が指摘される。今後も成長が期待できるのは「バースデイ」だけなのかも知れない。

 

■収益構造は確実に毀損している

 基幹業態の「しまむら」が変化対応力を失い、他業態も「バースデイ」以外は成長が期待できない状況に追い詰められて行ったこの11期間で、しまむらの収益構造はどう変わったのだろうか。

 何より指摘されるべきは販管比率の上昇で、07年2月期の22.6%から18年2月期は26.1%と3.5ポイントも上昇している。ローコスト運営の管理精度で利益を稼ぐしまむらのような企業にとっては屋台骨を揺るがす問題だ。その中身だが、不動産費率が5.7%から6.6%へ0.9ポイント上昇したのは都心出店や商業施設出店が増えたにも拘らず販売効率が伸び悩んだせいだろう。人件費率が10.2%から12.1%へ1.9ポイント嵩んだのは雇用環境の逼迫と運用精度の劣化、現場の技術革新の停滞だと推察される。

 この間、PB比率の拡大とともに振れはあるものの粗利益率は2.6ポイント上昇したが、在庫回転は12.43回から8.05回へとじりじりと低下。10年2月期までは5%弱と三桁四桁店舗展開のアパレルチェーンとしては例外的に低かった値下げロス率も、この間に相当肥大した事は想像に難くない(11年2月期以降は公表しなくなった)。

 成長力を失った業態を無理やり増店し管理精度で損益のバランスをとる経営を続ければ、急激ではなくても茹で蛙的に収益構造は毀損されていく。未だ高収益を保っているかに見えるしまむらの損益は一気に崩れかねない瀬戸際まで追い詰められているのかも知れない。これまで稼いで来たビジネスモデルが行き詰まりつつある以上、管理・運用精度の追求だけでは乗り切れない。安全運転を逸脱した破壊と創造が問われているのではないか。

 

■アパレルの多店化はSPA化しないと利益が出なくなる

 もとより多店化してもSPA化しない社是がある?しまむらだが、どんなに精緻なアルゴリズムで在庫をコントロールし自社ルート便でSKU単位に店間移動しても、在庫の多店舗偏在による機会ロスと処分ロスは店舗数の拡大に比例して肥大していく。それを補って収益性を高めるにはSPA化という選択、あるいはVMIとSMIによる個店対応という選択を避けては通れない。

 問屋流通が確立されたグロサリー食品や工業生産の消費財、一般化粧品やパッケージガーメント(肌着・靴下など)ならVMIが効率的だが、SPAが主流になって問屋流通がマイナーになったアパレルでは問屋機能に依存したディストリビューション(適正配分・補給と物流)は成り立たず、SPA化によって得た差益で自らディストリビューションを仕組み偏在ロスを埋めて行くしか突破口がない。しまむらとて問屋の企画商品をロット調達する擬似SPAではあるが(肌着や靴下、化粧品など一部カテゴリーではVMI的取り組みもあるかも知れない)、素資材背景や生産プロセスにまで踏み込んで調達量やコストをコントロールしている訳ではない。ゆえに売れ筋の量を確保できなかったり、コストを抑えきれなかったりしている。

 問屋機能が生きているカテゴリーではVMIを活用して多店舗への個別最適補給を図り、調達量のパワーで利幅を確保すればよいし、アパレルなど問屋機能が期待できないカテゴリーでは生産プロセスまで踏み込んで製品買い上げ型のSPA体制を確立すればよい(その先までは必要あるまい)。『バラエティとバランスをとりながらPBを拡大する』という新社長の見識は適確だと思う。

 

■EC進出より顧客利便の近隣プラットフォーム

 住宅地至近の近隣立地利便に徹して日用衣料中心に生活者の支持を得て来たしまむらだが、ECが消費の主流となり衣料・服飾のEC比率が13%に迫る中、その役割も見直される必要がある。

 以前にも指摘したように、しまむらのEC進出は1)店舗より運営コストが高くなって収益の目処が立たない、2)一蒔き投入でストックヤードを持たないゆえB2C出荷が困難で商品供給体制も組めない、3)店舗在庫の管理精度が維持出来なくなる、の三点からメリットがない。ゆえに、自らECを手掛けるより、顧客利便に立ってラストワンマイルの受取プラットフォームとなる方が大きなアドバンテージを得られる。受け渡しや修理加工の手数料は増える人件費とツーペイかも知れないが、客層が広がり来店頻度が高まってついで買いが加わり、店舗販売とECの両面を抑えた近隣拠点というアドバンテージは様々な事業機会を拡げる。

 コンビニほどきめ細かい店舗布陣ではないが、コンビニより遥かにスペースの余裕が在り、店舗スタッフの多くがマテハン作業以外はレジカウンターに張り付いており、レジカウンター至近に試着室も集中している。コンビニのような決済端末が揃っているか(これを機会に揃えるべき)スタッフにフィッティングスキル(=お直しスキル)があるかは定かでないが、勤め帰りに立ち寄るTBPPとしては理想的だ。

 そこで引っかかるのが営業時間だ。「しまむら」の大半は10〜19時、商業施設内店舗や「アベイル」「シャンブル」の一部店舗では〜20時と、共稼ぎやシフトで帰宅時間が遅くなる顧客の利便には応えていない。TBPP機能を担うなら大半を20時まで延長する必要があろう。

 しまむらに限らず、小売業者の多くは売る事ばかりに夢中で店舗の不動産価値や利便価値を活用出来ていない。消費の主流がECに移りモノよりコトに流れる昨今、TBPPに限らず店舗を活用して顧客利便に応え収益を拡大する視点が問われているのではないか。

※TBPP・・・・Try Buy Pickup Point 中身を確認したり試着してから購入や返品が出来る受け取り拠点で筆者が名付けて提案している。

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