小島健輔の最新論文

販売革新2013年8月号掲載
『戦略的ストアコンパリゾンの勧め』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

ストアコンパリゾンの目的と頻度

 業界人にとってストアコンパリゾンは不可欠の定例業務だが、その目的によって頻度やチェック項目が異なる。  ほぼ毎日、チェックすべきがライバルの目玉商品の価格とフェイシング量で、ECサイトでは数時間毎にチェックする必要が在る。衣料品ではキーアイテム/キールックの打ち出しとカラーリングを毎週(外資SPAなどは週二回)チェックする一方、ECモールの人気スタイル/アイテムランキングには毎日、目を通したい。
 季節の切り替え毎にチェックするのがカテゴリー構成と配置、各カテゴリーの主力ベンダーで、衣料品ではテイストミックスやフィット、素材とカラーの構成、セレクト/コラボしているブランドなどもチェックする。商品そのものは即は切り替えられないが、打ち出しのテイストミックスやフィット、打ち出すカラーは変更出来るから、機敏に対応すべきだ。中でもフィットのトレンドは極めて鋭敏だから、着せるサイズには神経を使いたい。
 新設/リモデルされた商業施設では当然、新業態や注目業態を重点的に見るが、新業態ではコンセプトやターゲット、カテゴリー構成や価格帯に加えてMDの組み方と調達手法、注目業態では多店化に伴うMDの組み方と調達手法の変化をチェックしたい。多店化しても進化しない業態は遠からず行き詰まるから、他山の石として学習すべきだ。
 海外やローカルなど遠隔地にわざわざ調査に出かけるなら、単発ではなく二三年毎でもよいから反復してチェックしたい。モールの顔ぶれの変化や注目店の勢いの消長を見ればマーケットの変化を実感出来るし、MDの組み方やVMD手法の流行もリアルに掴める。

チェック項目毎のキーポイント

 1)売場面積や展開スペース
 新業態などでは売場面積が報道されている事もあるが後方ストックも含んでおり、実面積やカテゴリー毎の展開面積は柱スパンや床タイル、什器数を数えて推計する必要が在る。
 今日のRC中層商業ビルでは柱スパンは芯々で9メーター、郊外の低層モールでは同11メーター程度が一般的だが、古い建築では同8メーター前後と狭いケースも見られる。最初に歩行で柱ピッチを確認し、それを元に間口2スパン×奥行き3スパンというふうに面積を推計する。
 カテゴリーの展開面積は床のタイルを数えるが、30cm角か45cm角、時に60cm角のタイルもある。30cmなら36枚、45cmなら16枚、60cmなら9枚で一坪になる。米国などではスクエアフィートで数えるが、ほぼ36枚が一坪と見ればよい。後で説明するデジタル什器の場合はそのラック数を数えれば済む。HBCなどではラック一段とか二段、その中の三列×奥行き四個といったフェイシング量を数える場合もあるようだ。
 2)MDの組み方と見せ方
 基本はカテゴリー構成だが、シーン別やテイスト別にカテゴリーを超えたクロスMDやコーディネイトMDを組むケースもある。カテゴリーの下がMDユニットだが、衣料品では単品ユニットか定型化されたルックユニットがほとんどで、百貨店の編集平場などではベンダー(ブランド)別ユニットも見られる。衣料品に限らず、ベンダー別ユニットは補給や期末の入れ替えをベンダーに依存している証左に他ならない。また、単品ユニットにせよルックユニットにせよ開発型の店は素材やユニット数を絞って個々が大きく、売れ筋後追い型の店はユニットが継ぎ接ぎだったり細切れだったりして訴求が暈けて見える。
 MDの見せ方から「台帳補給ユニット」か「心太補給ユニット」か「継ぎ接ぎユニット」か見分ける事も出来る。MDユニットでは提案したい意図を顧客の購買プロセス(型/色/サイズなどの選択順)を階梯誘導すべく棚割り表現するが、SKU配置を固定して補給で面を維持するのが「台帳補給ユニット」、階梯誘導順とみかけの陳列を類似商品の補給で維持するのが「心太補給ユニット」、計画性がなくカテゴリー毎に継ぎ剥ぐのが「継ぎ接ぎユニット」と分類出来る。個々のユニットが大きく補給体制が整っているほどMDが計画的に組まれている事になる。
 MDユニットの組み方は調達手法の体現であり、多店化をリードする組み方は成長力が伺える一方、店舗数に立ち後れた組み方は業績の頭打ちを予感させる。
 3)価格と品質、バリュー感と調達手法
 ストアコンパリゾンの基本中の基本が価格ライン構成と品質のバランス、結果としてのバリュー感、それをもたらす調達手法の見極めだ。価格ライン構成は裾値/主力値/上値の政策的な設定、価格末尾の技術的設定や粗利益ミックスなどを見るが、消費税増税が迫る今は内税表記か外税表記か、それによる価格イメージもチェックしたい。
 品質感は価格との相対的なもので原価率と消化率が高いほどバリュー感が高くなるが、調達手法にも左右される。より直接的に開発・調達に踏み込み、ライバルより高い消化率を前提に高い原価率を設定出来る者が顧客の支持を得るのは当然で、MDの組み方から陳列フェイスの構築、在庫の適正配分・補給、売場在庫の定期的な再編集と店間移動というマーチャンダイジング実務技術の水準がすべての効率とバリューを決めてしまう。その手順を読むには毎週、しつこく定点観測する必要が在るが、マーチャンダイジングとロジスティクスを極めた熟練者なら一見しただけでパターンは読める。
 顧客が受ける品質感やバリュー感は素材や生産・仕上げ工程で大きく左右される。単一繊維のラスティックな素材より複合繊維のデリケートな素材、平板なパターンより立体的なパターン、平面的で粗いプレス仕上げより立体的で丁寧なプレス仕上げ、の方が高品質に感じられるのは当然だが、OEMやODMではそこまで踏み込めない。調達手法の違いがバリュー感を左右するのは自明の理で、これらをチェックすれば調達手法も見極めがつく。
 4)店舗環境と機能配置
 店舗を見て最初の印象は内装素材や照明による環境テイストである事は言うまでもない。アウトドア系、ナチュラル系、ニュートラル系、エレガンス系、モダン系といった印象は内装材だけでなく照明でも左右される。照度計や色温度計を持って行けば正確に量れるが、慣れれば見た目の印象でも想像がつく。
 照度は1000ルックス以上は快活でセルフ販売、以下はシックで対面販売のイメージになるが、モールの照度を大きく下回ると開店休業に見えてしまう。色温度は内装材の色や反射でブレて見えるので、照明器具の色温度を目視して見極める。平均色温度が3000K以下だとナチュラル感やウォーム感が強くなって空気が和み(接客時間が長くなる)、4000K以上だとモード感やクール感が強くなってテンションが高まる(接客時間が短くなる)。色温度に加えて光束密度(ルーメン)も空気感を大きく左右するから、基本照明/陳列面照明/重点照明/ウォールウォッシャーに加えてフィッティングルーム回りの接客照明のルーメンもチェックしたい。今時はLEDも定着したから、どこまでLED化されているかも確認したいが、安価なLEDスポットでは光束密度が不足する事がある。
 次に見るべきが什器規格とMDの対応、購買プロセス誘導のレイアウトだ。チェーン店のほとんどは規格を統一したデジタル什器になっているはずで、三桁展開チェーンではアドレス管理も徹底されている(商品の補給やピッキングに不可欠)。高価格ブランドは例外として、規格化されないアナログ什器のままだとチェーン化の見通しが立っていないと推察される。
 デジタル規格什器の場合は棚割りが台帳型か心太型に組まれているか継ぎ接ぎか、アナログ什器では補給と再編集陳列のルールが徹底されているか継ぎ接ぎかを見る。前者では顧客の目で見て型/色/サイズの階梯配列が解り易いかどうか、後者ではカラー順や陳列フォルムが美しくルック回転になっているか否かを見たい。
 意外と忘れられているのが購買プロセス誘導のレイアウトで、顧客の買い易さはもちろん店舗要員の配置効率も大きく左右する。まずチェックしたいのが姿見とその前の接客空間の配置で、店頭から店奥へカテゴリーの展開に応じて必要な位置に在るかどうか、120cm×160cm以上の空間が確保されているかを見る。次がレジカウンターとフィッティングルームの配置関係で、レジカウンターからすべてのフィッティングルーム入り口が見え、フィッティングルーム前に姿見と十分な接客空間があるか、フィッティングルームの広さと数をチェックする。
 前述した店舗環境と照明、商品単価、接客空間配置を総合すると接客時間と客単価が読めるから、客数が推定出来れば売上も想像がつく。
 5)陳列手法と提供方法
 陳列手法は前述したデジタル/アナログに加え、アイテム毎にハンギングと畳み積みの比率を見る。セルフ販売を前提としながら畳み積み比率が高いと再陳列の労働負担が大きく、販売員導線も交錯して運営効率が低くなる。サイズ展開する畳みアイテムは低価格でもセルフ販売に適さず、対面カウンター販売の方が運営効率が高く人件費負担も低く抑えられる。これはひとつの例にすぎないが、陳列手法と提供方法が一致しないと運営効率が低位に留まってしまう。何でもセルフ販売の方が運営効率が高いと思うのは裏付けの無い錯覚に過ぎない。
 提供方法と言えば、今やO2Oはネット/リアル双方の売上を伸ばす必須手段であり、ストアコンパリゾンにおいてもどこまでO2Oを仕掛けているかチェックが不可欠だ。まず見たいのが店舗からネットショップに飛ばす端末やデジタルサイネージの有無、バーコードやQRコードの装備であろう。QRコードはスマホでスキャンすれば自動的にネットショップに飛ぶがバーコードは専用アプリをインストールしないと飛ばないから、店内POPで案内したりスマートポスターからインストールさせる仕掛けが必要だ。
 6)クレンリネスと商品整理
 基本中の基本がクレンリネスと商品整理だ。塵や埃の有無はもちろん、段ボールやポリ袋が出しっ放しになってないか、陳列が崩れたままになってないか、色順やサイズ順が乱れてないか、果ては畳み皺が目立ってないかチェックしたい。畳み皺は後方ストックの運用ルールが崩れている事を露呈するもので、マネジメントレヴェルを疑わせる。
 スタッフの行動パターンもマネジメントのレヴェルを占うもので、接客や陳列整理、品出しのリズム感はもちろん、待機時間の長さや待機姿勢もチェックしたい。

見る目を磨け

 ストアコンパリゾンはメディアの取材と違い、視察する側の立場と目的に限定される私的なもので、見る者の技量に大きく左右される。どのような立場と目的で行うのか明確にし、チェック項目を優先順に列記したメモを持参して漏れを防ぎたい。
 店頭は企業の事業体制がすべて露呈する噴出口だから、見る目さえあれば裏の裏まで見通せる。技量さえあればビジネスモデル総体を描き出す事も可能だし、現場に目線を合わせれば様々な矛盾や顧客の不満も見えて来る。ストアコンパリゾンは目的を持って定期的に行うほど透視力が高まり、様々なビジネスモデルや実務技法に精通すれば見えなかったところまで見えるようになり、自らの実務に目線を移せば技量も高まって行く。見る目を磨く事を心掛けたいものだ。

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