小島健輔の最新論文

ファッション販売2006年1月号掲載
特集 2006年、私はこれに取り組む『バブル消費に対応せよ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

06年は超バブリーな年となる

 05年はデフレ終焉からパブル復活へと一気に経済/消費が活性化したが、06年は一段の過熱が予想される。ヒルズ族のマネーゲームに見るまでもなく経済は既にバブルに突入しており、ラグジュアリーブランドやジュエラーの仕掛けもケバさを極めているが、06年はそんなものでは済まない。
 デラックス消費に火が付いてラグジュアリーブランドが活況を取り戻し、フレンチが復活して安価なファストフードが忌み嫌われる。ゴールドジュエリー&ウォッチ(ホワイトゴールドやピンクゴールド)がブーム化し、貧乏臭いシルバーは凋落する。ダメージデニムが疎まれてキレイ目美脚系に人気が移り、プレミアムデニムブームは劇的に終演する。109世界でもキタナ目系は壊滅し、百貨店や駅ビルに似つかわしい華のあるタイプが生き残る。低価格を売り物にして来たカジュアルチェーンの業績が次々と下向き、頭の好い経営者は単価アップのブランディング路線に転ずるだろう。
 ファッション業界もM&A一色に染まり、大手アパレルは欧米のファクトリーブランド(衣料/靴/バッグ/ジュエリーなど)や著名メゾンを買い捲り、ファーストリテイリングもバランタイン級の高級単品ブランドを買い漁るに違いない。ヒルズ族もデラックスビジネスも国内大手企業も混然となってM&Aの嵐が吹きまくり、アッと驚く買収劇が次から次へと表面化。ファッション業界のグローバル化が一気に進むだろう。その中で、魅力的なセレクトショップなどが大手資本に組み込まれて行くのは少し、悲しい気もする。

給与水準のインフレが経営を一変させる

 何が一番、インフレするかと言えば、企画職や販売職の給与に他ならない。すでに力のあるMDやバイヤーの引き抜き合戦は過熱しており、給与水準の低い会社からは有能な人材が止め処なく流出している。安い時給のパート&バイトでコストを抑えて来た小売業ではまともな人材が抜けてしまい、運用水準と販売効率の低下を招いている。販売パートを時給千円以下で雇おうというコスト感覚では、店はスラム化してしまうしかない。
 販売スタッフの給与が上がれば「旨い安い速い」だけではコストが合わなくなる。当然ながらソーシングをグレードアップして上質商品にシフトし、ブランディングを仕掛けて上位のポジションを確保しなければ雇用を維持出来ない。コストの高い販売スタッフには教育投資をしてスキルを上げないと採算割れしてしまうから、接客技術からVMD、美術的なセンスまで教育するしかない。高い素養を持ち高度な教育を受けた販売スタッフは自らの意志と工夫によって現場を改善して行く。そこに顧客と奉仕する者がプライドを持って交流する商業文明の華が開く事になる。
 長く続いたデフレの時代は終焉したのだから、経営者もかつての「We are poorman serving for poorman」から「We are ladies&gentleman serving for ladies&gentleman」(リッツカールトンホテルのコレドから引用)に頭を切り替え、金は天下の廻りものと命ずるべきだろう。

SCの駆け込み開発ラッシュに火が付く

 9月の解散総選挙で自民党が圧勝してSC開発の流れは一変した。コンパクトシティをテーゼとする「まちづくり三法」改正案が06年春の通常国会で成立するのは確実で、都市計画法の改正で農地や工業用地の商業用地転用が原則、出来なくなる。これば事実上、郊外大型商業施設の開発に歯止めをかけるもので、2000年6月1日の大店立地法の施行以来、野放しになっていた開発に急ブレーキが掛かる事になる。
 大店立地法の施行からわずか5年強で規制緩和の流れが逆転してしまったのは、いったい何故だろうか。「まちづくり三法」改正のバイブルとされる矢作弘氏の「大型店とまちづくり」(岩波新書)には、自制のない商業施設開発で地域社会の環境と持続性が破壊され、ショッピングの利便のために支払う犠牲があまりに大き過ぎるという声が高まった事が指摘されている。その中で「一企業グループが同一エリアに集中的に出店」と指摘し、秋田県の例と宮崎市の例を挙げている。
 これはもちろんイオングループの事だが、札幌郊外の絨緞爆撃(00年6月開設の平岡SCから06年開設予定の発寒SCまで5SC計商業施設面積20万平米弱)、奈良盆地北部への集中出店(06年夏から07年春にかけてイオン本体が3km強の距離で2ケ所計同9万5千平米+07年春イオンモールの大和郡山SC同8万平米超、総計同17万5千平米)といった抑制の効かない開発を目の当たりにしてみると、地方自治体や行政からブレーキがかかるのもやむを得ないのかも知れない。奈良のケースではイオン2SCは近すぎて共倒れしかねない売上予測が出ているから、周辺小売業は壊滅的な打撃を受けると推察される。
 イオン本体の開発部とイオンモールに加え、同社と三菱商事の合弁会社ダイヤモンドシティ、同社と大和ハウス工業の合弁会社ロック開発も互いに張り合いながら開発ペースを加速しているから、第二、第三の奈良パニックが発生するのは避けられない。同一資本系列の抑制の効かない開発競争で地方都市の姿が一変して行く事に行政関係者が危機感を募らせて政治的アクションに出たというのも、これでは致し方なかった。もしイオングループが強者の思い遣り(noblesse oblige)を持って集中開発を自制していたなら、大店立地法施行からわずか5年強で行政が開発規制に転ずる事はなかったのではないか。
 とまれ、流れは決した。恐らくは「まちづくり三法」は06年後半にも施行され、大店立地法施行時と同様に経過措置期間が設けられた後、早ければ07年6月末、遅くても同年末で用地転用開発はほぼ全面的にストップする事になる。自治体自らが誘致するケースはこの限りでないが、米国の例を見ても開発ペースは4分の1程度に激減すると思われる。行政の強い意志によって発動されただけに、規制は相当長期間に及ぶものと考えざるを得ない。
 デベロッパー各社は仕込み済み物件が塩漬け化するのを恐れ、玉石大混合で駆け込み開発に必死とならざるを得ないから、06年〜07年の大型SC開設数は過去最多の00年(3万平米以上が28)を確実に上回るはずだ。中には売上の読めない酷いSCも含まれるから、テナント企業としては勢いに乗せられず慎重な対応が望まれる(当社では商業面積3万平米以上の物件すべてについて事前に売上を予測している)。

都心商業の活性化と郊外SCのアップスケール化

 替わって都心商業が活気づき、百貨店や駅ビルのアップスケールなリモデルや新設がブーム化するのは間違いない。あたかもバブル当時を彷佛とさせるものがあり、華やかなブランディングを打ち出すブランド/テナントが優先的に導入される。それでも、ヤング向けのファッションビルに日が当たる事はないだろう。
 郊外SCとて手を拱いてはいない。新たな開発が抑制されるから安心して差別化投資が可能で、都市百貨店やターミナル型テナントが挙って導入される。その分、CSC的な低価格ファミリー業態は退店を迫られるだろう(米国のRSCにはファミリー業態はほぼ皆無)。ひとつの時代が終わった感がする。大手デベロッパーは駅前/駅上物件にシフトするだろうが、余程の乗降客がない限りカーアクセスの悪さで苦戦すると思われる。
 どちらのケースでも可処分所得の高い大人市場が再評価され、40代から60代を狙ったライフスタイル業態やブランドが続々と導入される。都心の再開発では大人市場に特化したコンセプトもブーム化するに違いない。
 都心商業と大型SCがアップスケール化を競う一方、郊外やローカルの小商圏立地ではバブルに縁のない大衆を相手にスーパーセンターやコンビニ・ファッションストア、ミニGMS化した百円ショップが着々と勢力を伸ばしていく。誰もがバブルの恩恵を受ける訳ではなく、貧富の二極化はジリジリと進行して行くからだ。バブルに振れた流れは何時かまた逆転する。その時の主役が彼等となるのだろうか。

私はこれに取り組む

 当社は20余年に渡って主要都市百貨店・SCのブランド/テナント別販売データを集計・分析し、常に最新有力商業施設に入れ替えてデータの鮮度と精度を向上させてきた。採録商業施設は主要都市百貨店21店を含む百施設、採録ショップ数は6千店を超え、各ブランド/業態のテイストや客層、価格やMD展開、出店政策なども正確に掴めて来たので、データベース化して科学的なテナントミックスをデベロッパー各社に提供しようと考えている。入力作業は膨大で2月上旬までかかると思うが、コンセプトを入力しさえすれば該当するテナントが即リストアップされ、幾つかのコンセプトを組み合わせて適確なテナントミックスを容易に提案出来るようになる。データベースには売場面積や販売効率、出店立地も備わるから、テナントミックスの精度は格段に高められよう。
 「改正まちづくり三法」施行前の駆け込み開発SCに対しても、マーケットアナライザー(商圏分析ソフト)に計画施設も含む最新の競合施設を入力して商勢圏をハフモデル的に見極め、具体的な商勢圏人口/消費支出と販売効率を算出して「ここはOK、ここは×」と明確に格付けしていく。これから増えていく駅ビルの新設/リモデルにも対応すべく、新たな売上予測手法も開発したい。テナント企業の出店条件や不動産コスト/内装費、店舗人件費の傾向も毎年、定期的に検証しており、出店政策や雇用政策も明確に提示している。
 当社のデータベースには既に開設された百を超える大型SCの商圏因子/施設構成と売上の因果関係が蓄積されており、新設SCのデータを順次加えるとともに売上予測計算方式を見直し、一段の精度向上に努めたい。データ蓄積と検証技術革新だけが事実を明らかにするのであって、商業施設開発に博打や勘は許されない。
 ファッション傾向についても、レディスは17ゾーン/117タイプ/454ブランド、メンズは11ゾーン/66タイブ/150ブランド、子供服や服飾雑貨を加えた760余ブランドの位置付けを販売成績やトレンドなどを基にシーズン毎に見直し、新たな切り口を提案するとともに世代や客層との関連、面とフィットの傾向などをタイムリーに検証。SPACの月度レポートではレディス/メンズ計70体前後のカラーイラストで各タイプの最新スタイリングを提示し、最新の売れ筋傾向とMD展開を分析している。この精度もデータベースの拡充とともに06年は一段とアップさせ、インパクトあるビジュアルで変化の方向を逸早くかつ明確に提示していきたいと考えている。
 精度も創造力もデータ蓄積と科学的検証がもたらすものであり、勘や時の勢いに流されては良い結果は得られない。残念ながら、これらの恩恵に浴しているのはわずか80余社に過ぎず、06年は何が何でも百社の大台に乗せたいと決意している。

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