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ブログ(アパログ2018年07月02日付)
『しまむらが形振り構わずECを始める訳』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 あの「しまむら」がZOZOTOWN出店を口火にECを始めるそうだが、果たして成算はあるのだろうか。「しまむら」のECについては疑問に思うことばかりだ。
 
■ZOZOに乗ってはバスにバスが乗るようなもの
 
 まずは運営コストだが、ロードサイドのパート主体運営による金太郎飴的店舗展開で営業経費率が26.1%と極めて低いしまむらにとって、35%以上とみられるZOZOTOWNの売上手数料(単価の低さから見れば宅配費も負担するZOZOにとって必然)では大幅な採算割れになる。ZOZOTOWNに乗るメリットがあるのはオリジナルコンテンツを高コストなテナント店舗や百貨店で販売するSPAチェーンやブランドメーカーであって、ロードサイド中心に低コスト運営する“プラットフォーマー”たるしまむらには何らメリットがない。
 しまむらは他者コンテンツを乗せて低コストに販売する“プラットフォーマー”であり、ZOZOTOWNというECプラットフォームに乗ってはバスにバスが乗る屋上屋で、コンテンツ供給者にとっては二重に流通コストを負担させられるだけで何のメリットもない。自社運営ECで数百億円売らないと現状の店舗販売並みのコストには収まらないから、取りあえずお勉強がてらやってみようという域を出ない。
 
■在庫と顧客の裏付けも怪しい
 
 ECビジネスの要は品揃えの巾と在庫の確保、それもノーリスクの在庫預りによるプラットフォームビジネスか受注先行の無在庫販売D2Cビジネスでないと旨味がないが、しまむらのやり方はどれも外している。
 元よりしまむらはDCに補給用の在庫を残さないTC(トランスファーセンター)経由の一蒔きディストリビューションで、店舗の在庫もまったく奥行きがないから、EC受注に引き当てる在庫が存在しない。ECを始めると言っても納入業者に在庫を持たせて客注的に引き当てる体制だから、品揃えの巾も奥行きもなく顧客に届く時間もかかる。これでは売上を伸ばしようもない。
 『店舗がない地域や地方の顧客の利用を期待する』としているが、しまむらは「しまむら」1401店舗を軸に全国47都道府県に2089店舗(18年2月20日)を布陣しており、大都市の都心部を除いて「しまむら難民」を期待出来る余地は限られる。その都心部住民にそれほど「シマラー」がいるとも思えない。
 
■売上の急落に慌てて形振り構わず?
 
 肝をことごとく外してもECを手掛けざるを得ないのは店舗売上の落ち込みがあまりに急激だからだ。しまむらは18年2月期で全社売上が0.1%減と頭打ち、主力の「しまむら」は98.7(既存店は97.0)と09年2月期来の前年割れに陥った。今期に入っても「しまむら」の既存店売上は好天と曜日進行に恵まれた4月が101.4と浮上しただけで、3月は94.4、5月は92.3、6月は88.3と落ち込みが加速している。単価の落ち込みも目立ち、氾濫する低価格ECとの競合が否めない。『このままでは低価格ECに食われてしまう』という危機感から形振り構わずECを始めざるを得ない同社の苦境が伺えるが、肝を外したままでは成算は望めない。
 そもそも「しまむら」は近隣日常消費を支える“ラスト・ワンマイル”の小売プラットフォーマーであり、コンビニにはない十分なスペースとフィッティングルーム、おまけに日本語を話す熟練したパートさんたちが揃っている。私の新著『店は生き残れるか』でも、一項を割いて『下手にECをやるより全てのEC事業者にとってラスト・ワンマイルのお試し受け取り拠点「TBPP」たるべきだ』と断じている。しまむらの現場を支える方々や取引先はもちろん経営陣にも是非、ご一読頂きたい。

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