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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『店頭の“かご落ち”要因をつぶそう』 (2018年06月22日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 昨今はECが消費の主流となり店舗販売は衰退の一途という感があるが、EC世界が日進月歩で次々と新たなシステムやスキルが開発されていく一方で店舗販売はこれまで百年一日で進化が停滞していたことは否めない。無人店舗やショールーム店舗の登場で遅ればせながら進化に転じつつあるとはいえ、ECの視点で検証すれば、もっと改善の余地があるのではないか。ECではSEO対策や“かご落ち”対策でバグをつぶしていくのが日常のルーチンだが、店頭では“かご落ち”対策のルーチンワークは励行されているだろうか。

 店頭で“かご落ち”する主な要因は以下の3点だと思うが・・・・・

1)分類・配置と購買プロセスの擦れ違い

 顧客が購買選択を進めようとする手順と陳列分類・配置が擦れ違えば顧客は戸惑い、販売スタッフが説明したり商品探しを手伝ったりしないと“かご落ち”してしまう。購買選択は品種別だったり用途別の品種横断(いわゆるクロスマーチャンダイジング)だったりするが、衣料品では型⇒色⇒サイズとは限らず、サイズや色から入る方が買いやすい場合も少なくない。

 ECなら顧客がいかようにも並び替えて検索できるが(検索ワード選択リストをゲートページ左上部に配するのが定石)、店頭では逐一物理的に並べ直す手間を要する。店頭の陳列が選びにくければ、顧客はスマホを取り出してECサイトで自分の手順で検索し購買プロセスを進めることになる。

2)商品情報の限定

 ECでは「ささげ」によるビジュアルと言葉、色やサイズのMD展開、購入した顧客の評価(レビュー)など、これでもかと豊富な情報が提供されるが、店頭では一部の商品しか陳列されず(物理的に置き切れないし偏在ロスもかさむ)、モデルが試着して歩いてくれるわけでもないし、色やサイズのMD展開がタグやPOPに表示してあるわけでもない(表示しているブランドも稀にある)。ましてやレビューなど知る由もないし、ひどい店ではタグを見えないように隠してしまう。恐ろしいことに衣料品では主流の慣習だ!

 やむなく顧客は自分のスマホでECサイトに情報を探しに行くか(そちらで買ってしまうかも)、諦めて店を後にしてしまう。ゆえにECフロントを活用した商品情報の提供が店舗販売には不可欠なのに、タブレット接客を禁じる百貨店が少なからず残るのは時代錯誤というしかない。

3)在庫探しの遅延

 ECならSKU別の在庫情報はもちろん近隣店舗の在庫までのぞけるが(リアルタイムとは限らないが)、店頭ではレジから検索しないと回答できないケースが多い。接客タブレットで即!という店も増えているが、まだ少数派だ。

 話がややこしくなるのはPOS上は在庫があっても店頭フェイスに見当たらず、後方ストックに探しに行く場合だ。どこの店も『5分以内に済ませる』とかマニュアルには書いてあるが、きちんとストック棚管理なんかしている店は今時、例外的で、山積みしたパッキンを上げ下げして探す羽目になれば“5分”なんかじゃ到底戻れない。お客さまは待たせるし、その間は売場人員が1名欠員して接客にも保守にも支障が出る。見つかれば良いが、見つからなければ“かご落ち”してしまう。

C&Cやショールーム販売はジョーシキになる

 まあ店頭の典型的な“かご落ち”なんぞはこんなものでしょう。問題は、それが“例外”ではなく“日常”になっていることで、EC世界ならとっくにつぶされているはずのバグが堂々と継続されている姿には失望させられる。店頭の運営手順とスキルが顧客視点で日々、検証・改善されていないというお座なり体質を抜本的に変えない限り、店舗販売はECに駆逐されても致し方あるまい。ECが流通の主役となる中、店舗販売は顧客目線でECと競いカイゼンを急ぐべきで、店舗とEC一元一体の顧客利便提供が問われるのは必然だ。

 かつてO2Oあるいはオムニチャネルといわれ、今やショールーミングとウェブルーミング、店舗物流とEC物流を駆使して顧客利便を最大化するC&C(クリック&コレクト)やショールーム販売が当たり前になろうとする中、EC主導で店舗販売を革新できないブランドやチェーンは存続が危ぶまれる。経営陣にはES(ECとStore)一体のリテラシーが問われよう。

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