小島健輔の最新論文

ファッション販売2006年5月号掲載
小島健輔の経営塾5
『商品構成を見直せ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 前回は「店を元気にする七つの魔法」を提じたが、魔法というより店で出来る現実的改善策というお話でした。それでも店が元気にならないなら立地か商品の問題で、お店の立場では手の打ちようがない。立地のお話は出店政策の機会に譲るとして、商品構成の改善策を考えてみよう。
 商品に問題が在るとしても、それが1)品揃えのテクニカルなバランス、2)テイストやフィットなど顧客層とのズレ、3)価格に対するバリュー感、のいずれに起因しているのかで打つ手は当然異なる。
 1)品揃えのバランス
 まず見るべきはシーズンのバランス、アイテムのバランス、スタイル訴求と単品訴求のバランスだが、各アイテムのデザイン物と定番物のバランス、サイズやカラーのバランスもチェックすべきである。
 シーズンのバランスとは、季節進行やライバル店のシーズン切り替えと比較して自店の品揃えの早遅を問うもので、遅れていれば当然、鮮度が低く見える。見た目のバランスはカラーとキーアイテムに左右されるから、まずは前回提示した再編集運用で見た目の鮮度を回復させ、早急に次シーズンの新鮮カラー商品とキーアイテムをカンフル投入するとともに極端なシーズン遅れ品を売場から抜き上げ、現実のバランスも回復させる。
 アイテムのバランスを商品回転だけで判断すると売上に合わせて在庫を拡縮させる事になり、アイテム格差を助長しかねない。ましてや、本部から商品回転データに基づく傾斜配分をやってしまえば、個店の品揃えバランスは崩壊してしまう。商品回転による在庫コントロールは基本だがコーディネイトから見たバランスも配慮すべきで、再編集運用による見た目バランス補正も活用したい。
 スタイル訴求と単品訴求のバランスは在庫内容もともかく見せ方の問題が大きく、再編集運用で解決出来るケースが多い。あるべきバランスに再編集して見ると欠落アイテムや過剰アイテムがはっきりし、棚什器とハンガー什器の運用限界を超えた偏りに気付く事も出来る。打つべき手がはっきり見えて来るから、まずは再編集してみる事だ。
 デザイン物と定番物のバランスはスタイリング訴求から見た検証ももちろんだが、展開補給という視点からも考える必要が在る。デザイン物は売り切り御免かディティール展開補給、定番物はカラー/サイズ展開補給で組まれているから(そうなっていなければ問題だが)、展開量の柔軟性に大差がある。前者は人気アイテムに集中してバラエティ訴求するのが効果的だが、後者は必要アイテム毎にSKUを揃えた棚割展開が不可欠で展開量が硬直的になってしまう。回転を考えれば前者を優先するしかないが、後者を欠いては基礎売上が崩れてしまう。テクニックでは解決出来ないから政策的な判断が必要になるが、ビジネスモデルに関わる重大な問題として指摘しておきたい。
 カラーのバランスは前述したシーズン訴求の視点に加え、アイテム間のバランスやメリハリを検証する必要がある。アウターのカラー/トーンとインナーのそれとのコントラスト関係はスタイリング訴求の基本で、その時々の旬のコントラストを訴求できるようバランスを取る必要が在る。「白〜ベージュのアウターに対して寒色系ペールカラーのインナーというローコントラストが旬の合わせ方だな」などといったカラースタイリング傾向に基づいてルック編集を組んでみると、各アイテムの過不足がリアルに見えてくる。まずは適合色の全出しマルチ展開/過剰色のストックへの部分抜き上げといった再編集を行って見た目のバランスを補正し、適合色のカンフル投入を手配するという対策を打つべきだ。
 サイズ展開のバランスは全店統一で個店の客層が反映されなかったり、販売進行とともに崩れるがままという事も多い。まずはSMLといった表示上の展開量バランスがアイテム別/アイテム間でとれているかチェックしたい。アウターはSMに片寄りボトムはMLに片寄っている、といったアンバランスが見過ごされがちだからだ。もちろん、「コンパクトなアウターに緩めボトム」といったスタイリング傾向を反映したバランスを問う事は言う間でもない。
 次には、標準ボディを使って各アイテムの表示サイズと実際の寸法やフィットがずれていないかチェックしたい。アウターを例に採れば、前肩/後ろ肩/バストトップ/アンダーバスト/ウェスト/ヒップの実寸に加え、アームホールの寸法とパットの入り方も調べるべきだ。顧客層との乖離、パターンの稚拙さや使い回しなど、ゾッとする実情が解るはずだ。
 前者のアンバランスは不足サイズの補給と過剰サイズの抜き上げで対応できるが、後者のアンバランスは商品の開発・調達という次元でしか解決出来ない。
 2)テイストやフィットなど顧客層とのズレ
 スタイリッシュモードな店なのに目先のトレンドに流されて甘めフェミニンな商品が氾濫していたり、大人体型のコンテンポラリーな店なのにお兄なフィットの商品が混じっていたりと、品揃え店もともかくブランドショップでもポジションや顧客層とのズレは頻繁に見られる。中には顧客層の体型と乖離したマネキンやボディを平気で使っている店もあるから、ファッション業界人の感性やこだわりも意外とアバウトなのだなと苦笑させられたりする。
 まず、こだわるべきは顧客に提案するフィットであり、基本体型とそこからの着こなし/着崩しの主張を検証して欲しい。「かつてはこうだったが、今の時流に合わせて(流されて)こう変えている」という認識が確かなのか、あるいはその時流対応が是なのか否なのか、方針を固めないと判断も出来ない。周囲のライバルを見回して体型とフィットのポジションマップを作り、自店のこだわりと需給関係から冷静に判断すべきであろう。
 テイストの場合はベースのこだわりとトッピングのミーハーさのバランスが大切で、ベースがズレれば顧客が離れるし、トッピングの鮮度がなければ飽きられてしまう。周辺ライバルとのポジションマップを作成して需給関係とテイストのベースを検証するとともに、ベースとトッピングの関係をリミックス図に書いてこだわりとミーハーさのバランスを検証すべきだ。その上で、このトッピングは排除すべきとかもっと増やすべきとか判断して欲しい。
 フイットとテイストは再編集による修正効果はわずかで、品揃えそのものを訂正しないと効果は出ない。早めの決断で次サイクルの成果を期すべきであろう。
 3)価格に対するバリュー感
 仕上げ面/品質/パターンなど商品自体のバリュー感と価格が見合っていなければ当然、販売は苦戦する。絶対的な価格と品質の問題は開発・調達のロットと手法(ソーシング)に起因するから別の機会に譲るとして、ここでは仕上げ面とバリュー感の問題に限定したい。
 ブランディングや提供演出による価値創造は別として、衣料品の物性的なバリュー感は企画(ファブリケーション・デザイン)と素材(キーデバイス)、パターンと仕上げ加工によって創造される。企画はデザインと装飾性、素材は染色・整理まで含んだ価値表現、パターンと仕上げは製品後加工とプレス仕上げまで含んだ価値表現と考えて欲しい。わざわざ原点的な話から入るのは、顧客が手に取って、あるいは試着してバリューを感じるポイントを明らかにしておきたいからだ。
 崩しやレイヤードが評価される市場では製品の後加工・付加加工がキーになるが、キチンと系モードが評価される市場では素材と染色・整理、パターンとプレス仕上げがキーになる。ストリート系のレイヤードカジュアル店とキャリア狙いのモードな店では顧客がバリューを感じるポイントが異なるのだ。自店の顧客がバリューを感じるポイントが何処に在るのか、検証する必要があろう。
 これらのポイントをチェックして改善しようとすれば開発・調達のプロセスに踏み込まざるを得ないが、店で出来る事もある。陳列表現ではボディ/マネキンの入れ替え、仕上げ面では店後方における再プレスが効果的だ。SC店舗では防火区画の設定を行わないとプレス加工は出来ないが、路面店なら大方が可能。SC店舗でも携帯機器による簡易なプレスなら許されるのではないか。

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 店を舞台としたテクニカルな話題が続いたから、次回は開発・調達手法の組み合わせ方というお話に移りましょう。新米バイヤーから第一線マーチャンダイザーまで関心の高い分野であり、COOとして避けては通れない課題だと思います。

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