小島健輔の最新論文

ファッション販売2002年2月号
『PB開発の成功条件』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

PB開発を強化する専門店

 カジュアル専門店やセレクトショップはもちろん、OL向けのナショナルチェーンでもPB開発が急ピッチで進んでいる。それも数字上のPB比率だけでなく、かつての売れ筋確保や価格訴求といった同質化路線からオリジナルの付加価値を訴求する差別化路線へ、メーカータイアップからOEM発注へと、質的にも変貌を見せている。
 当社のSPAC研究会に参加する専門店企業でも着実にPB比率が上昇して2001年の春夏期で平均65.1%に達したが、2002年春夏期では平均69.6%とさらに4.5ポイントの上昇を計画。セレクト系専門店でも同31.3%から42.5%へ11.2ポイントの上昇を回答し、SPA志向の強いタイプでは平均87.6%に達している。
 その中身も、SPA志向タイプでメーカータイアップが41.5%から35.5%に急減する一方、商社/OEM業者活用が26%から27.7%へ、工場直接発注が20.1%から24.4%に増える。セレクト系専門店ではメーカータイアップが10%から17.5%に増えるが、商社/OEM業者活用が17.5%から20%へ、工場直接発注も3.8%から5%に増える。
 前号の『V字回復専門店』でもPB比率が急上昇していたし、調達手法も上記回答と同様な変化を示していたから、この回答は好調専門店の最近のPB開発傾向を象徴していると言ってよいだろう。PB開発の目的も売れ筋の確保や価格訴求から差別化や付加価値訴求へと重点が移っており、一〜二年前の低価格ベーシック路線からは様変わりしている。

開発・調達手法もMD手法も多様化

 「ユニクロ」旋風が吹き荒れた一時前のPB開発は素材と調達を集約する最大公約数的な低価格商品一辺倒だったが、同質化に陥って単価ダウンを客数で補い切れず、ほとんどの店が売上を落としてしまった。その反省に2001年春物からのデザイン回帰と後加工/付加加工ブーム、同秋物からの上質素材志向が加わって、差別化と付加価値訴求の開発スタンスが強まったのではないか。
 それに伴って開発・調達手法も多様化し、各社毎の違いも目立って来た。SPA志向タイプでは、類似企画が他店にも流れて差別化が難しく値入れも取れないメーカータイアップに見切りをつけ、仕様を指定して工場に直接発注、あるいは商社系の企画会社の開発力を活用して、差別化も値入れも確保しようという動きが主流。セレクト系専門店では、値入れ確保に商社や工場の活用も増やすものの、“面”を揃えて顧客対応の巾を確保すべくメーカータイアップも拡大するという二正面作戦をとっている。
 “面”とは同一 アイテムのメーカーや工場による素材やディティール、パターンや仕上がり感の違いを意味し、その巾を揃えるには多様な調達ルートが必要になる。今シーズンのパワーアイテムのひとつであるキルティング・ジャケットを例に取れば、ナイロンタフタ、オイル・コーティング、細コール、ウール・ヘリンボンと素材を揃え、細身パターンとゆったりパターン、シャツ襟とリブニット襟という“面”が揃ってこそ、すこしづつ好みや体型の異なる顧客を捉えることが出来るのだ。
 “面”を揃えるには調達の手間がかかるし、ロットが分散してコストも上がる。“面”を揃えた分、バラエティは出るが在庫は嵩む。効率最優先で絞り込むSPAや“面”を統一するブランドビジネスでは考え難い事だが、自己編集力のある高感度な顧客を捉えるには今日、不可欠なMD手法となっている。事実、人気セレクトショップのMDは『フォーカスを絞った中での“面”揃え』が大原則になっており、坪当たり品番数は十を上回る。
 時々のトレンドに流されて業界中が同じようなMD手法や調達手法に集中しがちだが、今回のメンバー調査ではMD手法も16通りに分散した。低価格ベーシック一辺倒の時は皆が『素材を絞ってカラーとサイズを展開する』MD手法に集中したが、今回は絞る軸も展開する軸も分散し、展開軸ではデザインと素材、後加工が目立っていた。これなら同じネタでも露骨な同質化に陥ることはないから、値崩れのリスクも小さくなる。低価格ベーシック商品の氾濫で類似した単品集積陳列に片寄っていたVMD手法も、デザインや素材のバラエティとコーディネイトを訴求すべく多様化していくはずだ。多様な商品とVMD手法がマーケットを刺激して、ファッション消費の回復も期待出来るというものだ。

PB開発の原則と手順

 PB開発ではメーカー機能への踏み込みに幾つかの段階があり、踏み込んで行く手順がある。手順を飛ばした踏み込みは在庫の山となって経営を脅かす事があるし、何時までも躊躇していては差別化も値入れも望めない。手順を無視して踏み込めば、開発組織が肥大して小売の機動性を損なったり、コストやロスが肥大して値入れを食い潰す事にもなりかねない。手順を追って確実に目的に到達するのが結局は近道だし、途中の段階を検証しながら進めれば、効果の異なる複数の手法を使いこなせるようにもなる。
 値入れだけを考えれば工場直接発注がベストだが、それにはデザインからパターン、素資材や工場のソーシング、行程管理や行程間物流・物流加工の手配等、メーカー機能を総て自前で処理しなければならない。自前で人材を抱えれば大変な固定費がかかるしノウハウも必要だから、部分的に外注する事になる。メーカー機能をある程度抱えたファクトリーメーカーならバイヤーでも生産を委託できるが、事実上の別注開発と言うべきであろう(製品買い上げになるが、値入れ等のメリットは大きい)。
 商社を活用すればソーシングから物流・物流加工、行程管理、決済管理までやってくれるし(商品買い上げの取引き形態になる)、必要なら企画・仕様開発機能まで用意してくれる。これを得意分野でパッケージしたのがOEM業者で、ピッタリはまれば便利この上ない。最近では商社が企画・開発機能まで総てパッケージしてAMS化(アパレル・マニファクチャリング・サービス業の略で、エレクトロニクスのソレクトロン等のEMS業者に準えた)して来たから、小売業でも商品開発が容易になった。その手数料は小売価格の5〜7%程度だから、固定費とノウハウの蓄積を考えれば安いものだ。
 とは言え、商社系の企画・開発部隊は自分のブランドを売っている訳ではないから、マーケティングやスペックが検証されている訳ではないし、キャラクターまでは望めない。それが欲しければブランドメーカーに別注をかけるか、ブランドの仕様でバイヤー企画を商品化(タイアップ開発)してもらうしかない。ブランド側のノウハウを借りる分、値入れは限られるし、類似したブランド企画が他店に流れるのもやむを得ない。
 PB開発ではこの段階を逆に踏み込んでいく訳だが、自社の開発組織の機能と固定費負担、小売の機動性とオリジナル開発力、欲しい要件と値入れのバランスを判断して調達方式を組み合わせ、最適の品揃えを構築すべきである。あくまで小売の品揃えからスタートし、それを充実させるべくステップを登るのが本道で、特定の調達方式をゴールに定めるべきではない。

調達戦略と品揃え

 専門店にとって何より優先すべきは顧客の求める品揃えであり、調達戦略によってそれが曲げられては本末転倒だ。百%工場直接発注をゴールとすべきかは疑問で、“面”揃えの為にも変化対応の為にも、複数の調達方式を使い分ける柔軟性が不可欠と考えられる。特定の調達方式、ましてや固定したサプライチェーンに固執すべきではない。
 調達の効率ばかりを追っては品揃えが限定され機動性が損なわれる。サプライチェーンの効率を最優先すれば「ユニクロ」のような工業的SPAに至るが、企業の都合で一方的に絞り込んだ品揃えになり、ブランドビジネス的なプロダクトアウト体質になってしまう。それが当たった時は良いが、外してしまえばブレーキもハンドルも効かないからクラッシュは避けられない。ギャップ社の業績史を見ても成功は精々5シーズン(二年半)しか続かないから、「ユニクロ」は昨秋から深い低迷期間に入ったと見るべきだろう。新たな成功は調達背景を再編しなければ困難だから、あそこまでサプライチェーンを固定してしまった「ユニクロ」の低迷は長期化せざるを得ないはずだ。
 業績が安定している専門店チェーンは皆、複数の調達手法を使い分けてており、マーケットの流れが変った時の回復も早い。低迷が長期化しているチェーンは皆、一時の成功に酔って調達方式を絞り込んでしまった企業だ。複数の調達手法を使い分けているからと言って、値入れが限られる訳でもない。顧客が喜ぶ品揃えによって付加価値が通り易くなり、結果として十分な値入れを確保出来ている。好業績専門店の値入れミックスを見れば、それは明らかであろう。
 PB開発は専門店のみならず総ての小売業にとって不可避の課題だが、それは手段であって目的ではない。顧客にとって最適の品揃えを実現して高いストアロイヤルティを得る事こそが究極の目的であり、PB開発はそのための手段である事を忘れてはなるまい。

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