小島健輔の最新論文

販売革新2018年12月号掲載
『アウトレットモールの行方を決めるのはOPSだ』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング 代表取締役

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■アウトレットモール市場の最新状況
 アウトレットモールの新設は12年4月の三井アウトレットパーク(以下OP)木更津、13年4月の酒々井プレミアムアウトレット(以下PO)と続いた後、15年7月の三井OP北陸小矢部、18年4月のジ・アウトレット広島(イオンモール)と間が開き、この間17年2月には建て替えリモデルのためグランベリーモール(東急電鉄)が閉館し、18年4月には大洗リゾートアウトレットが通常のSCに転換している。施設数は12年末の36から17年末で37とほぼ横ばいだが、売上総額は12年の6600億円から17年の8400億円と1800億円ほど増えたと推計される。
 この間の積み増しは三菱地所・サイモンのプレミアムアウトレットが酒々井の新設と増床、神戸三田/土岐の増床で1023億円、三井アウトレットパークが北陸小矢部の新設や滋賀竜王/札幌北広島/木更津/幕張/長島の増床で544億円、軽井沢プリンス・ショッピングプラザが増床で163億円、計1730億円で、11年4月末に開業したレイクタウン・アウトレットの積み増しを除けば他のアウトレットはほとんど伸びていない。競合する立地に大型アウトレットが開業すれば、規模の小さい施設は淘汰されていく運命と思われる。

 ■アウトレットモールの勝ち残り条件
 明暗を分けるのが1)高速道路ICからのアクセス利便と商圏規模、2)テナントのバラエティで、上位20施設の盛衰を見る限りテナント数150店が分かれ目のようだ。増床を繰り返してライバル施設より集客力を高めるのが鉄則で、敷地に増床余地がないと競い負けてしまう。アウトレットモールは売場面積あたり駐車台数も通常のモールの倍は必要だから広大な敷地を要し、高速道路ICからのアクセスや導入導出のストレスも集客を左右するから、立地の選定と建築レイアウトが要となる。
 アウトレットモールでの買い物は半日がかりのイベントになるから、フードサービスやアミューズメントの充実も不可欠で、今時はSNS映えするフォトジェニックスポットも計画的に配置する必要がある。ペット同伴客も多いから、ペットゾーンの設定や入店規制の分かり易く可愛い表示に配慮し、ペット預かり施設も備えたい。大量の買い物に対応すべく、ATMや外貨交換機、荷物預かりや宅配受託のサービスも備え、アリペイやウィーチャットペイなどスマホのID決済に対応するのも必須だ。
 テナントのバラエティも数だけ揃えれば済むわけではない。国内客向けには駅ビル系や百貨店系、セレクトショップやスポーツブランドの集積が欠かせないし、インバウンド客向けにはラグジュアリー系や化粧品の集積が不可欠だ。化粧品やドラッグは免税手続きさえ便利にすれば必ずしもアウトレットである必要はない。

■アウトレットモールはどうして増えないのか 
 日本のアウトレットモールは近年、ほとんど増えず、18年4月に開業したハイブリッド型のジ・アウトレット広島まで加えても37ヶ所で、アトレットモールとして実質稼働しているは30ヶ所にとどまる。そのうちラグジュアリーブランドも揃ってインバウンド客も呼べるAクラスは10施設にすぎない。
 アウトレットモールが増えないのは施設の過剰による売上の頭打ちではなく、需要に商品もテナントも供給が追いつかず、新たな開発が困難なことが要因だ。立地の制約もともかく、ブランド力のあるテナントが揃わないことが最大の足枷となっている。
 出店しているブランドも季節によっては商品が揃わず、アウトレット専用商品を調達して補っているのが実情で、新たに出店する余力は乏しい。服飾雑貨やランジェリー、時計や眼鏡、化粧品や医薬品など開拓余地のある分野もないわけではないが、集客力ある人気ブランドともなれば売れ残り在庫も限られ、新たな出店は難しい。季節によっては売れ残り在庫が揃わず、アウトレット専用商品で評判を落とすのも避けたいとなれば、人気ブランドを揃えるのは至難の技になる。
 もとより売れ残り品の処分が目的のアウトレットモールなのだから、処分する商品が揃わなければ新たなモールは作れない。アパレルなどバーゲンしても過半が売れ残るという過剰供給が定着しているのに、どうしてアウトレットモールには在庫が揃わないのだろうか。

 ■オフプライスストアが突破口
 日本では37ヶ所に留まるアウトレットモールも、米国では10倍の373ヶ所も存在する。米国でもアウトレットモールは96年の329ヶ所でピークを打って減少に転じたが、リーマンショック以降は再び急増している。再拡大を支えたのがアウトレットストアに代わって急成長し7兆円もの市場を形成したオフプライスストア(OPS)だ。
 「アウトレットストア」はブランドメーカーや小売店が自らの売れ残り品を販売するのに対し、「オフプライスストア」は他から仕入れた売れ残り品を販売する。それゆえ調達ルートを広げれば需給や季節に関わらず豊富な品揃えが可能で、容易に店舗を増やすことができる。実際、最大手のTJX社は平均800坪のストアを4070店、二位のロス・ストアーズは同600坪のストアを1622店、三位のバーリントン・ストアーズは同1500坪のストアを629店も展開している(18年1月期)。OPSはアウトレットモールだけでなく郊外のパワーモールやストリップモールにも多店化しているが、アウトレットモールのテナント不足を補ったことは間違いない。
 多店舗展開する大手OPSはブランドメーカーの投げ出す「Packaway」(色・サイズ・ロットが揃った未投入品)やメーカータイアップの専用開発商品が過半を占め、二次流通に流れた所謂バッタ品は30〜45%程度で、「T.J.マックス」ではオンシーズン商品が7割以上と言われる。デパート系のOPSでは前シーズン自社販売商品のバラ残が過半を占め、オンシーズンの「Packaway」で品揃えを補完している。OPSというと旧シーズン売れ残りのバラ残というイメージが強いかもしれないが、「T.J.マックス」では色・サイズ・ロットが揃ったオンシーズン品が中核を占める。
 アウトレットストアだけでは埋めきれなくてもTJX(「T.J.マックス」「マーシャルズ」「ホームグッズ」)やロス・ストアーズ(「ロス・ドレス・フォーレス」)、バーリントン・ストアーズ(「バーリントン」)など専業OPS、「ノードストロム・ラック」や「オフ・フィフス」(サックスフィフス)、「バックステージ」(メイシーズ)などデパートのOPSを入れれば容易にテナントが揃う。こうして米国のアウトレットモールは再拡大に転じたわけだ。

■日本のアウトレットモールは変貌できるのか
 米国ではOPSを取り込んでアウトレットモールが再拡大に転じたが、アウトレットストアの供給難で開発が停滞している我が国も米国のように再拡大に転ずるのだろうか。それには我が国にもOPSチェーンが成立することが不可欠で、オフプライス商材の二次流通がメジャー化・オープン化する必要がある。
 すでに衣料・服飾のリユース流通ではゲオが400億円を売り上げ、ドンキホーテもオフプライス商材が過半を占めると見られるが、その調達ルートは実に多様で二次流通がメジャー化・オープン化しているとは言い難い。とは言えアパレル業界の残品率は過半を超え収益力も低迷しているから、全損になる焼却処分や捨て値になる海外放出、買い叩かれるネーム削除売却に依存してはおられず、いずれOPSに販路を限定した「Packaway」供給に踏切ることになる。
 それを待つまでもなく一部の大手古着チェーンやディスカウントストアは欧米ブランドの現地調達に動いており、国内調達品と合わせてOPS業態の開発を進めている。時代の転機となる本格的OPSの登場、あるいは外資OPSの上陸が迫っているのではないか。

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