小島健輔の最新論文

繊研新聞2019年12月24日25日付掲載
『既成モデルに未来はない
夢を売るビジネスと現実を売るビジネス』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ファッションビジネスには「夢を売るビジネス」と「現実を売るビジネス」という二面性がある。「夢を売るビジネス」は顧客に心地よい幻想を振りまく“パーティビジネス”であり、創り手と使い手の情報の非対称性を増幅して付加価値の最大化を図る「ファッションシステム」を武器とする。「現実を売るビジネス」は顧客に生活消耗品としての衣料品・服飾品をお手頃な価格で提供する“コモディティビジネス”であり、適時・適品・適量供給で需給ギャップと流通コストを最小化する「サプライシステム」を武器とする。

 

■既成ビジネスモデルに未来はない

 両者の間には中間的なビジネスも多く存在したが、資本主義社会が資本とプラットフォームによる搾取を強め中産階級が崩壊していく中、どの国でもマーケットが両極化して中間的なファッションビジネスは衰退していった。ラグジュアリーブランドとロープライスSPAがその両極であり、最も衰退したのが百貨店NBだった。

敗者となった百貨店NBは法外な流通コストで割高感が極まって顧客が離れ、相次ぐ百貨店の閉店や不採算売場の撤収で販路が狭まり、近年は「ハイブリッド化」という定借テナント構成シフトで売場が激減している。事業ロットを維持できなくなって廃止に追い込まれるブランドも続出しており、『半分はECで売る』と百貨店に見切りをつける大手アパレルも出てくるなど、百貨店NBの絶滅は時間の問題となっている。

それは勝者となったはずのラグジュアリーブランドやロープライスSPAとて大同小異で、近年は優劣が開いて脱落する企業も増えている。

成功したラグジュアリーブランドはグローバル共通の流通体制を確立しているように思われているが、現実にはほとんどのブランドは国ごとに独資直販だったり代理店依存だったりライセンシングだったりと流通体制が異なる。世界共通の流通体制を整えた例外的なブランドとて各国の独資現地法人間でオンデマンドな在庫融通が行われているわけでもなく、コレクション発注に基づく計画生産を出るものでは ない。非効率な流通のコストとロスを法外な価格に転嫁して収益を確保しているのが実態だ。

お手頃なグローバルSPAにしても、ZARAを除けばリードタイムが長い大ロット見込み生産品をダム型サプライで売り減らすプロダクトアウト体質のままで、企画・開発はデジタル化が進み始めているが、IoTなオンデマンドサプライなど実験段階を出ていない。非効率な流通のロスを大ロットの低コスト調達と低賃金の人海戦術でカバーして収益を確保しているのが実態だ。

「夢を売るビジネス」も「現実を売るビジネス」も販売から生産まで一貫して需給ギャップを最小化するオンデマンドサプライにはほど遠く、在庫の大量廃棄や階級的労働搾取などサスティナブルの理想にも遠い。ならば、それらを実現する「第三のビジネス」とはどのようなものだろうか。

 

■C2MかVMIかという両極の選択

私はそれにも両極の可能性があると思う。ひとつは自らIoTなデジタル生産でC2Mなオンデマンドサプライを構築すること、ひとつはベンダー機能を活用してオンデマンドサプライを実現するVMIという選択だ。

 C2Mオンデマンドサプライは消費(発注)先行で短納期生産する“無在庫販売”の仕組みで、パーソナルな発注に即応するIoTなデジタル生産が求められる。生産仕様データと素資材背景が揃わないと成り立たないから、必然的にアイテムや仕様を絞った受注生産やPO(パターンオーダー)になる。多数のアイテムや多様なデザインから短納期生産するのは極めて非効率でコストも高くなるから非現実的だ。短納期には消費地生産が理想だが、国内の遠隔地より近隣国沿海部のデジタル化された工場の方がコストと速さが見合う場合もある。

それでも3Dプリント生産でもない限り顧客に届くまで1週間近くは要するから、短納期を追求するならミニマム在庫を短サイクル生産で補充する「擬似受注生産方式」が現実的だ。色柄・サイズのフェイス在庫を国内工場の短サイクル生産で補充する(柄替えしてサイズ補充するのが肝)メーカーズシャツ鎌倉が代表的だが、ユニクロの「オーダーメイド感覚」サイズセレクトサービスでも2000超のサイズから選択して正午までの発注なら当日出荷している。

VMI(Vendor Managed Inventory)とは、予め取り決めた「棚割」(商品の陳列配置とフェイシング量)を期間を定めて維持するようベンダーに補充を委託するものだ。EDIで販売数を自動発注する段階からアルゴリズムで販売数を予測する段階へ進化しているが、ベンダーが補充出荷と補充生産の乖離を埋める備蓄在庫で欠品を防止するのは変わりない。店頭在庫と倉庫在庫の違いはあるものの、ミニマム在庫を短サイクル生産で補充するという点は「擬似受注生産方式」と共通している。ベンダーが備蓄在庫に頼るか短サイクル生産に徹するかは生産ロット/コストなどベンダー側の体制もあるが、小売側のサプライ思想にも左右される。

 

■小売業かメーカーかスタンスを徹底すべき

 中産階級が崩壊し少子高齢化で女性の社会戦力化が進むと“お洒落”の社会的意味が失われてコモディティ化が加速し、単価が落ちTPOが崩れ買い替えサイクルも長期化してマーケットの萎縮が止まらなくなる。サブスクリプションやリサイクルの拡大が、それに輪をかけているのは言うまでもない。

ファッションビジネスがここまで追い詰められると、小売業かアパレルメーカーかスタンスの中途半端な企業は生き残りが難しい。SPAと称し製品調達して売り減らしているような企業はアパレル系でも小売系でも抜本的な転換を迫られることになる。

 小売業なら顧客利便と品揃えを最優先にベンダーの企画機能とサプライ機能を活用するVMIへ向かうべきだし、メーカーなら商社に依存した製品調達を脱して自ら生産ラインからのサプライチェーンを確立すべきだ。VMIは定番的な商品とは限らず個性的な商品の別注VMIという新機軸も期待されるし、サプライチェーンはデジタル化と工賃払い調達による短納期オンデマンド体制が望まれる。

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