小島健輔の最新論文

現代ビジネスオンライン
『フォーエバー21が撤退! 「Xデー」に怯える商業施設関係者たち』
外資系チェーンの撤退が止まらない
(2019年05月15日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

閉店と売上減少が続く「フォーエバー21」

 『「フォーエバー21」が撤退』と聞いて血の気が引いた関係者もおられると思うが、とりあえずは日本市場ではなく中国・台湾市場から撤退したというお知らせだ。3月末で台湾での営業を終了し、4月末で北京や上海、深圳の店も閉め、オンライン店舗も閉鎖したそうだ。
 市場規模も成長性も格段に優る中国市場から撤退したのだから、衰退著しい日本市場にしがみつく理由はないと思うのが真っ当で、Xデーはいつかという話になってしまう。
     

01〔photo〕gettyimages

     

 09年4月末に上陸して16年末には20店を展開していたのに、17年10月に上陸一号店の原宿旗艦店を閉めたのを含めて、17年中に5店舗(他にららぽーと東京ベイ、ダイバーシティ東京、イオンモール和歌山/各務原)を閉店しており、15店に減少している。現存する店舗は路面6店(札幌大通り、新宿、渋谷、名古屋栄、福岡天神、大阪道頓堀)、イオンモール3店(京都、広島府中、沖縄ライカム)、フォーラス1店(仙台)、ビブレ1店(三ノ宮)、ららぽーと2店(横浜、新三郷)、コクーンシティ、ルクアイーレだ。
 フォーエバー21は非上場で本社決算も日本国内売上も公表していないが、無理やり推計すれば売上のピークは14年1月期の220億円強で、19年1月期は140億円程度まで減少したと見る。
 損益は知るよしもないが、営業損益はトントンでも閉店損失を差し引けば経常赤字に陥っているのではないか。となれば損失を最少に抑えられる撤退タイミングを探っていると勘繰りたくもなる。
     

撤退が相次ぐ外資アパレルチェーン

     
 外資アパレルチェーンの撤退というと12年に進出して17年1月末で全53店舗を閉めて撤退した「オールドネイビー」が想起されるが、15年1月の「トップショップ」(撤退時5店舗)、16年末の「アメリカンアパレル」(同3店舗)、16年8月の「モンキ」(同2店舗)、15年5月の「ウィークデイ」、15年3月の「イーランド」、16年12月の「チャールズ&キース」(シューズ/18年再上陸)など枚挙にいとまがない。
       

 02〔photo〕gettyimages

     
 「フォーエバー21」以外にも全店撤退や不採算店整理が危ぶまれる外資(合弁も含む)アパレルチェーンは一つや二つでないのはギョーカイ常識で、商業施設側でも覚悟を決めて対策を準備しているようだ(前段に大幅な賃料交渉が入ることが多い)。
 なんで日本でも中国でも外資アパレルチェーンに逆風が吹いているのか適当なことを言っている記事が多いが、トレンド使い捨てのファストファッションはリーマンショックを契機としての途上国の市場化サイクルに花咲いた一過性の徒花に過ぎなかったし(ベーシック生活衣料の「ユニクロ」や「無印」は対極のスローファッション)、もとよりアパレルはローカルなものでローカルフィットに対応しないアパレルチェーン(本格的なジャパンフィット対応は「GAP」のみ)が異国に定着するには無理があった。
 アパレルのテイストやフィットはエスニックによる相違が大きく、コーカソイドはアングロサクソン、ラテン、アラブ、モンゴロイドも華南系と華北系に分けて対応する必要がある。グローバルSPAでも「H&M」は長身のアングロサクソン、「ZARA」はグラマラスなラテン、「フォーエバー21」や「ユニクロ」はモンゴロイドをベースとしているが、前者は漢民族的な華南色が強く後者はツングース的な華北色が強い。
 急速にイージーケア化、ゆる抜けフィット化する我が国アパレル市場のローカル化は欧米チェーンの対応能力を超えており、17年以降は既存店売上を大きく落とすチェーンが大半になっていた。販売効率を比べても、一番高効率な「ZARA」でも「ユニクロ」(18年8月決算期で28.6万円/月坪)の5〜6掛け、他は4掛け前後という体たらくで、「オールドネイビー」など3掛けもきびしかったと聞く。「フォーエバー21」が「ユニクロ」の何掛けか想像にお任せするが、「H&M」と大差ないことは間違いないだろう。

すでに縮小・撤退モード

主要外資アパレルチェーン5社の合計売上(当社推計)も15年の2626億円がピークで、17年以降は既存店売上が落ち込んで売上の減少が加速し、18年は2167億円とピークの8掛け強まで萎縮している。販売不振に加えて不採算店の閉店減損も各社の収益を圧迫しており、日本事業の維持が苦しくなっているチェーンが大半だ
     

03

     
 商業施設店舗のみならず都心の路面旗艦店でも退店をチラつかせての家賃減額交渉、あるいは定借契約の非更新通告が広がっており、外資アパレルチェーンの多くはすでに縮小・撤退モードに転じている。
 本社の方針次第で日本市場撤退あるいは旗艦店とECだけに絞り込むC&C(※)が決断される公算が高く、出店している商業施設など関係者はXデーに怯えているのが実情だ。
 ※C&C(クリック&コレクト)……顧客にとってはECで店舗在庫を確保してお試ししたりECで注文して店舗で受け取ったり返品したりという利便(当然、送料不要で速い)、販売側にとっては店舗在庫をEC注文に引き当てて店舗で渡したり店から宅配出荷して在庫効率を高め、EC注文品を倉庫から店舗に一括配送して宅配外注費を格段に圧縮する効果が大きい。
         

04

 

 

論文バックナンバーリスト