小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『VMDを再構築して販売消化と人時効率を高めませんか』
(2024年08月15日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 

 アパレル業界でVMDと言うと「陳列演出」という受け止め方が大勢だが、作業量の実勢から見れば「在庫運用マテハン方式」と捉えるべきで、方式次第で店舗の運営人時量も販売消化も大きく左右される。高単価のブランドショップやセレクトショップから低単価のファストファッションや量販チェーンまで、MDとサプライによってどの方式が適しているか考察してみたい。

 

■VMDの基本は陳列演出とマテハン効率の両立

 言うまでもなく「VMD」はVisual Merchandisngの略で、商品展開計画の店頭演出表現であると同時に、商品展開計画どおりに在庫を投入・陳列・販売消化していく店内在庫運用のマテハン(Material Handling)作業でもある。ECサイトでもVMDは重要だが顧客別検索最適かつロングテールで、何より店頭のようなマテハン作業を伴わないからCRMの一環と位置付けられよう。店頭のVMDとは異質だから、本稿では対象としない。

VMDは商品展開とサプライの特性に適した陳列演出表現とマテハン効率の両立を図るもので、陳列演出が稚拙では売り場の魅力を削いで販売効率の足を引っ張り、マテハン効率が低いと作業に時間を取られて接客販売を阻害し人時効率も落ちる。陳列演出とマテハン効率を両立しないと利益が稼げず、店舗スタッフの報酬も低位にとどまらざるを得ない。

言葉通りマーチャンダイジングを「視覚化」運用するものだから、マーチャンダイジング(商品編成が時系列に売り場を流れていくストーリー)の特性と一致する必要がある。視覚のみならず五感に訴求するエンバイロメンタルなVMD手法も否定しないが、マテハン効率とは絡まないので本稿では言及しない、マーチャンダイジングが各社様々であればVMDも様々だが、半世紀に渡って国内外有力アパレルのVMDを研究して来た筆者から見れば幾つかのパターンに類型化できる。

 

■コモディティ作業を集約効率化してバリュー作業に集中

 店内作業でも接客販売や陳列演出は売上に直結するバリュー作業だが、品出しや陳列整理、在庫管理は売上との相関が弱いルーチンのコモディティ作業(店内物流・管理業務)だから、後者を抑制して前者に注力できるようVMD方式や在庫管理方式を仕組む必要がある。

 在庫管理の人時量を抑制するには一括読み取りも絶対単品認識も可能なRFIDタグが不可欠であり、導入すればレジ精算のセルフ化も未精算品持ち出しの防止も迷い子品の回収(RFIDレーダー使用)も容易になる。食品などに比べれば単価の高いアパレルでは格段に手頃になったRFIDタグは十分にコストに見合い、防犯機能と一体化すれば費用対効果はさらに高まる。

マテハン作業人時量の抑制には品出しと陳列整理の定時集約が最も効果的で、品出し時間の定時集約に加え、閉店後の陳列整理・迷い子戻しを翌朝の品出し時に移行するだけで人時量は確実に削減できる。さすれば、欧米の一部アパレルチェーンのように専門チームに品出し陳列作業を任せ、販売職を開店前後や閉店前後のコモディティ作業から解放して、接客が集中する時間帯にシフトを集中させることも出来る。

マテハン作業の組み替えや職能分業は店舗規模が大きくないと効果が限られるからMD編成の大型化やブランド統合が求められるが、高販売効率なら小型店舗でもストッカーなどマテハン作業の切り分け(バイトや物流業者活用)は可能だ。

 同じ作業を行うにしても、誰が何時、どの順序、頻度で行うかで人時効率は倍ほども変わってくる。店舗スタッフを一律に「販売員兼マテハン作業員兼キャッシャー」と扱うのは、貴重な大型トラック運転手に荷待ちや荷積み荷下ろしを強いるのと大差ない愚行ではないか。24年問題(運転手の残業時間規制)に直面する運送業界に匹敵するほど店舗人材が逼迫するまで、経営陣の認識は変わらないのだろうか。 

 

■MD特性に適したVMD方式

 『「値下げ」を適正化する仕組みとスキル』(本誌6月26日掲載)で詳説したように、「継続販売の縦売り商品」と「スポット販売の横売り商品」はサプライもVMD手法も値引きや売り切りの在庫運用も異なる。これを基本に生産・調達体制と価格帯をクロスすれば、VMD方式は以下の6タイプに類型化できる。

 

1)計画生産のコレクションMD

 オリジナリティや完成度を追求するブランドビジネスの古典的なMDで、シーズン中のストーリーを素材とカラーが紡ぐ精緻なコレクションに組み立てて計画生産し、定番アイテム以外はデリバリー順に蒔き切り(DCに補給在庫を積まない)で投入する。シーンやテーマで陳列ラックが編成され、同一シーン/テーマで投入されるアイテムはスタイリングやカラーパレット(素材が切り替わって明彩度が立体化する)がリレーされるから、トコロテン運用※でも予定調和が成立する・・・と言うのがコレクションMDのVMDだと思われる。

 薄い蒔き切りでも予定通り消化しない商品がラックに沈澱していくから、鮮度が落ちたりスタイリングやカラーパレットが外れた商品は一旦、後方に格納して各ラックの鮮度と予定調和を保つ。いわゆる「定数・定量陳列」だが、予定調和を保つ美術的VMDセンスを欠くと凡庸なトコロテン運用になってしまう。

後方に格納した商品は接客で取り出して販売消化に努めるが、売れ残れば期末のセールにかけるかアウトレットに回すことになる。後方に格納せず好調店に店間移動したり、DCに戻して期末のセールまで保管するという運用もあるだろう。

 予定調和をリレーするトコロテン運用はセレクトショップも同様で、運用にはスタイリング提案のセンスと美術的構成表現力が問われるからスキルのある人材が必要だ。計画生産の縦売りMDのようにパート&バイト中心の低コスト運営は難しく、客単価が高くないと採算が取れない。やや大味にはなるが、「ZARA」(素材軸の小ロット短納期生産・蒔き切りMD)もシーンやテーマ、カラーリングをリレーするトコロテン運用は共通している。

※台帳運用とトコロテン運用・・・・台帳運用は品番/カラー/サイズのラインナップを各SKUのフェイシング量と視覚的効果を考慮して陳列配置設計(棚割り)し、フェイシング管理・補充で維持していく縦売り型のVMD手法。トコロテン運用はシーンやテーマ、カラーパレット、アイテムなどでまとめた陳列ラックを一定の配列ルールで維持するが、中身の商品は入れ替わっていく横売り型のVMD手法。台帳運用は本部指示で標準化が容易だが、トコロテン運用は各店舗の在庫状況と運用スタッフのスキルに左右される。

 

2)計画生産の縦売りMD

 素材から開発した定番的商品を低コストに大量計画生産して多段ダム式(生産地出荷倉庫/消費地DC/店舗後方/売場)に備蓄補給し、シーズンを通して継続販売する縦売りMD。素材を抱えて期中にカラー/サイズバランスの補正生産を行うケース(ユニクロの「カスタムオーダー」が好例)もあるが量的には限られ、全体としては計画生産の売り減らしを出るものではない。

素材軸でカラーやサイズ、デザインのSKUラインナップを広げて素材ロットを最大化(=調達コストを最小化)し、そのSKU構成を視覚効果ある台帳運用型陳列フェイスに組んでフェイシング管理・補充で維持していく。「ライフウエア」を謳って大スケールの単品MD=VMDを展開する「ユニクロ」に象徴されるが、元々は米国スーパーマーケットのグロサリーに発してGAPなどのSPAチェーンに広がったMD=VMD手法だ。

視覚効果を追えば量感とカラー配列が優先されるが、購買選択をスムースに誘導し、販売消化に見合ったSKU別のフェイシング(陳列)量※を設定する必要があり、フェイシング管理※補充のマテハン作業量も配慮しなければならない。ニットやスウェットではカラー優先配列、スカートやパンツではサイズ優先配列、紳士スーツでは身長➡︎カラーグループ➡︎デザイン➡︎ドロップが基本だが、MDの組み方次第で購買選択の誘導手順(=陳列階梯)は違ってくる。

インパクトある棚割りを志向すれば重在庫になり、フェイシングを維持・補充するマテハン作業量も嵩む。フェイシング量を抑制すれば在庫は軽くなるが、補充頻度が高まってマテハン作業量は返って増えてしまうから、店舗毎の販売消化力に応じてフェイシング量を変えたタイプ設定が行われる。標準タイプに対して高効率大型店向けのダブルタイプ、低効率小型店向けのハーフタイプなどが一般的だが、カラーバランスを変えたメトロタイプとカントリータイプなどの仕分けも見られる。

ハンガー陳列(FO/SO※)に比べ畳み陳列(FD※)は何倍ものマテハン作業量を要するからFDは必要なアイテムやデザインに限定するべきで、主婦パートのマテハン効率を重視する「しまむら」(当用調達・小ロット蒔き切り・横売りMD)では原則的に禁止しているようだが(店頭で見たことがない)、若い店舗スタッフの体力に依存する「ユニクロ」では目一杯活用されている。マテハン効率の差は一人当たり保守面積の差(「しまむら」は145.3平米、「ユニクロ」は38.3平米)になり、販売効率の格差はあっても、セルフレジ活用の有無はあっても(「しまむら」は未だバコードスキャンの有人レジ)、一人当たり売上は「しまむら」(4675.6万円/24年2月期)が「ユニクロ」(3476.6万円/23年8月期)を34.5%も凌駕する。

 

※フェイシング量とフェイシング管理・・・・SKU毎の陳列数量をフェイシング量と言い、欠品しないよう陳列フェイスを点検して補充し、棚割り配置の乱れを直すのがフェイシング管理。フェイシング管理の頻度は販売消化にスライドするが、集約定時化が必定。衣料品では数量と棚割り配置しか管理しないが、食品では賞味期限・消費期限の点検と期限品の抜き上げが加わるから作業負担が大きい。

※FO(Face Out)は正面見せのハンガー陳列、SO(Sleeve Out)は肩見せのハンガー陳列、FD(Folded)は畳み陳列。

 

3)アイテム特化の短納期リレー生産MD

 ドレスシャツやパンツ、スウェットやニットなど、特定アイテムに限定して備蓄素材からオンデマンドな短納期生産を繰り返していくシングルライナーMDで、縫製や染色といった最終工程産地が消費地に近接していることが必要だ。かつては輸入糸を国内産地で染色して編み立てるニット、生機を国内産地で染色して縫製するコートやスカートの短納期生産も成り立っていたが、産地の機能崩壊とともに難しくなった。今日でも機能しているのは、国内工場で縫製するドレスシャツや備蓄ボディにプリントするTシャツぐらいではないか。

 短納期リレー生産のシングルライナーMDはアイテムによってMDの組み方とリレー方式が異なり、独特のVMDが成立することがある。70〜80年代のニット・シングルライナーでは色環表順のカラートコロテンVMDが成り立っていたが、今日でもイッセイミヤケの「プリーツプリーズ」(合繊布帛素材のプリーツ加工コンポーネンツMD)などに見ることができる。

ニット・シングルライナーでも「ベネトン」は計画生産の縦売りMDで、シーズンコレクション買取発注のFCに半年分の補給在庫を抱えさせて売り減らす古典的な欧州方式だった。「ユニクロ」にも通ずる素材別のカラー陳列はインパクトがあったが、台帳陳列はシーズン初期だけで、実態は在庫を押し出していくトコロテン運用だった。

今日の我が国でも短納期リレー生産MDが機能しているのが、国内ファミリー工場に素材を備蓄して週サイクルに品揃えを補完生産する「メーカーズシャツ鎌倉」ではないか。襟型別のサイズボックス(首周り×袖丈)毎に無地と柄のシャツが陳列され、顧客が自分のサイズボックスから色柄を選択するよう誘導するVMDで、サイズボックスは中心サイズで3〜4ボックス、周辺サイズで1〜2ボックスが割り当てられる。

サイズボックス毎に無地色とストライプなど色柄の消化速度が週サイクルに管理され、不足する色柄に近似する備蓄素材からサイズ毎に必要な数量がオンデマンド生産される。トラッド感覚のオフィサーシャツ(本来のドレスシャツよりややカジュアル)ゆえ熟年層の固定客が多く、同じスタイル・同じサイズで色柄を買い足していく購買慣習に対応する仕組みで、最盛期は年間に20回転もしていた。

今日でもパターンオーダーでは週サイクルの受注生産が成り立っているから(国内生産または中国生産の空輸)、素材背景があって生産仕様が確立されCADCAM連携が機能し、そのアイテムに適した購買誘導のVMDと連携するなら魅力的な仕組みだと思う。

 

4)素材軸の小ロット短納期生産・蒔き切りMD

 短納期生産でも、アイテム軸ではなく素材軸の蒔き切りMDやリレーMDはグローバルSPAでもっと大規模に行われている。その最たるものが「ZARA」を主力とするINDITEXで、大量調達した素材を自社の染色整理工場で面を変えて段階的に投入し、ミルクラン圏(近隣国)生産で素材の低コスト調達と製品の小ロット短納期生産を両立させている。コロナ後はアジア圏でのカジュアル単品生産を圧縮して短納期生産可能な西アジアに振っているが、近隣国(スペイン、ポルトガル、モロッコ)のミルクラン圏生産は週サイクルだから時間と完成度で突出している。

 そんなINDITEXのVMDはシーンやテイストで区分したブロックの中をカラーパレットやスタイリングのコーナーで編成し、蒔き切り商品を次々に投入してトコロテン式に売り切っていく方式だ。新投入商品は各コーナーの前面に「出前」陳列され、次の新商品投入に伴ってコーナー壁面の「元番地」に移動するが、新投入商品とコーデイネイトして再登板することもある。

売り切れないで鮮度が落ちた商品は売価変更で消化が図られるが、それでも売れ残ると「元番地」からも外され、後方ストックで再登板の機会を待つことになる。売価変更のタイミングはともかく、この運用方式はセレクトショップとも共通する専門店の古典的スタンダードだ。

 INDITEXはFC店を並行(24年1月期でも店舗数の19.4%、売上高の15%を占める)することもあって、各店舗の部門マネージャーによる週次のオンライン数入れ発注制で、短時間で競り切れる小ロット(主力の「ZARA」でもデザインもので1〜2万点、定番的な単品でも4〜6万点)しか供給しないから売れ残る数量も限られる。各店発注の成果報酬制だから店間移動はないはずで、不振店舗では売価変更で消化を図ることになるが、値引きが予算を超えればマネージャーの成果報酬に響く。

 

5)短サイクル企画・短納期調達・横売りMD

 トレンドに即応して短サイクルに企画・短納期調達して売り切っていく、いわゆるファストファッションMD。CADCAM連携の小ロット生産でないと前工程を含めたリードタイムが長くなり、補給在庫を備蓄すると販売消化にも手間取るから、小ロット生産の蒔き切りが鉄則で、どちらも踏み外したH&Mの消化回転(23年11月期で2.88回)や歩留まり率(調達小売売価に対する実現売上売価の比率)が低迷するのは必然だ。ファストファッションと言っても、H&Mのように生産ロットが数十万点にもなると素材の確保〜縫製/編み立てに数ヶ月を要し、消費地のDCに店頭在庫を上回る補給在庫を積み上げてはファストに回るはずもない。

 その対極にあるのが韓国東大門など生産地の卸市場調達によるキャリー仕入れで、渋谷109の最盛期には週サイクルでSEOULに飛んで、年間24回以上も在庫を回すファストMDも珍しくなかった。その大規模DX版が広州産地を背景とする「SHEIN」など中国系産直越境EC事業者で、AI活用のファスト企画、PDM(Product Data Management))デジタルプラットフォームによる生産仕様・コスト・納期の迅速な擦り合わせとCADCAM連携、AIモデル着装画像の先行掲載などで徹底してリードタイム(=需給ギャップ)を圧縮しており、受注先行の無在庫経営が成立している。

 シーンやテイスト、スタイリングやアイテム別のコーナーを編成し、蒔き切り商品を次々に投入して売り切っていくトコロテン運用、小ユニット「出前」の短サイクルな交代と「元番地」戻しは「ZARA」(素材軸の小ロット短納期生産・蒔き切りMD)とも共通するが、素材軸が通底していないからテイストや品質感が揃わず雑多な印象(「おもちゃ箱」と肯定する受け止め方もある)は否めない。「ZARA」が洗練されたプロのステージとすれば、これらのファストMDはJKの学芸会のノリと比喩しても良いだろう。ネットバブルに価値観が多様化する今日では、前者を押す顧客もいれば後者を押す顧客もいるのは当然だ。

 店舗販売では産直越境ECのようなタイムマシンサプライ(受注してから生産する無在庫サプライ)は成り立たないから、週次の生産サイクルで在庫リスクを1週分に抑えるのが限界だが、「地産地消」なら難しくないのではないか(国内産地でもリーマン前までは成立していた)。

 

6)当用調達・小ロット蒔き切り・横売りMD

 シーズンに先立つ先行発注を最小限に抑え、当用仕入れで月次あるいは週次の売上と仕入れを擦り合わせていく小売商売の定石で、薄い蒔き切りを繰り返して売れ筋要件をリレーしていく回転志向の横売りMDだ。中小零細店では成り立っても大規模チェーンでは難しいと思われてきたが、慢性的過剰供給の我が国アパレル流通では立派に成り立っている。「しまむら」を筆頭に「パシオス」(田原屋)や「パレット」(4℃傘下のアージュ)、異色の「サンキ」(三喜)も堅調で、ユニクロ症候群に罹患してSPAに走った量販店衣料品とは明暗を分けている。

 小売側が当用調達に徹する分、サプライヤー側は先行して素材や企画を仕込み、少なからずリスクを負担して注文に応えるから、アパレルの納入掛け率は60〜62%と、先行発注ロット買取の量販店衣料部門の48%前後、ODMサプライヤーから企画仕入れするバイイングSPAの34〜36%と比べれば格段に値入れは薄い。それでも当用仕入れで需給ギャップが小さいから値入れと粗利益の乖離が小さく、ローコスト運営で販管費率も低いから安定した利益が残る。SPAがハイリスク・ハイリターンとすれば、当用仕入れ衣料店はローリスク・ミドルリターンと言って良いのではないか。

 当用仕入れ衣料店のVMDは、客層やシーン別に編成された売場の各カテゴリーの連結ラック内でラックの継ぎ目を超えてトコロテン運用していくもので、ハンガー陳列に徹する限り極めてフレキシブルだ。トコロテン運用では配列階梯が購買誘導の要で、投入初期の品番別から消化進行で欠品してくるとボトムはサイズ優先、ニットやスウェットはカラー優先に組み替えると消化が加速する。初めからサイズや色が欠けているオフプライスや古着のVMDもハンガー陳列のトコロテン運用が適しており、古着ではトップスの色環表順トコロテン運用、ボトムではサイズ順トコロテン運用が定石になっている。

今日の「しまむら」に近かった最盛期のイトーヨーカ堂衣料品は販売消化と在庫状況に即したフレキシブルな単品編集運用が秀逸で、「元番地」の配列組み換えのみならずカラー優先やサイズ優先で切り出した「出前」で消化を促進していた。そんな優等生がPOS依存の売れ筋集約で横売りのバラエテイと変化を損ない、数字だけを見た本部主導が現場の消化編集運用を否定して、坂を転げ落ちるように業績が悪化していったことは今日にも通ずる教訓ではないか。

 

■「元番地」と「出前」の運用はメリハリが肝心

「元番地」と「出前」の運用はどのVMD方式でも大なり小なり必要で、「ユニクロ」の新規投入主力商品などカセット丸ごと店頭の巨大テーブルに「出前」されることもある。計画生産の縦売りMDではカセット丸ごとの「出前」があっても、「元番地」がトコロテン運用される蒔き切りMDや横売りMDではコンパクトな「出前」を多数展開して短サイクルに入れ替えるのが効果的だ。

「出前」運用は期間を定めて交代することで鮮度を訴求するから、次の商品が「出前」される時は前サイクルで「出前」されていた商品はすべからく「元番地」に引き上げることが必定だ。グループアーチストのステージで、各チームが交互にセンターに出張るメリハリを想起して貰えば良いだろう。

単品「出前」では素材やアイテム、カラーやサイズ、時には価格での切り出し、コーディネイト「出前」では定型ルックの決め込みが肝要で、パワーアイテムや新鮮アイテムで売れ残りアイテムを消化ドライブする「出前」の多重露出も効果が大きい。

VMDは季節進行に伴うMD展開ストーリーの遂行が最大の目的(ブランディングも重要だが)で、消化と在庫の趨勢、天候や市況を掴んでの営業的判断はもちろん、コーディネイトのセンスやトレンド感度、美術的スキルも問われる。現場の運用を積み重ねて自社に最適なパターンを確立し、研修とマニュアル化を繰り返して現場の遂行力を高めていくべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

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