小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『ユニクロ、ZARA、しまむら、ワークマンを比較!在庫はどこに置くのが正解か?』
(2024年09月18日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 在庫は利益とリスクが背中合わせだから最速な販売消化が求められるが、流通過程から店頭まで「どこに置くか」で消化速度が大きく変わる。SPA型から仕入れ型まで、チェーンストア衣料品の在庫配置運用の

「正解」を探ってみた。

 

■前進配備か後方配備か、分散配備か集中配備か

 在庫は倉庫に寝かせていては販売機会がなく、売場なりECサイトに並べてあげないと販売消化が望めないが、前進配備・分散配備に偏れば販売状況の変化に対応できず、後方配備・集中配備に偏れば販売機会が限定され機動対応に遅れをとってしまう。前進配備と後方配備、分散配備と集中配備のバランスは戦場での勝敗を左右するロジスティクスの基本であり、チェーンストアやECプラットフォーマーの物流戦略も同様だ。 

 チェーンストアは集中調達・分散配備を基本として来たが、鮮度が問われる生鮮食品や日配食品、惣菜・弁当では地産地消のリージョナル分散調達が大勢となり、ECプラットフォーマーも宅配リードタイムと物流コストの圧縮を狙って後方集中配備から前進分散配備へ移行している。食品・飲料など品目変化が緩やかなコモディティ商材では前進分散配備を進めても、アパレルなど品目変化が速いトレンド商材は後方集中配備を変えていないが、小売チェーンがOMOで店舗の出荷・受け取り拠点化を進めれば、トレンド商材も前進分散配備を強いられるようになる。

OMOの究極はウォルマートやインディテックスが到達した店舗の出荷・受け取り拠点化という前進分散配備であることは言うまでもないが、実際の運用ではローカル出荷店舗(同時に在庫供給母店)の限定と受け取り店舗へのテザリング(在庫供給)という集中配備と分散配備の連携が図られている。これはOMOが先行した英国のアルゴス(ショールーム通販)が早くから確立していたロジスティクス※で、我が国のヨドバシカメラにも近似した運用が見られる。

チェーンストアは面の制圧というローカルドミナント戦略が基本だが、顧客接点(店舗)の分散配備による顧客の囲い込みと売上確保、在庫の前進集中配備による補給の機動性という、一見は相反する仕組みを相乗させる必要がある。食品物流における惣菜のリージョナルPC(Process Center)とローカルデポ(TC)も似たような役割を果たしているのではないか。

※筆者の旧著『店は生き残れるか ポストECのニューリテールを探る』(2018年、商業界刊)に詳しい。

 

■在庫の配置場所は最大4段階

 では、アパレル流通における具体的な在庫配備はどうなっているのだろうか。SPA型のケースとして「ユニクロ」と「ZARA」、仕入れ型のケースとして「しまむら」、VMIのケースとして「ワークマン」(「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」は仕組みが異なる)を取り上げよう。

 

 大衆価格と品質の両立を図る定番縦売り型SPAの「ユニクロ」は、低コストな海外(オフショア)産地での大ロット計画生産ゆえリードタイムが極めて長い。販売時期や品揃えの異なる各国市場に対応すべく生産地の出荷倉庫(消費地倉庫より賃料負担が格段に軽い)に貯め置き、各国市場の販売時期に合わせて消費地の倉庫(在庫保管型のDC)に移送する。各店舗の販売時期(地域で多少異なる)に合わせてDCから店舗に出荷するとともに補給を担い、店舗のバックヤードにも補給在庫を積んで、棚割り設計した色・サイズの揃う「元番地※」カセットを売場に配置する。定番継続縦売り型ゆえ「ユニクロ」は売場のほとんどを「元番地」カセットで編成し、「出前」は店頭の巨大テーブルやクロスジェンダー提案※などに限定される。

シーズン初期は生産地出荷倉庫の在庫が過半を占めてもシーズンの進行とともに消費地倉庫に移るが、消費地在庫のうち店舗に40%、DCに60%、店舗在庫のうち売場に70%、バックヤードに30%ぐらいのバランスだと推察される(過去の開示データから)。生産地の出荷倉庫から売場の「元番地」まで実に4段階(「出前」を加えれば5段階)を経て販売されるわけで、売場に陳列されている在庫は生産量の4分の1程度ということになる。

欠品させないことが最優先される定番商品縦売り型ゆえ、在庫回転は2.85回(23年8月期ファーストリテイリング連結)とスローだが、それで高収益を確保するビジネスモデルが成立している。後述する「ZARA」は時間を買ってファストサプライを実現しているが、「ユニクロ」は完成度の高い定番商品で時間を超越する(持ち越しても販売できる)ビジネスなのだろう。

※「元番地」と「出前」・・・「元番地」は色・サイズが揃ってフェイシング管理する棚割り陳列、「出前」はそこから特定の狙いで切り出して訴求する打ち出し陳列で、アパレルの場合、トルソーとT字(2ウェイ)やショートシングルのコンパクトなものが多いが、テーブルを組み合わす大型のものもある。「出前」だから一定期間が過ぎれば残在庫を「元番地」に戻し、新たな「出前」で鮮度を訴求する。

※クロスジェンダー提案・・・ユニクロではメンズ商品をウィメンズ売場に、ウィメンズ商品をメンズ売場に、T字やショートシングルで品番単位に持ち出してクロスジェンダー提案を行うことがある。

 

ファストな蒔き切り横売り型の「ZARA」はトレンド鮮度を訴求すべく商品企画から店頭まで「時間」を切り詰めるから、在庫は売場に至るまで何処にも留め置かれることがない。近隣圏ミルクラン生産品※からアジアのオフショア生産品まですべからく本国のカテゴリー別セントラルTC※に集められて物流加工(防犯機能一体のICタグもここで付けられる)・仕分けされ、スルーで世界の店舗に空輸(近隣国はトラック便)される。各国にはTCもDCもFCも置かず店舗ダイレクトに納品され、EC受注品も顧客に最短店舗の在庫が引き当てられて店から出荷、あるいは店で顧客に渡される。

在庫が置かれるのは店舗だけだが、新商品が打ち出される島面の「出前」(「ZARA」の場合は色数が限られる小型のルック訴求ユニット)、「出前」から戻した商品がトコロテン式に入れ替わっていく壁面の「元番地」、値引きしても売れ残って「元番地」から引き上げた在庫を保管するバックヤードの3段階で運用されており、バックヤードから取り出してコーディネイト販売するのはセレクトショップとも共通する。FC店も並行する各店発注売り切り責任制なので原則、店間移動はないはずだが、期末セールを経ても売れ残った在庫が何処に行くのかは私にも分からないミステリーだ(タグを切って二次流通に放出されるという業界伝説は聞く)。

流通過程の何処にもに在庫を留め置くことなく最速で店舗に蒔き切るファストサプライゆえ在庫回転は4.93回(24年1月期のインディテックス連結、期初期末平均法)と、ファストファッションなのにリードタイムの長いオフショア生産に依存して消費地倉庫に店舗の1.5倍も補給在庫を積んで売り減らすH&Mの2.88回(23年11月期、同)と比べれば、在庫の流れは格段に速い。

※ミルクラン生産・・・自社工場でCADCAM裁断したパーツと副資材をフランチャイズ工場に供給して完成した製品を回収するルート便集配方式の生産で、インディテックスでは近隣国圏(スペイン、ポルトガル、モロッコ)に限られる。

※DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)とPC(Process Center)・・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTCで、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。PCは食品小売業において生鮮品や惣菜の仕入れと加工、包装、出荷を一括する地域拠点。

 

当用仕入れ蒔き切り横売り型の生活圏エッセンシャルストアとして不動の地位を確立している「しまむら」はサプライヤーの開発力と補給力(在庫負担力)の活用に徹しており、JB※さえも事実上のVMI※と推察される。

蒔き切り横売り型ゆえDCは存在せず、全国10リージョナル毎にTCを置いて、生産地で店タイプ毎にSKU数量を揃えたバンドルをオートソーターで仕分け、自社運営のルート便で夜間配送(ついでに店間移動品を回収・配布)している。薄い蒔き切りなのでバックヤード在庫も存在せず、在庫は売場だけに限定される。各ブロックのメインディスプレイや「元番地」ラック列のエンド陳列はあっても「出前」運用は見かけないから、在庫はトコロテン式に押し出されていく各カテゴリーの「元番地」に限定されている。

在庫は売場の「元番地」ラックでトコロテン式に消化回転していくだけだから、店間移動のピッキングやセール段階の売価変更と再編集があるとは言え、店内マテハン作業負担が軽く、突出した人時効率(一人当たり売上は4152.2万円と国内ユニクロを20%近く上回る)に繋がっている。流通過程の何処にも在庫を留め置かず、当用仕入れの薄い蒔き切りに徹して在庫回転は7.48回(24年2月期連結)と「ZARA」にも勝るが、12回転を超えていたリーマン前(07年2月期)には遠く、プロセスを仔細に見直して再構築する必要がある。

当用仕入れに徹する分、サプライヤーが補給用の見込み生産在庫や素材を抱えているケースがあるはずだが(FCが存在しないECはサプライヤー在庫に依存)、「しまむら」は相応する費用を負担しており(衣料品の仕入れ掛け率は62%前後)、無駄なく低コストなロジスティクスが確立されている。

※JB(Joint Private Brand)とPB(Private Brand)・・・小売業が仕様書発注して一括調達するPBに対してJBはサプライヤーが企画と補給を分担する協業開発。

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。

 

 川上のVMIと川下の買取型FC(実態は運営代行に近い)の両面で在庫リスクを限定する「ワークマン」(PB主体の「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」はVMIが効かない)だが、在庫はサプライヤーの倉庫、ワークマンのDC、FC店や直営店(実態は販売代行委任)の3段階に分散する。

 VMIだから補給在庫はサプライヤーが担い、買取型FCだから店舗在庫は加盟店が担うので、ワークマンの在庫リスクは限られるはずだが、生産仕様開発力を欠くバイヤーMDによる小売業の開発体制のままPB比率を7割近く(24年3月期で67.8%)まで高めてVMIが効かない商品が増え、シーズン性やファッション性があるカジュアルまで手を広げて在庫が滞貨し(3期でチェーン全店売上が19.5%増加する中で本部在庫は79.5%増加)、在庫回転は22年3月期の4.60回から24年2月期は3.38回に落ちている。

 ワークマンは24年3月期末で全国に1011店舗を展開しても、27年10月の岡山DCの完成までは関東、関西の2リージョナルDC体制だから、24年2月期末で国内に2185店舗を展開して10リージョナルのTCを軸に自社ルート便体制を敷くしまむらに比べれば、DCに在庫を積んで補給する古典的な後方集中配備体制を否めない。PB比率拡大でVMIが効かなくなり、シーズン商品やカジュアル商品が増えては「時間」を超越できなくなり(持ち越せなくなる)、DCのみならず加盟店の在庫も滞貨してFC体制が行き詰まるリスクが指摘される。VMIサプライと買取型FCで成立する「ワークマン」の事業モデルを崩さない業態へ、再構築が急がれるのではないか。

 

■在庫は途中の何処にも留め置かないのが「正解」

 在庫は何処にも溜め置かず清流のように流して最速で消化するか、時間をかけても完成度とお値打ちを高めて「時間」を超越する(賞味期限を長くする)か、両極の方法があるが、後者はブランドメーカー的開発体制が不可欠で、チェーンストア衣料品にとっては極めてハードルが高い。

後者を代表するユニクロにしても、定番縦売り型SPAの仕組みを確立したのはフリースブーム終焉のパニックを経て女性下着に開眼し、デザインチームを擁して生産仕様開発体制を築き上げた06年頃(06年8月期の連結売上は4488億円)で、リーマンショック以降のグローバルサプライウォーズにようやく間に合ったというのが実態だったのではないか※。売上規模の桁が違うアパレル小売業者が容易に到達できる事業モデルではなく、2010年以降、開発型SPA志向に転じたアダストリアも最大規模の「グローバルワーク」さえ516億円(24年2月期)にとどまる。

値の張るファクトリーブランドならともかく、大衆価格のチェーンストア衣料品にとって「時間」を超越するほどの完成度とお値打ちを実現するのは至難の業で、数千億円の売上スケールを前提とした開発体制※とサプライチェーンを築かない限り、到達は困難と思われる。ならば、在庫は途中の何処にも留め置かず最速で消化する仕組みを築くのが「正解」ではないか。

 

※筆者の旧著『ユニクロ症候群 退化する消費文明』(2010年東洋経済刊)に詳しい。

※7月24日掲載の『拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ』に詳説。

 

 

 

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