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『「店員の質は『棚』に表れる」 ウォルマート次期CEOがこの言葉に込めた真意』
(2025年12月22日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 世界最大の小売業ウォルマートの次期CEO、ジョン・ファーナー氏の紹介コラムが11月30日の日経朝刊に載っていた。前CEOに続くアルバイトからの叩き上げで、本社のあるアーカンソーの農場で育ち、地元大学の学費を稼ぐため園芸コーナーでアルバイトを始め、20代半ばで店長に昇格したとか。そのファーナー氏の口癖が『店員の質は「棚」に表れる』なのだそうだが、私も100%同感する。

 

■「棚」には全てが露呈する

 ジョン・ファーナー氏の言う「棚」とは売り場の陳列棚であり、具体的に言えば「棚割り」のことだと思われる。「棚割り」はそのカテゴリーの品揃えを一覧できるし、フェイシング管理がきちんと励行されていれば整然と整理され、欠品や賞味期限切れ商品の残留など無いはずだが、店員の質が低いと棚が乱れ欠品や賞味期限切れ商品の残留が生じてしまう。

 ジョン・ファーナー氏は「店員の質」と言ったが、シフトの混乱や教育訓練の不備、果ては定着率の低さなど「マネジメントの質」を指していることは疑う余地もない。「店員の質」と平易に表現しているが、その店舗の「マネジメントの質」、果ては企業の「ガバナンスの質」を問うているのだ。

 「マネジメントの質」「ガバナンスの質」は小売企業にとって生命線であり、「棚」にその乱れが露呈していれば、ライバル企業の幹部や仕入れ先はもちろん、いずれは地域の顧客やパート希望者にも気付かれるようになり、潮が引くように支持の水位が下がって業績に響いていく。「棚」の乱れを逸早く感知できるか否か、経営者にとって現場キャリアの厚みが問われる踏み絵だが、ジョン・ファーナー氏のようなノンキャリの叩き上げ経営者はともかく、金融やコンサルファーム出身のキャリア経営者にそれを期待するのは難しい。

 

■マーチャンダイジングもサプライも見える

「棚」から見えるのは「マネジメントの質」「ガバナンスの質」だけではない。マーチャンダイジングの構成と流れ、マテハンのプロセスはもちろん、ロジスティクスやサプライの体制も業界の玄人には透けて見える。

売り場全体の「棚」編成はマーチャンダイジングの構成とその流れのみならず、補給や販売消化の仕組みも露呈する。小売業のVMD(Visual Merchandising)で一番重要なのは「全体の一覧性」であり、カテゴリーごとの「棚」群の編成が流動的だと購買慣習が定着せず、一覧性が弱いと回遊購買が損なわれ、販売効率や消化回転に無視できないムラが生じる。

現実のVMDでは、各MDユニットのSKU編成を現す「元番地」(フェイシング管理する「棚割り」陳列)と、そこから店頭や主通路際、棚列エンドに編集して持ち出す「出前」から構成される。同一業態でも大型で高効率な店舗ほど「元番地」のSKUフェイシング量が厚く、「出前」の数も多く大きくなる。同一業態で標準店より大型店の方が販売効率が低いのは「出前」運用の仕組みとスキルを欠いているからだ。業態によっても「元番地」と「出前」の比率は異なり、継続販売する定番的商品が多いほど「元番地」比率が高く、短期間で売り切るシーズン商品やトレンド商品が多いほど「出前」の比率が高くなる。

ユニクロではほとんどが「元番地」で、「出前」は店頭の巨大2段棚による単品陳列か定型ルック※陳列と棚列エンドのサンプル陳列ぐらいしか見られないが、ジーユーになると継続販売するボトムを短期間売り切りのデザイントップスの下に多重「出前」※するパターンが常套手法で、コカ(coca)のウィメンズでも似たような手法が見られる。

ほとんどの品番が売り切りのファストファッション店では「元番地」が存在せず(補充しないからフェイシング管理も無い)、店舗スタッフが毎日のように新規投入品番と在庫品番を様々な定型ルックやモノルック※に組んで多重「出前」訴求しているから、島陳列のみならず壁面陳列も全て「出前」と言うことになる。アンドエスティHD(旧アダストリア)のジーナシスやローリーズファーム、パルのチコ(Chico)などが典型だと思う。

ほとんどが売り切り品番のしまむらではカテゴリーごとの棚(平台とフック什器以外の衣料品はハンガー陳列だが)配置を全店標準化して一覧性を堅持し、同一カテゴリーの什器列内でトコロテン運用(品番➡︎色➡︎サイズのハンガー陳列のまま品番が売れ代わっていく)している。トコロテン運用に見えてもJB(Joint Development Brand)はVMI※に近い補給体制が推察されるから、実はフェイシング管理する「元番地」だと思われる。しまむらでも肌着や靴下などのパッケージ商品はフック陳列をフェイシング管理する「元番地」で、客数相応のフェイシング数量を陳列しており、そこだけ見れば量販店衣料部門やユニクロと大差ない。

ちなみに、しまむらではコーナーや什器列エンドに持ち出してディスプレイはしているが、各品番の色やサイズを揃えた(色やサイズを意図して絞る手法もある)定型ルックやモノルックをT字や2Wayで通路際に「出前」する運用は全く見られない。しまむらにとっては賃料の高い「都心型店舗」(しまむら流の言い方で、アーバン※私鉄駅前・駅近店舗が実態)で相応の販売効率を稼ぐには定型ルックやモノルックの「出前」運用は必定ではないか。

※定型ルックとモノルック・・・ディティールは多少違っても同様なデザイン(各複数品番)のトップスやアウターとボトムを組み合わせるのが「定型ルック」で、同一デザイン(各1品番)の組み合わせは「モノルック」。ルックを定型化すれば客単価も客数も稼げる。

※多重「出前」・・・大量に仕込んだ価格政策アイテムなどを大量販売するべく、同一店内でコーディネイト相手を変えて複数ヶ所の「出前」を仕掛けるVMD手法で、売り切りにも活用される。最盛期の米国「リミテッド」の常套手段だったが、今日でも多くのアパレルチェーンで見られる。

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。

※アーバンとサバーバンとエクサバン…都市圏郊外の新興住宅地域を指す「サバーバン(suburban)」に対して都市圏内の旧住宅地域を指すのが「アーバン(urban)」。前者の典型が住居専用の一戸建て住宅地であるのに対して後者は商業地域や工業地域が近接してマンションやアパートと一戸建てが混在する再開発期の住宅地で、東京でいえば環状6号線の外側で環状8号線のちょい外辺りまでだろうか。都市圏の拡大で田畑や工場、倉庫などが混在する周辺都市近郊まで広がった住宅地が「エクサバン(exurban)」で、東京圏で言えば外環道から国道16号線辺りだろうか。

 

■ブランド商品の付加価値訴求VMD

 量販的あるいはファストなアパレルチェーンでは「棚」の陳列運用(VMD)は前述したようにパターン化されるが、エクスクルーシブな付加価値を訴求するブランドビジネスではクリエイティブな開発手法と表裏一体のMD、セレクトショップでは手持ち在庫でのインパクトあるスタイリング提案、を表現する美術的な陳列手法が見られる。その技術的洗練度によってブランドやストアの「格」が顧客に見えてしまうから、「棚」の運用(VMD)はブランディングを左右する重要な要素と認識されており、真っ当なブランドやセレクトチェーンなら美術的素養と旬のスタイリングに通じたVMDチームがオンラインのビジュアル指示や巡回指導によって全店のVMDをコントロールしている。

 ブランドのVMDはシーン毎の素材と色彩のコントラスト設計からスタイリングを組む「コレクションMD」を原点に、糸からの織り・編みと色彩で自在なスタイリングを可能とする「コンポーネンツMD」、マスキュリンとフェミニンなど対極の物性の素材による「クロス・セットアップMD」などがあり、クリエイションとMDが表裏一体となってブランドのキャラとポジションを創り上げていく。

「コレクションMD」は欧米のデザイナーズブランドやハイブランドのデフォルトとも言うべき基本で、売り場のVMDもその企画意図通りの素材と色彩のコントラストでルック回転陳列※されることが多い。「コンポーネンツMD」は独自の技法で素材と加工からアイテムと色彩をコンポーネンツ化するもので、イッセイミヤケのプリーツプリーズは世界に広がり、近年ではコンピュータプログラミング・ニットコンポーネンツのCFCLが注目を集めている。「クロス・セットアップMD」はキャリア女性のビジネス〜オケイジョンの着回しをクロス・セットアップ設計するもので、「2セットで4ルック」を謳ったリズ・クレイボーンに始まってキャリアブランドのMDに定着している。ソリッドなテーラード/ノーカラー・セットアップとソフトなBS(ブラウス&スカートやワンピース)をベースカラーを共通させて一体企画するが、BSは合繊や再生繊維、シルクの小柄プリントか透け素材が基本だ。

これらのブランドMDはアイテムから入ってODMやOEMで単品構成する小売MD(いわゆるバイイングSPA)とは根本的に手法が異なり、売り場の陳列やECのサムネイルで一覧した構成美は格段の差があるから、当然に価格が通りやすい。インフレ局面で価格を上げていくには「単品MD」を「定型ルック」や「モノルック」のVMDで演出しても限界があり、素材と色彩のコントラストから組み立てるブランドMDの手法を取り入れる必要がある。

※ルック回転陳列・・・・隣接するアイテムが悉くルックになるように素材や色彩、フィットや丈をコントラストさせながら連続するハンガー陳列で、美術的感性と旬のスタイリングセンスを要する。

 

■セレクトショップで発達した「ルック回転陳列」

 セレクトショップはシーズン前の展示会発注によるセレクト仕入れ品を中心とした独自の品揃えで陳列・販売する小売店だから、期中の色・サイズの補給は限られ、色・サイズが欠けたバラ残品状態で売り切っていく陳列と販売のスキルが必要だ。バラ残品状態を補完するには継続販売の定番オリジナル(とりわけサイズ展開のパンツやスカート)が不可欠で、最低でも2〜3割を継続定番オリジナルでカバーしないとセレクト仕入れ品を売り切るのは難しい。

 一般の「単品MD」でも色・サイズが欠けてくると如実に売れ行きが鈍るから、販売力のある店舗に集約して色・サイズが揃った状態に戻して売り切ったり、色欠けたら色別に(ニットやカット)、サイズ欠けたらサイズ別に(スカートやパンツ)類似商品を編集陳列して売り切っていく消化促進陳列技法がある。セレクトショップではシーズン初めの一時期を除けば色・サイズが欠けたバラ残品状態が常態だから、それをカバーして売り切っていくスタイリング提案型の編集陳列技術が問われる。一般にどう呼ばれるかは知らないが、私は「色環配列ルック回転陳列」と名付けている。

 手持ち在庫の中から、旬の魅力があって多少は在庫に奥行きのあるアイテムをピックアップし、そのアイテムの各色を核にコーディネイトするアイテムをルック回転にセットして色環配列※するのが基本だ。「多少は在庫に奥行きのある」と規定したのは、核アイテムが売れて仕舞えば陳列の仕掛けが崩れて売れ行きが止まってしまうからで、核となるアイテムは必ず在庫のある(補給できる)品番を選ぶ必要がある。セレクトショップでもフリークスストアやビームスはルックの核となるアイテムをオリジナルの継続定番(PUブルゾンや紺ブレ)で用意するから、VMDの仕掛けを長く継続できている。

 セレクトショップでなくてもこの「色環配列ルック回転陳列」は有効だが、手持ち在庫からインパクトあるルック回転を仕掛けるには相当の美術的素養とスタイリング提案力が必要で、商品単価が相応に高くないと優秀な現場人材の報酬とは釣り合わない。量販的なチェーンやカジュアルチェーンでは、オンライン指示やマニュアルで誰でもセット出来る単品集積VMDや定型ルックVMDを定着させる方が現実的だろう。

※色環配列・・・・起点色と向きはシーズンやトレンドによるが、色環表の配列構造に沿って美術的に配列する技法。

 

■どうしたらVMDスキルを現場に定着させられるか

 ビジュアルな本部指示は月次にとどまることが多く(週次は店舗による在庫状況や販売状況でズレが生じがち)、各店舗をVMD担当者が一巡するのも一月は掛かるから、その間に売り切れたり新規の投入があったりして在庫は入れ替わり、VMD担当者がセットしたVMDは崩れてしまう。欧米のラグジュアリーブランドなど本国のVMDチームが全世界の店舗を一巡するのはシーズンに一回だから、セット直後はキラキラ輝いても時間が過ぎれば悲しいほどに崩れていく。

 ならば各店舗のスタッフに陳列技術を教育して、崩れたVMDを新たな在庫で再構築させる体制にすれば良いと思うが、欧米では専門的スキルは個人に属する有償の(待遇に直結する)職能であって、現場のワーカーに技術移転するという発想は微塵も無い。そんな中世ギルド来の職業階級感覚が無い我が国では、VMDスキルを体系化して教育すれば現場に運用技術を移植することは可能だが、待遇が劣悪で退職が多かったり、店舗はキャリアの初期に通過するだけで人材が定着しなければ、絵に描いた餅で終わってしまう。

現場のVMDは季節のスタイリングやトレンドと在庫の流れを営業的に判断して構築する必要があるから、営業的センスと美術的センス、スタイリングセンスを兼ね備えた指導者から毎月の店頭で実地指導を受け、最低でも3周(3年)しないとマスターは難しい。VMDを教える立場としては、時間をかけて育成した人材が次々に退職したりキャリアアップして店舗を離れ2〜3年で入れ替わってしまうと、ザルに水を注いでいるような虚無感に襲われる。

現場に人材が定着してこそVMDスキルも定着するのであり、結局は『マネジメントの質は棚(VMD)に表れる』ひいては『ガバナンスの質は棚(VMD)に表れる』というのが真実なのだ。

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