小島健輔の最新論文

繊研新聞2005年10月4日付掲載
第88回全国有力SCテナント調査2005夏商戦
『新潮流に商機を賭けよ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

バブル期来の活況を呈した夏商戦

 今夏商戦(5〜7月)は景気回復の順風に乗って久方ぶりの活況を呈し、春商戦対比でも昨夏商戦対比でも大幅な伸びを見せた。百貨店婦人服・洋品は101.0と01年冬期以来14四半期ぶり、クールビスにも後押しされた同紳士服・洋品は101.8と97年春期以来33四半期ぶりに浮上した。レディスブランド/ストアも103.4と8四半期ぶりに浮上し、メンズブランド/ストアは107.1とバブル期真最中の89年春期以来の高水準を記録した。
 産業素材市況は原油価格の高騰も加わって加速度的に上昇を続けており、企業収益もバブル期の水準を超えて過去最高の水準に達している(財務省法人企業統計)。消費者物価も04年第4四半期以降、ゆるやかな上昇に転じ、人件費も既に上昇に転じている。04年のサラリーマン世帯実収入は7年ぶりに増加に転じ(1.5%増)、今夏のボーナスも3.3%増と3年連続して増加した。大半の企業は既にリストラ局面を脱して労働力不足への対応を迫られており、人件費抑制よりも人材確保優先に転じている。ファッション業界でも第一線若年層を中心に労働需給の逼迫が加速しており、中でも企画系専門職の給与水準は大幅な上昇を見せている。
 ファッション/流通業界もプアピープルを拡大再生産するコストカッタービジネスからハッピーピープルを拡大再生産するヒューマンビジネスへ、戦略と経営体質を抜本転換すべき刻を迎えている。縮小均衡のスパイラルを脱して付加価値の拡大再生産というファッションビジネスの本質を取り戻す絶好の機会がやって来た。バブルも結構、M&Aも結構。派手なアクションが金回りに火を付ければ景気も一層、過熱して税収も増加し、財政破綻も避けられるというものだ。

キレイ目モード回帰で本格復調したレディス

 レディスでは前回から13ブランドが脱落したが新たに73ブランドが加わり、好調組は60から120へ倍増した。
 ヤングのストア系は勢いを取り戻したものの(好調組が前回の7から13に)、ブランド系は一部の回復に留まった(同6から9)。ストリートカジュアルでは“キャンツー”“アズノゥアズ”が、クリエイティブキャラクターでも“スナオ・クワハラ”が好調組に加わった。カジュアルストア/SPAでは、ナチュラル系カジュアルストアの“ローリーズファーム”“SM2”“リタ&エマ”が、ストリート系カジュアルストアでは“イン&アウト”が、自社ブランドミックス編集SPAでも“テチチ”“ラボラトリーワーク”が加わった。キャラクター編集ストアの“フレーバー”、ゴスロリキャラクターの“PEACE NOW”は絶好調を継続した。
 セクシーガールではトレンドキャラクターの好調/ロコガールキャラクターの不調という構図は変わらず、好調組も増えなかった。ロコガールキャラクターの好調組は“ローズファンファン”のみに対し、トレンドキャラクターでは絶好調継続の“ラブガールズ・マーケット”“LB−03”、好調継続の“ラブボート”“アナップ”に“ナバーナ”が加わった。ストリートモードの“スライ”も絶好調を継続。総じてモードシフトが顕著で、グラマラス旋風もニキータ層へ通り抜けた。
 ワーキングガールは大きく回復し、好調組も13〜26と倍増。スタイリッシュエレガンスキャラクターでは“アプワイザー・リッシェ”“ルスーク・プリ”、フェミニンモードキャラクターでは“Dグレース”“ロペ”、ナチュラルキャラクターでは“ダックスE1”、トレンディキャラクターでは“グレース”、エレガンスキャラクターでは“リュー・デ・ベー”が加わった。OL系エレガンスストアでは“ピンカール”“ザジ”、OL系パーツストアでは“ルベール”“ネット・デ・マミーナ”、キャラクター編集ストアでは“プーラ・フリーム”“ジネス”、トレンディミックスストアでは“インデックス”が好調組に加わった。ようやくSPA化が実ったナショナルチェーンの復活が特筆される。
 インターナショナルクリエーターでも“ブルーガール”“シー・バイ・クロエ”“ヴァネッサ・ブリューノ”“ジル・スチュアート”“シンシア・ローリー”、ジーニングでは“ディーゼル”“ジューシー・クチュール”“アール・ジーン”、セレクトショップでは“トゥモローランド”“シップス”“フリーズショップ”が好調組に加わった。ストア型SPAでは“アンラシーネ”急伸が目立った。
 トランスキャリアでは好調組が3から13に急増。新たにフェミニンモードキャラクターの“ヴォイスメール”“ストロベリー・フィールズ”、トレンディキャラクターの“プリマ・アトリーチェ”、ベーシックエレガンスの“エフデ”“アンタイトル”、スタイリッシュエレガンスの“マテリア”“Mプルミエ”“ボッシュ”、キャラクターパーツの“ナラ・カミーチェ”“エーズラビット”が加わった。
 ミッシーでも好調組が1から4に急増。好調継続の“ノーリーズ”に“デ・プレ”“ギャバジンKT”“リヨン”が加わった。キャリアでも好調組が5から10に倍増。新たに“スポーツマックス”“モンテアズール”“DKNY”“コムデ・ギャルソン”“ロープド・シャンブル”などが加わった。ミセスでも好調組が2から8に急増。新たに“Kofクリツィア”“エアパペル”“リフレクト”“ジェラールダレル”“ハート”“スウィング・スウィング”などが加わった。プレタでも“ティテ”“ユキ・トリイ”が加わった。
 ラグジュアリープレタでは“ジル・サンダー”が絶好調を継続。“エトロ”“ジョルジォ・アルマーニ”“レ・コパン”が新たに加わったが好調ブランド数は変わらなかった。ラグジュアリーグッズのバッグ/シューズ系では“ボッテガ・ヴェネタ”が絶好調を“ロエベ”も好調を継続。“コーチ”も好調に再加速した。

お兄系とモード回帰で加速したメンズ

 メンズでは前回から6ブランドが脱落したが新たに16ブランドが加わり、好調組は32から42へ増加した。レディスに較べて好調組の増加率が低いのは昨夏商戦から先行して回復に転じていた為で、売上伸び率はレディスより高い。
 ヤング〜ヤングアダルトでは「お兄系」フィットが広がってアメカジ系が壊滅。ヤングではストリートカジュアルとベーシックキャラクター、ヤングアダルトではスタイリッシュキャラクター、ホストキャラクターが好調だった。ヤングでは“シュリセル”“ルパート”、ヤングアダルトでは“EZbyゼニア”“AAR”“マーガレット・ハウエル”“デザインワークス”“ボナ・ジョルナータ”が好調組に加わった。クリエーターズ、グローバルカジュアルでは好調組の顔ぶれは変わらなかった。
 コンテンポラリーではスタイリッシュキャラクー、ブリッジキャラクターが好調。“セオリー・メン”が減速する一方、“ヒューゴ・ボス”“CKカルバンクライン”が好調組に加わった。アダルトではユーロトラッドカジュアルが好調で、“エレメント・オブ・シンプルライフ”“インターメッツォ”が好調組に加わった。ビジネスは水面まで回復したが、好調ブランドは見られなかった。プレステージではコンサバエレガンスプレタが好調で、“エトロ”“ランバン”が好調組に加わった。
 品揃えは水面を回復するに留まって好調組は皆無。SPAではファミリーキャラクター、アウトドアが好調で、“ハイダウェイ”“グリーンレーベル・リラクシング”、クロージングSPAの“ザ・スーパースーツストア”が好調組に加わった。セレクトショップの好調組は前回と変化なかったが、“シップス”“ユナイテッドアローズ”の健闘が目立った。前回、「セレクト各社はこだわりとトレンドの狭間で方向性を見失っている」と指摘したが、今回は「モード回帰トレンドにこだわりを乗せて活力を取り戻した」と総括したい。

量から質へ潮目は変わった

 潮目は既に変わり、加速度的に拡がって行く。景気回復と世界的なモード回帰(キレイ目上質志向/スリム志向)に加え、あれほど燃え盛った郊外大型SC開発ラッシュも07年末でいったん頓挫する。衆院選での自民党圧勝で“コンパクトシティ”(自治体の行政コストを抑制し地方都市を再生する)をテーゼとする「まちづくり三法」改正案の国会通過が決定的となったからだ。そのキーは都市計画法のゾーニング規制強化に他ならない。
 都市スプロール化で行政コスト増大を招く郊外大型商業施設開発を規制し、コンパクトで行政コストの小さい個性溢れる街を再生せんとする社会運動が背景で、規制緩和同様、米国から発したものだ。恐らくは来春の国会で法案が成立して来年度中にも施行され、駆け込み開設ラッシュの後、開発は急減する事になる。
 都心商業の空洞化にもようやく歯止めがかかり、景気回復とモード回帰もあって百貨店に顧客が帰ってくる。量販店やSCデベロッパーは発展チャンスを抑制されるが、既に開設した商業施設は大きな既得利権となる。都心商業は新増設ラッシュを迎え、百貨店や駅ビルがアップスケール化(高質化/高感度化/大型化)を競うに違いない。
 既存の郊外大型SCは都心商業の活性化に対抗すべく、テナントはもちろん核店舗の入れ替え/新規導入をも断行し(増床規制は強化されない)、リストラと都心店の活性化で出店余力が出来た百貨店もそれに応えるだろう。90年代の米国においてノードストロムがそのような招聘を受けて既存SCに進出していったように、大型SC開設ラッシュと交代するように百貨店の郊外進出が加速するというパラドックスが起こるはずだ。
 これら新潮流の中でコストカッタービジネスは行き場を失い、ヒューマンビジネスがバブルの華を咲かせる事になる。咲いた華はいつか散るが、そんな事を心配していては事業機会は過ぎ去ってしまう。縮小均衡のいじいじした日々を過ごすぐらいならチャンスに賭けるのが商売人というものだろう。正しく千載一遇の機会が到来したのだ。

sk0510

論文バックナンバーリスト