小島健輔の最新論文

マネー現代
『アパレル「大量の売れ残り」はどこへ消えるのか…その意外すぎる「現実」』
(2020年06月25日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

アパレル外衣の需給バランスと中古衣料の輸出送料推移

「過半が売れ残る」ことが常態化

直近19年には98%を占める輸入品とわずか2%にすぎない国内生産品を合わせて28億4600万点のアパレル商品が供給されたが、国民の総消費数量(外国人旅行者消費は含まず)はセール品も含めて13億7300万点と48.2%に留まった。

90年には11億9600万点が供給されて11億5400万点が購入されていたから、期末セールなども合わせて96.5%が消化され、売れ残る商品はわずか3.5%(4200万点)に過ぎなかった。

当時はまだ国内生産品が52.1%とかろうじて過半を占めていたが、バブル崩壊以降のデフレの急進で衣料品の購入単価も92年をピークに年々下がり続け、リーマン後の2010年には92年の64.2%まで落ちた(19年では66.8%)。

デフレとともに高コストな国内生産から低コストな中国生産へのシフトが進み、91年には早くも輸入浸透率が52.1%と過半を超え、00年には86.4%に達して国内の衣料産地はほぼ壊滅した。近年は中国のコスト高騰から南アジアへの生産地シフトが進み、19年の輸入浸透率は98%に達した。

低コストを求めての海外シフトは生産ロットを拡大させ、アパレルの供給量は年々増えて00年には23億500万点と20億点の大台を超えたが、消費数量は12億5300万点に留まって消化率は54.3%に急落。以降も供給数量は増え続けたが消費数量は伸びず、2015年以降は過半が売れ残る異常事態が定着している

90年から19年まで消費数量は19%しか伸びなかったのに業界の供給数量は138%(2.38倍)も増えたのだから、過半が売れ残るのは必定だった。

どうしてそんな無茶が続けられたのか幾つも要因が挙げられるが、値引きロスや売れ残りが増えた分、利益を確保するため生産原価率を切り下げてきたことは間違いない。SPAと言われる業界で7掛け弱、百貨店アパレルでは半分近くまで切り下げられたのだから、お買い得感が損なわれ、ますます売れ残るという泥沼に陥ったのも必然だった。

売れ残り在庫はどこに行ったのか

では売れ残った大量の在庫(19年の場合14億7300万点)はどこに行ったのだろうか。

一般には廃棄処分や中古衣料としての捨て値輸出が注目されるが、それは最終的な処分だ。

売れ残り在庫はまず、持ち越して来シーズンに販売されることが多い。

持ち越すのは「3年が限界」

紳士服業界などシーズン中にはセールを繰り返しても7割弱しか消化できず、来シーズンに持ち越して新作と合わせて販売する業界慣習が定着している。まるで鰻のタレのような話だが、事実だから仕方がない。

ベーシックな商品では珍しいことではなく、大躍進しているワークマンも「定番品は10年継続」を謳ってEDLP(常時低価格販売)に徹し、売れ残り品は来シーズンに持ち越すから、値引きロスは年間売上の1.2%に過ぎない。

そうは言っても、何年も持ち越すと物的に損耗してしまうし、価値が落ちる一方で倉庫代が嵩んでいくから、資金繰りが苦しくなると処分せざるを得なくなる。ベーシックな商品でもアパレルは3年でフィットが変わるから持ち越すのは3年が限界で、ファッション性が強い商品は持ち越しても売れる見込みが薄いから早々に叩き売るしかない。

アパレル業界が儲かっていた往時には、ブランドイメージの毀損を恐れて焼却処分することも多かったが、いまや資金繰りにも窮するアパレル業界にはそんな余裕はなく、少しでも資金を回収すべく二次流通業者(バッタ屋さん)に放出する

その買取相場はシーズン初期なら生産原価の半分ほどだが、セール時期になるとその半分、持ち越すとさらに半分になる。今回のコロナ休業では二次流通業界の買い取り資金が追いつかないほど大量に放出されたから、相場はさらに切り下がったと聞いている。

二次流通業者が引き取った在庫は、ブランド側の希望でタグや値札を切り取ったり(付け替える場合もあるが作業賃が高くつく)、あるいは来シーズンまで寝かせてから、販路を海外やローカルに限定して再販される

国内ではディスカウントストアやホームセンターなどが主な再販先だが、最近はブランド再販専門のオフプライスストアも台頭し、地方百貨店などが催事用に仕入れるケースも増えている。どれだけ値引きされても、これらは未使用の「旧新品」であり、仕入れや販売に古物商免許を要する「中古品」とは異なる。

それでも行き場がなくなった「旧新品」や傷んで転売が難しくなった「中古品」は中古衣料として主にマレーシアなどのアジアに輸出され、多くはウエス(手入れ用の雑巾)になったり繊維原料として分別再生される。その価格は19年で1kgわずか39.8円だった。

アパレルの在庫はどこに積まれているのか

一般の消費者がアパレル商品を購入するのは店舗かECだが、店舗に積まれているのは在庫の一部でしかない。国内の倉庫や海外生産地の倉庫にも大量の在庫が積まれているのだ。

「無印良品」の良品計画は決算説明のデータブックで在庫の置き場所を開示しているが、直近20年2月期の単体決算では店舗に33%、倉庫に67%だった。連結決算では棚卸し在庫が1.92倍に増えるが、海外売上に見合う分を差し引いて生産子会社が国内向けに抱えている在庫を算出すると1.40倍になる。

ゆえに日本国内向け在庫の配備は店舗に23.6%、国内倉庫に47.9%、生産地倉庫に28.5%と算出できる。

国内ユニクロは18年8月期で店舗に41.4%、国内倉庫に58.6%のバランスで配備していたと推計されるが、良品計画と同じ生産地在庫比率と仮定すれば、店舗に29.6%、国内倉庫に41.9%、生産地倉庫に28.5%と推計できる。

アパレル商品はロットが大きくなると生産仕掛かりから販売まで半年から一年近くを要するから、大量生産した在庫をシーズン直前に国内倉庫に移送するまで、コストが格段に安い生産地倉庫に保管する必要がある。

SPAと言われる両社だが、良品計画は生産子会社に、国内ユニクロは商社に生産地在庫を抱えさせている。中小のSPAやアパレルメーカーは専門商社やOEM業者にその役割を担わせており、コロナ危機では大量の未引き取りが発生した。そんな未引き取り商品は来シーズン、素知らぬ顔で新作品として店舗やECに投入されることになるのだろう。

これら生産地に抱えた在庫まで含めると、国内需要の倍どころではない数量が国内向けに生産されているのが実情で、過剰在庫は生産地からドミノ倒しに積み上がっており、超法規的あるいは超自然的カタルシスによるしか、その解消は不可能なところまで来ていた。そこに起きたコロナ危機という大厄災が、期せずしてこの情況を一掃するかもしれない。

もはや「正価」など有名無実

コロナ休業で二ヶ月近く売上が激減し、多くのアパレル企業が行き場を失った在庫の換金を急ぐ中、営業再開と同時にセールに入るブランドも多く、百貨店や駅ビルなど館側も今夏は統一セールを見送り、各ブランドの懐事情によるセール展開を容認している。

休業期間中もECでは5割引どころか7割引も珍しくないほど叩き売り状態になっていたから、もはや業界はセール時期の適正化や正価販売の堅持を掲げるどころではなくなっている。

これまではブランドイメージにこだわってセール時期を遅らせたり、二次流通業者への放出も拒否してきたブランドも背に腹は変えられず、セールを早め二次流通に大量放出しているから、もはや「正価」販売という建前は風前の灯と化している。

コロナ危機を契機にアパレル業界の過剰供給が多少は是正されるにしても、長年の過剰供給で流通在庫も消費者のタンス在庫も積み上がっており、新規商品は流通在庫や中古品という自ら作り出したゾンビたちと価値と価格を張り合わねばならない。格段に割安なゾンビ商品が溢れる中、「正価」など有名無実と化していくのだろう。

論文バックナンバーリスト